自身の年金を、自身の意思で準備する個人型確定拠出年金・iDeCo。税メリットもあり、有利な方法です。しかし積み立てたお金を受け取れるのは60歳以降。収入不安がゼロとは言えない今、はじめてもいいのか、続けてもいいのか、収入や貯蓄の状況をふまえて検討してみましょう。

iDeCoでは税メリットを受けながら年金づくりできる

公的年金に加えて、自身で有利に年金づくりができる方法に、iDeCo(個人型確定拠出年金)がある。

一定の範囲で掛金を出し、投資信託や預金、保険商品などで積み立てていくもので、積み立てた額と運用によって増えた額を、60歳以降で年金や一時金として受け取る。掛金は全額、所得から控除されるため、所得税や住民税が安くなるほか、運用によって得た利益も非課税、という税メリットがある。

掛金の上限は職業などによって異なり、以下のようになっている。

会社員の場合、勤務先の企業年金の有無などによって月額1万2000~2万3000円、公務員は月額1万2000円となっている。厚生年金に加入していない(国民年金のみ)の自営業者などは月額6万8000円と限度額が大きい。

毎月定額を積み立てていくのが基本だが、年に1回以上、自身で決めた月にまとめて拠出する「年単位拠出」もできる。

やっている人は? やろうと思っていた人は?

皆さんの中には、すでにiDeCoをはじめている人、あるいは、はじめようと考えている人もいるだろう。

机の上いっぱいに広げられた請求書とスマホアプリを見つめる女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Ziga Plahutar)

今の時期、1つ、念頭においてほしいのが、「iDeCoは原則、60歳まで引き出せない」ということだ。

新型コロナの流行により、自営業や個人事業主、契約社員などとして働いている人の中には、収入ダウンに見舞われている人もいる。会社員でも、当面の給料は約束されているものの、先々が不安、ボーナスは期待できない、と思う人もいる。そうした収入不安があるときに、60歳以降まで引き出せないiDeCoにお金を積み立てていいのだろうか。

実はiDeCoはいつでも積み立てを休止できるし、年に1度は掛金を減額することもできる。休止や減額をすべきか、考えていきたい。

まずは貯蓄をチェック

まずは貯蓄をチェックしよう。

お金の預け先を考える際には、病気やけがに備えて一定の額を確保し、それを上回る分を投資に回すのがセオリーである。

私は、通常、「少なくとも生活費の半年分、できれば生活費の1年分を確保する」ということを基本としてアドバイスしている。病気になったり、仕事を失ったりするようなことがあっても、半年暮らせるだけのお金があれば、その間に生活を立て直すことができると考えられるからだ。1年分の生活費があれば、さらに安心感が増す。

教育費など、使うことが決まっているお金は分けて考え、あくまで「もしものためのお金として、少なくとも生活費の半年分、できれば生活費の1年分」だ。

しかしそれは、「平時でのこと」。

平時であれば、経済的なピンチに見舞われても、自分でなんとかできる道がある。ところが、感染病の流行といった非常時にはそうはいかない。人材の需要が減る、転職活動ができない、病気になっても治療がうまく進まないなど、自身の努力ではどうにもならない事態になることも予想される。そのため、現在のような非常時には、手元資金を平時より厚めに確保しておくのが望ましい。平時は「少なくとも生活費の半年分、できれば生活費の1年分」なのに対し、非常時は「少なくとも生活費の1年分」を目安にしてはどうか。

1年分の生活費がある人は当面、積み立てを続ける

「1年分の生活費は確保できている」という人は、できればiDeCoをそのまま継続したい。言うまでもなく、自身で老後資金作りをすることは大事なことだし、所得控除も受けられるiDeCoは節税効果というメリットも大きい。

収入が減る不安があっても、1年分の生活費があるならすぐにピンチになる危険性は低いので、当面はiDeCoを継続し、収入減が現実味を帯びてきたら休止や減額を考えるといいだろう。

ここで注意したいのは、景気が不透明だからとって、安全重視の運用に切り替えないことだ。

iDeCoでは、取扱金融機関がそろえた投資信託や預金などの中から、自身で運用する商品を選ぶ。若い人ほど運用できる期間が長く、株式に投資する投資信託などを選ぶのがいいと考えられるが、株価が下がったり、経済動向が厳しくなったりすると、保守的な運用に切り替える人も少なくない。しかし、すでに積み立てている資金を投資信託から預金にシフトすれば、下がった時に投資信託を売ることになる。これから積み立てる分を預金などにすれば、投資信託を安値で買えるチャンスを逃すことにもなる。

毎月、少額ずつ、長期で積み立てると、「時間分散効果」によって投資にリスクが抑えられる効果が期待できる。すなわち、iDeCoではリスクを抑えた投資ができるので、安値の時こそ、しっかり積み立てを続けたい。これまで預金で積み立ててきた人は、投資信託への乗り換えを検討するのもいいだろう。

お金が心もとない人は減額や休止も検討

「生活費の1年分の預金はない」という人は、iDeCoの休止、あるいは減額を考えてみよう。

積み立てを停止する場合には、金融機関に「加入者資格喪失届」を提出すると、積み立てが停止できる。停止している間もそれまでと同様に口座管理手数がかかるほか、投資信託を利用している場合はそのコストがかかる。積み立てを休止しても、それまでに積み立てた分について、運用商品を乗り換えるなどの指示は可能だ。

もう1つの方法は掛金の変更だ。金融機関に「加入者掛金額変更届」を提出することで、年に1度まで可能となっている。減額の場合、最低金額は5000円で、5000円未満の積み立てはできない。

非常時には、資産の状況や家計の内訳を見直す好機といえる。いざというときに使えるお金がいくらあるのかを把握しておけば、安心できるかもしれないし、今後を考える材料にもなる。また貯蓄が心もとない人は、どうすれば貯蓄が増やせるか、家計を見直してみよう。Stay Homeの時間を活かしてお金について考える。そして、将来の自分に向けて、無理のない範囲でiDeCoを続ける、あるいは、はじめる、のが望ましい。