※本稿は福山誠一郎『すごいテレワーク アイデア&成果を2倍にする方法』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
テレワーカーの情報収集の鉄則
ひとりで仕事をするようになると、職場で働いている時に比べて情報が入りにくくなります。職場では、上司や同僚、取引先から多くの情報が入ってきます。また、企業が契約している高額の情報サービスなども、フリーの立場であると入手することは難しくなります。
一方、テレワークやフリーで仕事をすると、急激に増える情報があります。それは、生活現場の情報です。お客様のリアルな生活に根差した情報です。
生活現場に近いというテレワーカーやフリーならではの特権を活かすことで、職場で働いている時とは違った観点で情報を得ることができます。お客様の生活の課題を解決するという目的においては、むしろ、テレワーカーやフリーのほうが、価値の高い情報を得ることができるようになります。
そのためには、情報処理の基本を理解しておく必要があります。
情報処理について、二つの視点から、分析して説明します。これは、情報収集の鉄則となりますので、しっかりと理解をしておいてください。見た目は難しそうに感じるかもしれませんが、落ち着いて読めば、意外にすんなりと理解できると思います。
意識すべき2つの視点
一つ目の視点は“Fact”と“Opinion”です。“Fact”とはいわゆる事実のことです。“Opinion”とは、日本語に訳すと情報発信者の意見ということになりますが、ここでは、情報発信者の意見のほか、情報発信者の推測なども“Opinion”の中に含めます。
二つ目の視点は、「定量情報」と「定性情報」です。定量情報とは、統計データのように数字で表される情報のことです。人口統計やGDPなどが定量情報に相当します。一方、定性情報とは、お客様の声、行動、感情など数値化できない情報のことです。画像や音声、テキストデータなどデータの種類について用いられることもあります。
これら二つの視点を掛け合わせると、情報は、4つに分類されます。例えば、GDPの前年比や企業の売上数字は“定量のFact情報”です。来年のGDPの成長目標や企業の売上目標は“定量のOpinion情報”です。「お客様はこの商品に不満がある」という推測は“定性のOpinion情報”ですが、あなたがお客様から直接聞いたクレーム情報は、“定性のFact情報”にあたります。
情報処理に関するこの二つの視点を意識せずに情報を収集し、提案などに用いても説得力が落ちてしまいます。
情報処理の鉄則を守れば、提案力が変わる
例えば、ある調査会社が、K業界の5年後の市場予測をインターネットで公表したとします。その市場予測をもとに、あなたは以下のような提案をしました。
“K業界は、5年後の市場規模が2倍になると予測されています。調べてみると、わが社の原料はK業界の商品にも応用できますのでK業界に参入しましょう”
しかし、提案を聞いた人たちの多くは、K業界に参入しようとは思わないでしょう。「K業界の市場規模が5年後に2倍になる」という情報は、あくまでも予測、つまり“Opinion”であるからです。
一方、K業界は過去5年間に毎年10%の成長を続けた事実があるとします。そこで、“K業界は、過去5年間、毎年10%の成長を続けており、この5年間で1.6倍の規模に成長しました。調べてみると、わが社の原料はK業界の商品にも応用できますので、K業界に参入しましょう”
という提案をした場合、先ほどの提案よりも支持を得やすくなります。過去5年間、K業界が毎年10%の成長を続けたことは事実であり、誰もが受け入れられる数字であるからです。それに対し、今後5年間で2倍に成長するという予測の数字に対しては、提案を聞いた人たちが数字の根拠がわからず、確信を持つことができません。調査会社による予測の数字を提案に用いたあなた自身も、「K業界の市場規模は5年後に2倍になる」と自信を持って説明することはできないでしょう。“Fact”情報は重みが違うのです!
“Opinion”は使い方次第
“Opinion”も活用の仕方によっては、説得力を高めることに役立ちます。“Fact”を踏まえた上で、参考として活用すると、提案の妥当性をさらに高めることができます。
“K業界は過去5年間に毎年10%の成長を続け、1.6倍に成長しました。調査会社の予測では、今後5年間でさらに2倍に成長する見通しです。調べてみると、わが社の原料はK業界の商品にも応用できますので、K業界に参入しましょう”
いっそう、説得力が増すと思いませんか? “Fact”情報と“Opinion”情報の違いを理解した上で提案に使うことにより、提案の信頼性は大きく高まります。
もう一つ重要なことをお伝えします。企業では、定性情報よりも、数字で示される定量情報のほうが重要視されるということです。次の提案は、定量情報を省いています。
“K業界は過去5年にわたり成長を続けてきました。調査会社の予測では、今後5年間も成長する見通しです。調べてみると、わが社の原料はK業界の商品にも応用できますので、K業界に参入しましょう”
いかがでしょうか? この提案は通ると思いますか? 定性情報をたくさん集めても、定量情報が示されていなければ、あなたの提案が採用されることはありません。
このように、“Fact”と“Opinion”、定量情報と定性情報という二つの視点を取り入れることによって、情報処理能力が高まります。情報処理能力は、社会人に必要な能力です。情報処理能力が高いと社内での評価も高まります。会社の看板が使えないフリーで働く方も、情報処理能力が高いと個人としての信用が格段にアップします。
“Fact”と“Opinion”という視点に関して、より具体的に説明します。
正しいことを見抜くためには
皆さんがWebニュースや専門家のレポートなどから収集した情報には、“Fact”と“Opinion”という2種類の情報が含まれています。
例えば、“国内人口は減少している”という情報は事実ですから“Fact”です。一方、“国内の人口は減少している”という事実をもとに展開される“今後の経済も縮小する”という情報は予測ですから“Opinion”です。
情報収集をする際には、“Fact”と“Opinion”を意識的に区別する必要があります。その理由は、同じ“Fact”に対して、情報発信者によって様々な“Opinion”があるからです。例えば、
B 国内人口は減少している、これはチャンスである
Aの“Opinion”とBの“Opinion”は、「国内人口は減少している」という同じ“Fact”情報から導かれているにもかかわらず、全く違ったことを言っています。そのため、しっかり意識した上で情報収集をしないと頭の中が混乱してしまう原因にもなります。
あなたが拠り所にしているのは、FactかOpinionか
情報収集において、最初に心がけることは、先述した通り、“Fact”と“Opinion”を区別することです。事実だけを正確に伝える“Fact”情報に対し、“Opinion”の中には、情報発信者の意見、希望、あるいは相手を誘導するための意図が含まれますし、発信者の情報処理能力にも左右されます。そのため、多様な“Opinion”が生まれ、何を信じてよいかわからない状況に陥ります。情報は、皆さんの将来の意思決定のための拠り所となります。この拠り所が曖昧では、自信を持った判断ができません。表面的な情報収集で“Opinion”ばかりを集め、判断してしまうと、後悔することになりかねません。
あなたが拠り所としている情報が、“Fact”か“Opinion”なのかを確認しましょう。
しかし、手にしている“Fact”情報だけでは、判断することができない場合があります。そのような場合は“Opinion”も参考にすることになります。その際に重要になることは、情報発信者の“Opinion”の根拠を理解することです。
例えば、Aの“Opinion”の根拠は、1人当たりの消費額が変わらなければ、人口の減少がそのまま経済の縮小につながるということです。以下の数式が根拠となっています。
一方、Bの“Opinion”の根拠が次の通りであったとします。人口が減ると、企業は生産の自動化やAIに投資する。そうすると、企業の設備投資が増え、経済活動が活発化し、企業内の労働生産性も高まる。1人当たりの労働生産性が高まり、単純労働からも解放され自由な時間が増える。収入が上がり、消費も増えるからチャンスである。
Opinionの根拠を理解しFact情報を収集し続けることが大事
Aが、より現実に即した“Opinion”であるのに対し、Bはその解決策を提案している“Opinion”です。現時点で、将来の企業の設備投資の動向やAIの普及状況がわからなくても、企業の設備投資やAIの普及状況を数年にわたり収集していけば、“Fact”情報も増え、Bの妥当性を判断することができるようになります。
現段階で、Aが正しいのかBが正しいのか判断できなくても、“Opinion”の根拠を調べ、その根拠となる事柄の“Fact”情報を収集し続けることで、Bの妥当性をより正確に判断できるようになり、皆さんの情報処理能力は格段に高まっていきます。