家族に介護が必要になったとき。あなたはどうしますか? 自宅介護か、施設に入所か、お金はどうかなど、考えるべきこと、するべきことがいろいろあり、時間も待ったなしです。そうした状況を助けてくれるのが、「育児・介護休業法」。制度の内容や、いざというときに気を付けるべきポイントを解説します。
公園で車椅子を押す若い女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/itakayuki)

要介護者1人につき、通算93日の介護休業がとれる

家族に介護が必要になったとき、「介護離職という言葉が頭をかすめた」という人も少なくありません。そのような場面に身をおいたときに思い出してほしいのが、「育児・介護休業法」。介護離職を防ぐ目的から、親などの介護が必要になった場合、仕事を休んだり、勤務時間を短くしたりして、介護と仕事を両立させるために設けられたものです。

大きな柱は、休業や勤務体制と、賃金です。

休業については、「介護休業」という制度が設けられています。

介護が必要になった人(要介護者)1人につき、通算93日まで休業できるというもので、計93日の範囲内で、3回までに分けて取得できます。

93日では足りないと思うかもしれませんが、介護休業は実際に介護するための休業というより、介護の態勢を整えるための休業、という意味合いがあります。

介護をするには、ケアマネージャーと面談する、利用する介護サービスについて検討する、施設に入所するために施設を探す、選ぶなど、最初の手続きが必要ですし、実際に利用をはじめて本人の反応をみる、必要に応じてサービスの変更を検討する、といった手直しも必要です。そうしたことのために、介護休業を使う、というわけです。

介護休業は、1年以上勤務している(雇用保険に加入している)などの条件を満たせば利用できます。

自身の父母だけでなく、配偶者(事実婚を含む)や配偶者の父母などに介護が必要になるケースもありますが、そのいずれも対象になりますし、兄弟姉妹や孫が要介護になった場合も、介護休業を取得できます。ただし、祖父母、兄弟姉妹、孫については、同居かつ扶養していることが条件です。

年間5日の「介護休暇」や勤務時間の調整も可能

月に1度の通院に付き添いたい、毎月のケアマネージャーとの面談に同席したい、といった場合に助かるのが、「介護休暇」です。これは1年に5日まで、半日単位でも取得できます。

そのほか、育児・介護休業法では、①所定労働時間の短縮、②フレックスタイム、③始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ、④介護サービス費用の助成、といったメニューがあり、雇用主はいずれか1つを会社の制度として定めることが義務付けられています。さらに介護が終わるまで、希望すれば残業が免除される制度も新設されています。自宅介護をしていて、日中はデイサービスや訪問介護のサービスを利用する、といったケースでは、残業がないことはかなり安心できると思います。

介護でキャリアに傷がつく心配を払拭

キャリア志向の女性にとっては、介護が昇進などに影響しないかも気になりますが、育児・介護休業法では、そうした点のフォローも考えられています。

介護休業や介護休暇を取得したり、時短などを選択したりした場合でも、解雇や降格、不利益な配置変更、減給、不利益な評価など、不利益な取り扱いをすることを違法としているのです。事業主に対し、「上司や同僚などが職場において、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とする就業環境を害する行為をすることがないよう防止措置を講じなければならない」、という防止措置義務も定められています。

介護の必要が生じた場合はもちろんですが、働く女性として、リーダーや管理職の役割を担っている人は、こうした制度や義務があることをしっかり把握しておくことが求められます。

介護休業中、賃金の67%か80%は確保できる

お金についても支援があります。介護休業を取得した場合は、雇用保険から「介護休業給付金」が給付されます。

金額は「賃金(日額)×休業日数(最大93日)×67%」で計算されます。ただし勤務先から賃金が13%超支払われる場合は賃金の80%相当額と、支払われる賃金との差額が支給される額となります。さらに賃金の80%以上が支払われる場合は、給付金の支給はありません。

介護給付金は、介護休業を開始した日の前2年間に、12カ月以上雇用保険に加入していること、1年以上雇用が継続していることが条件ですから、1年以上勤務している会社員ならほとんどが対象になります。パート勤務の人でも条件を満たす場合がありますから、勤務先に確認してみましょう。

なお、育児休業では厚生年金や健康保険の保険料免除がありますが、介護休業についてそれらの免除はありません。

ここでポイントになるのが、誰が介護休業するか、です。例えば夫が会社員、妻は雇用保険に加入していない自営業、といったカップルの場合、妻は介護給付金が受けられません。それなら、介護休業が取得でき、介護休業給付金の給付が受けられる会社員の夫が休業した方が、経済的にメリットが大きい可能性もあるのです。

介護離職はお金の面でも避けたい

介護給付金があるとはいえ、収入が減るのは好ましくありません。しかし、ここで知っておいてほしいのは、「介護離職をするよりは、間違いなく家計への影響は抑えられる」ということです。

介護離職すれば収入がなくなりますし、厚生年金から国民年金に移行して将来の年金が少なくなるといった影響も生じます。シングルの人が介護離職した場合、親の年金で生活できたとしても、親が亡くなれば年金の支給もなくなります。もちろん、再就職することは可能だと思いますが、できれば、仕事を続けながら、介護を両立させる方法を考えるのが望ましいと言えます。

仕事は続けてサービスにお金を払うという選択肢も

とはいえ、誰かが介護にあたらなければ……、と思い詰めてしまいがちですし、自分がみてあげたいと考える人もいるでしょう。

まずは落ち着いて、公的介護保険のサービスの利用を検討しましょう。受けられるサービスの内容や限度額は要介護度によって異なりますが、限度内であれば自己負担は所得により1~3割です。限度額内では足りないという場合には、全額自己負担のサービスもあります。

費用は介護を必要とする本人が負担するのが原則ですが、親では負担しきれない場合、子が無理をして負担する、負担できないから介護離職して介護する、というのは避けたいところです。介護休業をしてケアマネージャーや兄弟姉妹で話し合う、近くに住む親せきや近所の人にも力を借りるなど、あらゆる方法を考えましょう。サービスの利用料を負担しても、長い目で考えると、介護離職をするよりは合理的な選択になる可能性が高いと考えられます。

家族が遠くで暮らしている場合は仕事を辞めざるを得ないと思いがちですが、どんな方法があるか、家族が元気なうちに話し合っておくことが大切です。東京で働いていた人が、地方で暮らすご両親の介護が必要になり、地方で仕事をみつけて転職した、という例もあります。ご自身の場合はどんな方法があるか、事前に考えてみましょう。

休業できる、休業しても不利益にならないように定められている、給付もあるなど、ここまで法律で定められているのは、介護離職する人を減らしたい、というメッセージです。まずは利用できる制度を知って、少し休業して、落ち着いて考えてくださいね。