世界が不況に突入することは避けられない
「世界が不況に突入することは、もはや避けられない。最大の理由は世界中の国が経済を停止させ、国境を閉じてしまったからだ。」
シンガポール在住の世界的投資家、ジム・ロジャーズ氏はこう語ります。コロナ禍に見舞われた世界経済が今後どうなるのかについて、ロジャーズ氏にインタビューをし、『ジム・ロジャーズ 大予測:激変する世界の見方』(東洋経済新報社)を緊急出版することになりました。
ロジャーズ氏が語るとおり、彼や私が住んでいるシンガポールでは、ロックダウンが日本よりも厳格に行われ、外出は必要な食品などの買い出しのみでマスク着用の義務があります。社会的距離などルールに従わないと罰則もあります。多くの国でロックダウンが行われているために、経済が停滞し、失業率も上昇しています。
実体経済は悪化しているものの、中央銀行や国家の対策によってしばらくは上昇相場が続く可能性もロジャーズ氏は指摘しています。
「世界の中央銀行は、なりふり構わずいろいろな対策を打っている。それが次のバブルを生む可能性がゼロとは言えない。」
ロジャーズ氏は続けます。
「このような一連の誤った政策が功奏して、大きなラリー(再上昇相場)が起こるかもしれない。FRBだけでなく、世界各国の中央銀行が揃って金融緩和に踏み込んでいることも、それを後押しすることになる。世界の中央銀行は、足並みを揃え、これまで世界市場最も大量のお金を刷ってきたにもかかわらず、今回の騒動でさらなる量的緩和を発表してさらに大量のお金をバラまこうとしている。」
次の金融崩壊が私の人生で最も大きなものになる
しかし、そういった量的緩和や財政支出から人工的なバブルが膨らんだ場合の再暴落をロジャーズ氏は予測しています。
「おそらく、株価の値下がりは今後も続く。50%、60%、70%、いやそれ以上だろう。実体経済の落ち込みは、いずれ金融機関の破綻をもたらし金融システム不安を引き起こす。いつとは断言できないが、それは必ず起こる。」
ロジャーズ氏は次の金融危機が過去最悪になる理由として、世界中の国が非常に大きな債務を抱えている問題を指摘しています。リーマン・ショックの時は中国がキャッシュを抱えており、それが危機脱出の一つの鍵になりました。しかし、その中国も今では大きな債務を抱えているのです。
「中央銀行も無限に債務を増やし続けることはできない。いつの日か終わりが来る。ある日突然、相場参加者のモメントが変わるときが必ずやって来る。その局面では、もはや誰も世界経済を救うことはできない。次の危機はそうした最悪の危機になると見ている。」
老後資産を作るには個人がより勉強する必要がある
空前の危機において、株式指数に連動しているETFなどは大暴落をしました。誰もが持っている大型株や株式連動のETFだけを保有しても分散にはならず、下落相場では真っ先に売られます。
他方で債券などにも分散投資をしていた人は、下落幅が限定的で済みました。また、この局面でも大きく上昇しているアセットクラスもあります。金は史上最高値を更新しています。誰もが下落相場に備えてポートフォリオの一部に金や金価格に連動するETFなどを組み込むことを考えてもよいのかもしれません。
日本円の価値が将来的に下がることも考えられます。日本はコロナ対策で巨額な予算を組みましたが、諸外国に比べて対策が後手に回った感は否めず、今後効果が出なければ、国債の格付けなど下がるリスクもあります。現在のところ日本円の価値は維持できていますが、将来的には円安になるリスクもあるでしょう。
すでにシンガポールでは日本円をあずけるとマイナス金利になる金融機関も増えています。自国通貨で預金をするとお金が減るのですから、日本人も米ドルなど一部通貨を分散してもよいと思います。ただし、コロナ禍が長引くと金融危機につながる可能性もあるため、一つの銀行に預ける額は預金保護の範囲に分散しておく方が安全でしょう。
年金受給は75歳まで繰り下げられる
さらに、日本では公的年金の受給開始年齢を75歳まで繰り下げられるようにする年金改革法案が審議入りしています。公的年金の受給開始年齢は、現在は原則として65歳で、60歳から70歳まで開始年齢を選ぶことができますが、今回の改革案では長く働きたい高齢者が増えているのを踏まえて75歳まで延ばせるようにします。受給を遅くするほど受給額は増えますから、心身ともに健康で長く働く意欲がある人は、40代から心身の健康を保ち、計画的にキャリアをつなぐ準備をするといいでしょう。
反対にアーリーリタイアをしたい人は積極的に資産運用の練習をし、今回のような暴落をチャンスと捉えて、勉強をし、行動をとっていく方が機会を掴みやすくなります。ロジャーズ氏は繰り返し、「危機はチャンス」と表裏一体と言っていました。今回、投資で痛手を負ったので、もう資産運用はこりごりと思うのではなく、勉強をし、学んでいく必要がありそうです。