2019年10月の「即位礼正殿の儀」において、わが国のファーストレディの服装に批判の声が上がった。一方、皇后となられた雅子妃のファッションや立ち居振る舞いは、世界中を魅了し、賞賛されている。そこで皇室のファッションをお手本に、働く女性リーダーにふさわしいドレスコードとは何か、ファッションのプロフェッショナルふたりに、そのルールと心構えについて指南してもらう。
白いハンガーにピンクの色調で婦人服
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Oleh_photographer)

役職者は歩く広告塔。「服装も戦略」と理解したい

2016年、安倍内閣により「女性活躍推進法」が施行されてから4年が経ち、管理職として活躍する女性は確実に増えている。だが今、そんな“令和の女性リーダー”たちからある悩みが挙がっているのだ。それが「ビジネスファッションに自信がない」「何を着るべきかわからない」などというもの。役職者ともなれば、最終交渉からパーティーまで役割の重要度がぐっと増す。そこでさまざまなシーンの“ドレスコード”を意識しなくてはならないのだが、そのアプローチに迷っているのだ。

「エグゼクティブは歩く会社であり、広報の役割を担っています。一挙手一投足が企業のイメージとなるので、周囲の期待に応えながら、その役を演じ切る必要がありますね」

そう語るのは、経営者たちにコンサルティングを行う大森ひとみさん。

「ドレスコードはヨーロッパ貴族のマナーとして発達しました。服装で知性と教養、そして相手への敬意を表現したのです。それは現代のビジネスにおいては戦略のひとつとなります。服装で信頼感を与えれば、企業のイメージアップや良好なコミュニケーションにもつながるでしょう。また自分を効果的に表現し、仕事人生を成功に導くためのツールとしても有効。ファッションで好感度と存在感を高めることは個人のブランディングにも結びつくのです」

また、パーソナルスタイリストの創始者、政近準子さんはこう語る。

「ドレスコードの歴史からひもといてみましょう。18世紀、フランス革命が起こり、身分格差の激しい社交界にも民主主義の風が吹き始めます。そこでまず統一されたのが服装。ドレスコードを守れば、皆同じ身分に見える。『すべての人を平等に扱い、同様にチャンスを与える』。それが事の始まりなのです」

となると日本人は、ドレスコードへの理解が浅いのかもしれない。

「恥をかかないため、失礼にあたらないためではなく、チャンスをつかむために存在するもの。まずはそう捉えてみてはいかがでしょうか」

令和皇室の女性に学ぶビジネスファッション

そこでお手本にしたいのが、令和時代の皇室の女性たち。ドレスコードを遵守しながら、美しく公務に取り組まれる姿は、ぜひ参考にしたいスタイルではないだろうか。

「雅子様のドレスの生地をご覧ください。表情ある織りの上質素材をお召しです。キャリア女性もどこかにこのような素材を取り入れて、品格と華やぎを感じさせても。また紀子様がお召しになっている、ドレープが美しいサイドボタンのジャケット。テーラードとは違う変形ジャケットは、たおやかな女性像を演出できます」(大森さん)

「令和の時代に入り、皇后となられた雅子様からは覚悟が感じられ、美しさが増しているようにお見受けします。たとえばお召しの2色の切り替えジャケット。コントラストがあり存在感が出るので、キャリア女性にもおすすめです。また、洗練された着こなしで私たちを楽しませてくれる高円宮久子様。ネックラインに沿う立ち襟デザインは縦ラインを強調する優秀アイテム。シャープに見せたい女性にぜひトライしてほしいですね」(政近さん)

いずれにしろふたりが口をそろえるのは、ビジネスパーソンがドレスコードを意識するときには“分析力”と“想像力”が必要ということ。

「いつ、どこで、どの時間帯に、どんな業界のどんな役職の人が何のために集まる会なのか。徹底的に“分析”すれば、おのずと着るべきものが見えてくるはずです」(大森さん)

「さらに自分の役割を“想像”しましょう。主役を張るのか、引き立てるのか、裏方に回るのか。立ち位置を理解した服装こそが、自分の価値を上げてくれるのです」(政近さん)

風格とセンスが光る、シーン別ドレスコード

役職者がビジネスファッションで意識すべきことを学んだあとは、識者ふたりがシーン別のコーディネートについて、じっくりと指南。知りたかったあれこれから、意外な事実まで、ファッションプロの視点で解説!

1.ビジネスディナー

髪の毛はすっきりまとめて、上半身にポイントを

「ビジネスシーンの会食ともなれば、格式ある場所であることも多い。まずレストランのドレスコードを確認することから始めましょう。基本はビジネススーツで。デザイン襟のジャケットなど上半身にポイントがあるアイテムも場を華やかに盛り上げます。お座敷の可能性を考え、スカートならやや長め丈を、やむなくパンツの場合はしなやかな素材を選ぶのも大切。ヘアスタイルは食事の邪魔にならない、まとめ髪がベストです」(大森さん)

ボウタイなど、上品ブラウスをキーアイテムに

「一緒に食事をする相手、さらにお店への敬意を表した服装を心がけるのは基本中の基本。スーツをベースに、セットアップ、ワンピースも可。昼間とは違うエレガントな雰囲気を演出してくれるスカーフやブローチはもちろん、ボウタイブラウスなどの表情あるエレガントトップスは、ジャケットを脱いだ際に程よく注目を集めるのでおすすめです。靴を脱ぐことを考慮に入れて、ストッキングはマスト。素足はあり得ません」(政近さん)

ビジネスディナー/祝賀パーティーの服装
イラスト=Takako、以下すべて同じ

2.祝賀パーティー

リトルブラックドレスで、品のよい華やぎを

「キャリア女性ならば、お祝いの気持ちを表現するのにふさわしいリトルブラックドレスを1着用意しておくといいでしょう。役職者ならば落ち感のあるシルエットで、襟元や袖にさりげないデザインが施されているものがおすすめ。立食の場合は、両手が空くストラップつきの小ぶりなバッグが重宝します。アクセサリーで輝きを足し、メイクもていねいに仕上げること。品のよさと華やぎ、両方を演出することが大切です」(大森さん)

落ち着きのあるスタイルで、格式を意識して

「役職者のパーティースタイルは、『目立つのではなく引き立つ』『派手ではなく似合う』という視点が大切。大人の余裕を感じさせるシルエットのきれいなワンピーススタイル、もしくは襟にサテン生地を使ったショールカラージャケットなどで格式を感じさせるパンツスタイルも素敵です。そこにジュエリーで華を出すと大人の風格が出ます。ちなみに主催者側ならば、高級すぎる時計やジュエリーは避けたほうがベター」(政近さん)

3.イブニングパーティー

自信あふれる振る舞いが、美しく見せるコツ

「海外のゲストも多く集まるイブニングパーティーは、マキシ丈のロングドレスが基本。デコルテが上品に開いたデザインを堂々と着こなすことは国際的なビジネスパーソンのたしなみでもあります。メイクは強く、華やかに。髪に手を触れるのは男性を誘う行為と勘違いされることも。目元、耳元、襟元にかからないように美しくまとめましょう。さまざまな価値観の人々が集まる場こそ、周囲への配慮と教養が必要に」(大森さん)

日本人らしい色使いが、こなれた雰囲気に

「華やぎがモットーのイブニングドレスは、ぜひ深みのあるカラーを選びましょう。その際、臙脂えんじ色やあかね色、うぐいす色など日本の伝統色からセレクトすると肌なじみがよく、会話のきっかけになることも。レース素材やアシンメトリーデザインも女性を美しく見せてくれます。またドレスで大事なのは、開いた部分のカッティング。デコルテや背中を美しく見せる、アクセサリーやヘアとのボリュームバランスも熟考して」(政近さん)

イブニングパーティー/ウエディングパーティーの服装

4.ウエディングパーティー

ロング丈のアンサンブルドレスで風格を

「役職者ともなれば、部下の結婚式やウエディングパーティーに呼ばれることも少なくないのでは。その場合は、ロング丈のアンサンブルドレスがおすすめです。色は深いネイビーやベージュなど、悪目立ちしない品のよい色みを選びましょう。靴はサテンやエナメルなどツヤのあるものや、ヌバックなど質感のあるものもOK。クラッチバッグ、キャビアバッグなど、小さめのバッグが品性を醸し出します」(大森さん)

シルクタフタなど、上質素材が信頼感を演出

「新郎新婦の上司として出席するならば、醸し出すべきは格式の高さと信頼感。若い女性たちのスタイルとは一線を画すことが重要です。たとえばシックなグレーのアンサンブルドレスを。それも皇室の女性が公式行事でお召しになっているシルクタフタの生地を選べば、品のよさを演出できます。丈はふくらはぎの半ばまで隠れるミモレ丈。同色のコサージュやクラッチバッグが、さらに大人の余裕を感じさせるでしょう」(政近さん)

5.通夜・告別式

社内にダークスーツを保管するのも◎

「年齢を重ねるとお悔やみの席に出席する機会は増えるもの。失礼のないブラックフォーマルを揃えておくのは大人の常識です。マットな質感のアンサンブル、靴、バッグ。パールは必ず1連で。ストッキングはベージュも可ですが、黒がベストです。ネイルは焼香時に目立つので、落としてから伺いましょう。ちなみに、突然の通夜にも対応できるのが無地のダークスーツ。役職者として社内に置くことをおすすめします」(大森さん)

故人をしのぶスタイルが、特別なギフトに

「いつ訪れるかわからないのがご不幸。お悔やみの席を経験してきた役職者の女性なら、立場を踏まえた、常識的な服装はお持ちのことと思います。そこで王道の見識とは外れますが、『故人は何を求めているのか』を考え、時に『自分らしさを薫らせる』のも故人へのギフトと考えます。たとえば黒やネイビーのコサージュをつけてもよいでしょう。悲しみのなかで何を尽くすのか。1度考えてみてはいかがでしょうか」(政近さん)

通夜・告別式/観劇・鑑賞会の服装

6.観劇・鑑賞会

自分らしさを楽しむドレススタイルで

「海外のオペラハウスで鑑賞するのか、日本国内の劇場なのか、昼間なのか夜なのか、どのような演目か、席はどのクラスか、などで選ぶ服装は少しずつ変わってきます。いずれにしろ個性を発揮できるプリントのワンピースや、袖や裾にフリルや広がりのあるドレスなど、ビジネスシーンとは違う趣味性の高いスタイルを実践してみてください。また、パタパタと足音が鳴るので、観劇会場でミュールはNGです」(大森さん)

過剰な光り物は抑えた、シックなドレスアップを

「オペラやクラシックコンサートなど、観劇・鑑賞会に出かけるなら、エレガントさを感じさせるドレープワンピースやセットアップスタイルがおすすめです。気をつけるべきは、光り物を過剰につけないようにすること。スパンコールや過剰なアクセサリーは、ほかの鑑賞者の妨げになります。ちなみにイタリアでオペラを鑑賞する場合、紫のドレスはNG。死を連想させる縁起の悪い色として現地では避けられています」(政近さん)

Q.「パーティー用のドレスはどこで探せばいいの?」

「本格的なイブニングドレスをどこで探せばいいのか悩んでいる女性は多いですね。まずは百貨店のドレス売り場を訪ねてみてください。東京ならば伊勢丹新宿店が充実しています。お気に入りのセレクトショップがあれば、そこでイブニングドレスを扱っているか聞いてみるのも手。選ぶ際は必ず第三者を連れて行き、“好きなもの”より“似合うもの”を選ぶこと。ソーシャルな服選びの鉄則です」(大森さん)

Q.「正しいパールの選び方が知りたい!」

「パールを買うと決めたなら、信頼できるジュエリーブティックに、自分が自信を持てる“十八番おはこ”のジャケットやワンピースを着て出かけましょう。基本は1連。レングスは、その服装の襟ぐりにぴったりと沿う長さにします。玉の大きさは、体格や顔つきにもよるので、つけてみてしっくりくるものを探しましょう。実際につけ外しを試すのもポイント。扱いやすい留め具を選ぶことでストレスがなくなります」(政近さん)

大森 ひとみ
株式会社大森メソッド代表取締役社長
AICI国際イメージコンサルタント協会最高位CIM。大森メソッドアカデミー主宰。医師、弁護士などの個人顧客をもち、コンサルティングを行う。http://www.ohmori-method.co.jp/
 

政近 準子
日本のパーソナルスタイリスト創始者
有限会社ファッションレスキュー代表取締役社長。経営者ほか幅広い層のスタイリングを手がける。https://fashion-rescue.com/