安全な食生活の裏に潜む、大量の食品ロス
まだ使えるものを捨てるのはもったいない。無駄なお金を使うのはもったいない。食べものを残すのはもったいない――。
私たちの日常には、この「もったいない」という言葉と精神が、幼い頃から当たり前のように存在してきた。それが実は日本人特有のものだと知ったのは、ケニア出身でノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが、“MOTTAINAI”を世界の環境保全の合言葉として取り上げたときだろうか。
2020年8月8日から公開されたドキュメンタリー映画『もったいないキッチン』は、オーストリア出身の映画監督で食材救出人のダーヴィド・グロス氏が、日本中を旅しながら食品ロスの現状やその解決法を模索するロードムービー。捨てられるはずの食材をおいしい食事に生まれ変わらせるキッチンカーが相棒だ。
先に挙げた“もったいない”精神がありながら、わが国の食品ロスは年間約643万トン。これは世界でも(うれしくないほうの)トップクラスであり、一家庭に換算すると年間6万円分のまだ食べられる食材が捨てられている計算になる。
映画の中ではダーヴィドと旅のパートナーのニキが大手コンビニの舞台裏や廃棄工場などを直撃し、私たちの知ろうとしないところで食材が無駄に捨てられている現実にフォーカスすることとなる。いつでも安全な食品が手に入り、売り切れや供給不足などがめったに起こらない――ぜいたくで豊かさに溢れたわれわれの生活は、大量の犠牲や濫費の上に成り立っていることを思い知るのだ。
しかしながらこの映画の魅力は、そんな不毛な現実もダーヴィドとニキの軽快なリポートにより、興味深く観ることができるという点。そして同時に普段見ることのないリアルな食品ロスの現場を知ることができ、まだ食べられる食材を捨てなければならない疑問について、私たちの意識をガラリと変えてくれるきっかけになる点だ。
“もったいない”は世界を救う
堅苦しいドキュメントでは観ることのない、ふたりの率直なリポートがメインの前半に対し、旅の後半は、食材を救うさまざまなアイデアをもつ人々との出会いから多くの学びを得る。普段はあたりまえに捨てられてしまう野菜の可食部を使った料理をふるまうシェフから、自然の恵みに感謝し「野山が食料庫」だと言いきる82歳のおばちゃんまで、バラエティに富んだ面々から発せられる言葉は、私たちの“当たり前”の食生活に疑問を投げかけるものばかりだ。
一方で、食への考え方が一新する僧侶の話に触れ、新たな解決法に出会い、さらには地産地消の大切さを知ることで、今度は本来の食の楽しみや大切さを再確認することができる。それは、私たち日本人の精神に標準装備されている“もったいない”が、サステナブルな社会をつくる大切な要素となっていることをあらわしている。
作品中に出てくる「廃棄されるはずだった食材でつくる料理」や、「持続可能な未来を明るく照らす革新的なレシピ」、また「今注目の昆虫食」は、きっと食品ロス問題の解決に直結するはず。そして日本人のもったいない精神もまた、世界を救う行動につながるということを、スクリーンのなかの美食体験とともに確信することになるだろう。
食材や、もののひとつひとつにいのちがあり、それを大切にしようという思いが込められている言葉“もったいない”。食べきれるだけの食材を購入すること。それを大切に食べること。自らで考え、行動すること――。世界中からの“もったいない”の逆輸入によって、私たちはいま一度、毎日の生活でできることを考えなければならない。
(予告編)