長いキャリアでいつの間にか自己流になってしまったビジネスマナー。PW世代のプレジデントウーマン誌クリエーターコンビが人気の「接遇&マナー研修」に潜入し、サビついた知識をブラッシュアップ。

お仕事マナーの達人に入門。こびりついた悪癖をリセット

新人研修は遠い過去、怪しくなったお仕事マナーを学ぶべく、イラストレーターEとライターMが人気のマナー研修に参加した。目を見張ったのは講師・川上美佐子さんのたたずまいの美しさ。さすがサービスのプロ、ANAの元客室乗務員だけのこと、姿勢の良い立ち姿と柔和な笑顔が血肉になっている。思わず背筋が伸びる心地よい緊張感とともに「接遇&マナー研修」スタート!

「接遇」とは聞きなれない言葉だが、ANAグループでは「思いがけなく出会った方に対しておもてなしの心で接する」という意味で捉えている。接遇&マナーとは仕事の場面で相手に不快な思いをさせないための作法だ。相手を観察し一歩先を行く気づかいは、ある意味、節度ある「おせっかい」であり、人の心を開く攻めのスキルともいえる。

研修は、知識を与えるだけではなく演習を組み合わせたカリキュラムになっている。いつの間にか自己流になってしまうビジネスマナーを修正するには反復練習が効果的。「わかる」と「できる」は違うという意味が、やってみてよくわかった。

お仕事マナーを学ぶべく、イラストレーターEとライターMが人気のマナー研修に参加
イラスト=えのきのこ、以下すべて同じ

たとえば「おじぎ」の演習で体の角度に気を取られていたら「指先がそろっていませんね」と指摘され、思わぬ油断にギクリ。「笑顔」の演習では、イラストレーターEとライターMの不気味な笑顔が、表情筋を動かす練習で柔らかなスマイルに。表情ひとつにも、プロのテクニックがあることに感動を覚えてしまう。

スピーチを動画で撮影。他人の目で自分を検証する

ヤマ場は「第一印象」のプログラム。短いスピーチを動画撮影し、雰囲気や表情、所作や話し方・声の印象などをチェックシートで評価し合う。自分の動画を見るのは恥ずかしさの極みだが、先生はもちろん、研修に参加している経験豊かな社会人仲間から率直なコメントがもらえる、これは貴重な体験だった。「手に落ち着きがない」「目が泳いでいる」など気になる点や、「誠実な感じ」「聞きやすい声」など意外な長所を評価してもらい、反省すると同時に、知らなかった自分の強みを知る良い機会にもなった。

今さら! と思っていたが、経験を重ねているからこそ深く学べることもあるもの。そこで、接遇&マナー研修の概要を特別に公開しよう!

▼ビジネスマナーのポイント
1.常に思いやりの心で人に接する
マナーはコミュニケーションの潤滑油、相手をよく観察し、何か役に立てることはないか、という気持ちを持つべし。
2.相手に不快な思いをさせない
相手の立場に自分を置き換えて対応を選ぶ。ストレスを感じさせないよう常に一歩先の未来を読んで動くべし。
3.基本マナーを知ったうえで臨機応変に
ビジネスの場では何が起こるかわからない、時と場合によっては状況に合わせて臨機応変に行動する勇気を持つべし。

【第一印象は数秒で決まる】

チャンスは1度、しかも会って数秒で第一印象が決まってしまう。相手に不快な印象を与えないために、ビジネス仕様の身だしなみを標準装備しておくのが最低限の礼儀だ。

第一印象は見た目が6割。好感はディテールに宿る

人が初対面の印象を決める要素を調査したところ、判断材料で最も影響があるのは見た目。約6割の人が見た目で人を評価している(図1)。また脳は会ってたったの3~5秒で相手の情報を得て印象の良しあしを判断するというデータもある。逆に言えば、ある程度見た目が整えば良い印象を持ってもらえるということでもある。すべてではないが、人間関係の入り口では「見た目」に重きがある以上、自分の「身だしなみ」を検証しビジネス仕様に標準化することが肝心。

印象を決める4つの要素

業種や職種で幅はあるが、「身だしなみのポイント」で確認しておこう。項目が11もあり細かいが、人は瞬間的に予想以上にディテールを感知しているもの。そうした情報の総体が自分のイメージをつくると思うと、手は抜けない。

身だしなみのポイント

見た目の印象の上に、笑顔や挨拶のタイミングなど、マナーを踏まえた立ち居振る舞い、興味を引く会話力、状況対応力などが加算され、相手の中にトータルな人物像が形成される。仕事の場面で出会う人との良好な関係のために、日々セルフチェックしておくことが肝心だ。

印象に残る自己紹介のコツ

新人でもベテランでも初対面といえば自己紹介。所属やフルネームを述べた後の自己アピールが準備不足だと損をする。初対面の自己紹介はワンチャンス。良い印象を与えるために、名前の由来や趣味などインパクトがあるネタを入れ込んだ1分バージョン、3分バージョンなど、所要時間別のテッパンエピソードを用意しておくとよい。

【品位を高める立ち居振る舞い】

好感度は、きれいな所作を身につけることでアップする。日ごろから小さなことほど丁寧に、TPOに合わせた立ち居振る舞いを心掛けることで、ビジネスシーンにふさわしい品格が備わる。

キチンと見える所作の黄金ルール

丁寧でキビキビした所作は信頼感を高めるもの。立ち居振る舞いをグレードアップするにはディテールを意識して動くとよい。基本ルールはいくつかあるが、姿勢よく立つこと、動作は動き始めより最後をゆっくり静かに行うこと、動作はダラダラ続けず区切りをつけること、物を持つときなどは指先をそろえること、人と話すときに目線をきちんと定めることなどを心掛ける。一朝一夕に身につくことではないが、日常的に努力して習慣づけをすれば、自然と所作が整う。ベースができたうえで、シチュエーションに合わせ、伝えたい気持ちの温度感を的確に伝えられるように、ビジネス上の慣例を押さえておくとなおよし。

▼立ち居振る舞いのポイント
1. 姿勢を正しくする
2. 動作の最後をゆっくり静かに行う
3. 動作に区切りをつける
4. 指先をそろえる
5. 目線を定める
好印象を与える笑顔 スマイルトレーニング
シーンで使い分ける3種類のおじぎ
何げない行動でわかる、あなたのマナーレベル

部屋に入るとき、すぐ後ろから人が来たらどうするだろうか。その人が部屋に入りそうなら、開けたドアを押さえてその人を先に案内し、自分は後から入りドアを閉めるのが丁寧。特別に意識しない日常の何げない行動にこそマナーのレベルが出てしまうもの。通る際には、「お先にどうぞ」という意味を込めて温かなスマイルを向ける心づかいがあればパーフェクト。ドアを押さえる指の先をそろえておくことにも留意しよう。

【見直そう、ビジネスマナーの基本のキ】

社会に出て何年にもなるのに間違った対応で失礼に当たっては一大事! 必要なときに迷ったり、恥をかいたりしないように、今さら聞けない基本をこっそりチェックしておこう。

常識と思われることほど確認を。細やかな気づかいがマナーの質を高める

ビジネスマナーは、場数を踏むうちに自己流になりがち。接客や訪問時にオロオロしないように、1度確認しておこう。状況によってはルールどおりに動けないこともあるが、基本を知っていれば余裕を持てるものだ。その場合も接遇の精神で「もし自分が相手だったら、どうしてほしいか」を軸に相手の身になって臨機応変に動くこと。さらにマナーどおりでないことを、ひと言添えることで、相手を思いやる気持ちがより伝わる。

訪問時間管理の鉄則
上席の条件
紹介順クイズ

【名刺交換の正しいシナリオ】

名刺交換の目的は名前や連絡先の交換が目的ではない。これから始まるビジネスの幕開けを象徴する大事なチャンス。一瞬に近い短い時間だが、好印象を残すようマナーをしっかり頭に入れよう。

名刺交換は一期一会の勝負。分身を交換すると思って丁寧に対応する

名刺は相手の氏名や社名などが書かれた、相手の分身だと思って、両手で大事に扱う。名刺交換は胸の高さで行い、文字部分には指をかけないようにし、受け取るときもロゴや社名などに指がかからないように気をつけること。名前が読めないときにはうやむやにせず、その場で確認しよう。名刺入れは常に臨戦態勢で、いつもきれいな名刺を多めに補充し、取り出しやすい場所に携帯しておけば、急なシチュエーションでも余裕をもって対応できる。

名刺交換の正しいシナリオ/step1
名刺交換の正しいシナリオ/step2
名刺交換の正しいシナリオ/step3
名刺入れの扱い方

名刺入れの折り返し側を相手に向け、自分の名刺を相手の正面に差し出す。取りやすいように名刺の下に指を入れて浮かせると丁寧な印象に。職種にもよるが、色や素材はスーツから出して浮かないもの、黒、紺、茶が◎。明らかなブランド品は避けるのがビジネスマナーだが、名刺入れは別格として高級品でもよいとされている。定期入れや財布、手帳で代用するのはマナー違反。

美しい資料の渡し方のマナー

書類の正面を相手に向け、両手で受け取りやすい位置に差し出し、「お待たせしました」などとひと言添える。重要なのが書類の下の指先、そろっていれば手先が見えたときに丁寧な印象に。こうした気づかいは相手が取引先や上司なら意識するが、同僚や部下への対応では雑になりがちなので気をつけよう。

「水がほしい」の意味はいくつもある

人の要求には「その先」が含まれている。たとえば「水をください」と言われた場合、のどが渇いたのか、薬を飲むのか、服の汚れを落としたいのかなど、さまざまな可能性が考えられる。ビジネスの場合でも上司の指示や取引先の要望の先にはその人の目的が含まれている。背景を考え、相手を観察し、不明な点は質問をして目的を突き止めて、その人の希望をかなえることができれば、接遇マナーも達人の域といえるだろう。

【自己流を点検! 要注意の言葉づかい】

敬語の誤用は、瞬時にイメージダウンにつながるので要注意。言葉は相手の立場や心理を理解して選び、対応を間違えないように。わかっているつもりで、間違った表現が口癖になっていることもあるので、以下の例で一通り確認しておこう。

ついつい間違えてしまう言い回し
相手を動かすクッション言葉

取引先や目上の人に何かを依頼する際に、頭にクッション言葉を加えるとさらにマイルドで丁重な言い回しになる。相手に動いてもらわなくてはならない場合、へりくだって相手に敬意を表し、立場を思いやる気づかいを温度感として伝えることで、相手の気持ちをやわらげ、協力を促す効果が期待できる。状況に合わせて使い分けよう。

・恐れ入りますが
・申し訳ございませんが
・お手数をおかけいたしますが
・ご迷惑をおかけいたしますが
・よろしければ
・(お)差し支えなければ
・ご面倒でなければ
・ご存じだと思いますが

【携帯電話とメールのマナー】

場所や時間を選ばずに使える便利ツールなだけに、不用意な使い方をすると迷惑になったり不快感を与えたりすることがある。緊張感をもって扱おう。

携帯電話の基本マナー
メールの基本マナー
川上 美佐子
ANA ビジネスソリューション講師
ANAの客室乗務員を経て、ANAビジネスソリューション研修事業部に所属。「接遇&マナー研修」のセミナー講師や企画・運営業務を担う。
 

ライターM
M
ライター
仕事柄初対面が多いが、いまだに名刺交換が不安でしょうがない。学びたがりで思い込みが激しく、新しいことに夢中になると我を忘れる中年ライター。
 

イラストレーターE
E
イラストレーター
これまで自己流のマナーで社会人道を歩んできた実感あり。壁にぶつかってもなんとかなるさの精神で、のんびりマイペースのベテランイラストレーター。