シンガポール在住、ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。日本では3月から全国の小中高の多くが臨時休校要請で休校となっていました。休校が長引く中、公立で事実上休校状態になっている学校と、インターナショナルスクールや私立ですぐにオンライン授業に対応できた学校とでは休みの間に大きな差がついています。
オンライン教育サービスで勉強する
※写真はイメージです(写真=iStock.com/RyanKing999)

9月始まりの議論よりまずやるべきこと

日本の学校では今、9月始まりの是非が議論されていますが、今年から対応すると教育に半年の空白期間が発生してしまいます。今すぐに9月始まりの議論をするよりも、まずは国を挙げてオンライン授業の準備をする方が先なのではないでしょうか。

エコノミストのClosing schools for covid-19 does lifelong harm and widens inequality(新型コロナウイルスによる学校閉鎖は生涯にわたる害を与え、不平等を拡大させる)という記事から一部を紹介します。

ユネスコの調べによると、世界のおよそ15億人の学童の4分の3以上が現在学校に通っていません。閉鎖は最貧困層と最年少の子供に大きな影響を与えると言います。8歳児の学習が秋まで止まると、一部の人にとって、1年近くの数学の学習内容が失われる可能性があり、介入がなければ、影響は一生続く可能性があるそうです。

半年もまともに学習がなされないと、それまで学んだことや勉強をする習慣も失ってしまうという声を聞きます。そのために1年近くの蓄積が失われることになるのでしょう。

発展途上国などでオンライン授業を導入できないのは仕方のない部分があるでしょう。しかし、日本は先進国です。韓国、シンガポール、アメリカなどではすでにオンライン学習が積極的に行われています。日本でも私立やインターナショナルスクールでは取り入れられているものの、公立では政府が5月後半にようやく予算をつけ始めたばかりです。日本に住んでいる親や経済の専門家などと意見交換をしていますが、公立小学校での対応は非常にマチマチでオンライン授業を始めた学校、またプリントなどを配布する自治体もあればまったく何もしないところもあるようです。

サポートの手厚いシンガポールのインター校

アメリカやシンガポールなどでは学校の対応が早く、カリフォルニアの公立小に通っている人もロックダウンが決まった翌週からオンライン教育が始まり、PDCAで改善され続けているようです。現在はITに強い若い講師が中心となって現場で指導しているようです。

シンガポールでも6月からは徐々に学校が再開される予定ですが、再使用可能なマスクやフェイスシールド等が配られます。ローカル校、私立のインター校、習い事などの多くもただ休校にはせず、いち早くe-ラーニングを取り入れています。GoogleハングアウトやZoomなどでライブ授業やミーティングをしたり、アプリを使って双方向の授業を進めるなどの工夫がされています。

また、ローカル校では6月の夏季休暇を早めて5月にして、6月は授業とフレキシブルに対応をして学習を継続する努力が行われています。経済解除も3段階に踏んで行われ、第一フェーズで学校が徐々に再開すると、教育が再重要視されていることが分かります。

シンガポールのインター校の多くは普段から連絡事項は基本Eメールで、授業の様子はアプリで管理されています。それを双方向にして、アプリでその日の課題を掲載し、勉強をしたら、写真や動画などを投稿して教師が確認をするという流れとなっています。

幼稚園や小学校低学年まではオンライン授業は1時間以内など時間を制限し、その他はその日に与えられた課題をこなすというスタイルの学校も多いようです。朝にクラス全体のミーティングがあって、指示を受けます。

課題は担当講師がパワーポイントと動画で作り、わかりやすく指導するように指示されているようです。また、第二外国語、音楽、体育、アートなども30分ほどのe-ラーニングがあります。IT担当や心理カウンセラーなどが常駐している学校もあり、システムトラブルがあればIT担当に問い合わせたり、心理面の相談をカウンセラーにすることもできるようになっています。また、質問や相談があればいつでも担任や担当教員に質問ができるようになっています。もちろん、シンガポールのインター校については、日本のインター校や私立校よりも授業料が高いのでその分サポートも手厚いのでしょう。

習い事の多くもオンラインに

学校以外でもシンガポールの多くの習い事はオンライン授業に切り替わっており、バレエ、ピアノなどの芸術系も導入しています。乗馬教室ですらバーチャルレッスンを導入するようです。どうやって運営するのか興味深いものです。とにかくやる気があれば何でもできるのでしょう。

娘が通っているバレエ教室では、若い先生が自分の部屋からZoomでレッスンをやってくれているのですが、問題なくできています。音楽については同時に音を合わせるなどは難しいですが、ピアノのレッスンは問題なくできています。デジタルネイティブの若い講師達はITスキルも高い人が多く、授業を工夫し、毎回改善してくれるのを感じます。このように現地の習い事や日本人向けの塾などは60分間などZoomで付きっきりで教えてくれる形で、土日はマンツーマンのレッスンの予約が殺到していて、予約を取ることが困難なくらいです。学校よりもより講師に任せられる形なので助かります。シンガポールの場合、共働きが前提の社会システムのために、親の負担を軽減させる形で授業をやるという意識が強いのでしょう。

気になる価格ですが、オンライン授業への切り替えによって、塾などは10%程度塾代を割り引くところやグループレッスンを受け放題にするところもあります。ですが、基本的には同じ価格であることが多いようです。バス代などを一部返金する学校もあるようです。

なぜ日本はオンライン後進国なのか

よく、アメリカなど海外先進国の方が日本よりオンライン教育が数年進んでいると聞きます。確かに、欧米では大学院などでオンライン授業が進んでいたりします。しかし、幼稚園や小学校などの低年齢の教育はどの国も準備不足でした。シンガポールの学校も準備をし始めたのは早い学校でも今年2月の旧正月後です。

シンガポールにある日本人向けの習い事や日本語のサポート校なども準備をしていたわけではないのにオンライン授業に切り替えています。また、東京にあるシンガポール系列のインター校、イートンハウス東京代表のアンリ・タン氏に聞いたところ、「3日間スタッフが残業をして、多大なる努力の元にオンライン授業を導入した。今は親のフィードバックを得ながら、毎日改善を行なっている」ということです。日本の塾や、日本にあるインター校や私立校でもオンライン授業は導入できているのです。

どこもコロナ・ショックの前に準備ができていたわけではありません。完璧ではない形でも子供達から学ぶ場を奪わないために、まずできることからやるという姿勢が大切なのではないでしょうか。日本政府はオンライン学習の開発に向けて、2020年度補正予算案に調査研究費として1億円を計上しました。しかし、他国と比べて非常に遅い上に金額も十分ではありません。少子高齢化や多額の債務などの問題を抱える日本社会の歪みがこうしたところに影響するのでしょう。e-ラーニング導入は保護者側にも負担やデメリットもありますが、学習を空白にするよりはずっとよいでしょう。諸外国を見習い、今すぐにできる範囲で完璧でもなくても取り組むべきではないでしょうか。