外出自粛や在宅勤務でいつもより時間に余裕が出たという人も多いのではないでしょうか。そんな時こそ、とりくみたいのがマネープランの見直し。経済コラムニストの大江英樹さんがおすすめするチェックポイントとは?
乱雑なオフィスデスク
※写真はイメージです(写真=iStock.com/SetsukoN)

在宅で時間が増えた人がやるべきこと2つ

4月7日に出された政府の「緊急事態宣言」によって、会社勤めの人も在宅勤務になることが多くなりました。土日もほぼ家の中で過ごしているため、中には「自粛疲れ」とか「在宅疲れ」という人も増えてきていることでしょう。しかしながら、ここは我慢してStay Homeを続けるべきです。ここまで感染症が世の中の重大な事案になってしまった以上は、誰もが協力しあって終息に向けた努力をするしかないからです。

ただ、実際に在宅勤務をしている人の話を聞くと、そもそも自宅で業務ができるようなインフラが整っていなかったり、セキュリティの環境が不十分であったりということも多く、メールで始業と終業の業務連絡だけすれば、後は実質的には自宅待機という人も多いようです。本来であれば、こういう時こそ、普段自分が担当している業務に関する知識を深め、専門性を高める機会です。特に事務系の人は、日頃の仕事が忙しくてなかなか専門的な知識を身につける時間が無いということも多いでしょう。この機会に普段忙しくてできていなかったことに目を向けてみましょう。

さらにもう一つ、今やっておくべきこと。それは今一度自分のお金まわりのことを考えることです。普段からさまざまな記事や本で自分のマネープランや資産形成の状況について、チェックすべきだとわかってはいるものの、日々の仕事が忙しくて実際にはできないという人も多いでしょう。在宅で時間がたっぷりある今こそ、そういうことを考えるべきだと思います。

もちろん在宅とは言え、業務はしなければなりませんが、少なくとも通勤時間に相当する分は空くはずです。人によってその時間は違いますが、往復の時間を考えると毎日1時間や2時間程度は通勤に使っているでしょう。せめてその分の時間だけでも「お金まわりの整理」に使ってみてはいかがでしょうか。

とにかく支出をきちんと把握すること

では、「自分のお金まわりのこと」と言っても一体何をやればいいのでしょうか。実はそれほど面倒なことではありません。結論から言ってしまえば、「支出をちゃんと把握すること」です。

私は常々会社に勤めるサラリーマンやビジネスウーマンは、自営業やフリーランスの人達に比べてはるかにお金を貯めやすいということを言っています。その理由はキャッシュフローが読みやすいからです。つまりお金の入と出が把握しやすいということです。このうち、“入”は簡単ですね。毎月のお給料はほぼ決まっています。中には歩合制の人もいるかもしれませんが、ほとんどの方は固定給です。今回のコロナ禍でも自営業やフリーランスの人は収入が大幅に減って大変な苦労をしていますが(私も3月と4月の収入は8割減です)、会社勤めの人は今後のボーナスに影響が出るかも知れませんが、すぐに給料が大幅に下がることはないでしょう。問題は“出”の方です。

9割の人が支出をきちんと把握していない

この“出”も自営業の人達はなかなか読めません。なぜなら商品の仕入れや設備投資から始まって、取引先との会食や贈答といった支出はその多くが自らのビジネスに関わることなので、あらかじめ決まっていて読めるものではなく、状況次第で大きく変わるからです。

ところが勤め人の場合の支出はあくまでも自分の生活に関するものだけですから、コントロールがしやすいのです。とは言え、多くの人は支出の管理をきちんとできていないようです。私自身、年間140回を超える講演をしていますが、そんな際に「みなさんは家計簿をつけていますか?」と聞くと、手を挙げる人は1割くらいしかいません。実際こんなものなのでしょう。それでも何とかやっていけています。なぜなら毎月決まった給料が入ってくるからです。これは企業で言えば日銭の入ってくる業種なので、お金がなんとなく回っているのと同じです。

しかしながら家計簿を付けていない人というのは企業で言えば財務諸表を作成していないのと同じことですから、当面は何とか回っていてもいずれ破綻の可能性が出てきます。貯められない人、老後資金が不安な人というのはいずれも「支出の管理」が出来ていないからそうなるのです。支出の管理というのは何も節約しなさいとか、ケチケチしなさいということではありません。要するに自分のまわりのお金の流れを把握し、どこに無駄があるかを知っておこうということです。

超簡単! 家計簿なしでできる支出ざっくりチェック

では具体的にどうすればいいのでしょう。まずは自分の経常支出、すなわち日常的に使っている支出額を算出してみましょう。家計簿をつけていれば単にそれを見るだけですが、多くの人はそれをしていませんので、どうやって把握すればいいのか?

まず昨年一年間の毎月の給与明細(もちろん賞与も)を見てください。その最後に載っている手取額を合計すれば、年間の手取り収入がわかります。そこから昨年使った大きなお金、具体的には旅行に行ったり、耐久消費財を買ったりといった大きな支出を引きます。さらに給与天引き以外のローンの返済やお子さんの教育費等があるなら、それも引いてください。こういう支出は比較的金額が大きいので覚えていますし、領収書や振込の控えが残っていますから把握しやすいはずです。

そうやって差し引いた後に残った金額が「経常支出」です。その中身までは今の段階では詳しく調べる必要はありません。で、こうやって実際に金額を出してみると意外と日常の「経常支出」が多いことに気がつくでしょう。また、何に使ったのか、なぜこんなに使ったのよくわからないという「使途不明金」がいかに多いかということにも気がつきます。

もちろんこれだけで十分なわけではありません。でも今回の外出自粛で家にいる間に、おおまかな支出状況をつかんで、「普段、支出に関してはいかに何も気にしていないか、知らないか」ということを知ることが大事なのです。その上で今後はできるだけ家計簿をつけるべきでしょう。幸い、最近では便利な家計簿アプリもあります。現金支払い以外のものはこうしたアプリでほとんどカバーすることが可能ですから、支出の内訳も手間をかけることなく、より明確になってくるでしょう。

支出以外にチェックすべきこと

さらに時間があるなら、支出のチェック以外にも持っている金融商品、株式や投資信託、保険の見直し等も積極的に行うべきです。金融商品というのは、その中身の詳細についてわかっていないことが多いので、こういう機会にこそ、投信の信託報酬や、保険の適用範囲などを目論見書や約款をきっちり読み込んで理解しておいた方がいいでしょう。今回は紙幅の関係で詳しくは書けませんが、機会があればこの辺りにも触れたいと思います。

コロナ禍で自宅に居るのは決して悪いことばかりではありません。友人や家族とのつながりの大切さをあらためて理解する機会にもなりますし、本を読んだり勉強したりする時間も取れます。加えて、日頃は忙しさにかまけて放ったらかしにしてあった「自分の支出のチェック」をすることで、「お金が貯まりにくい体質」から脱却できるきっかけになれば、「禍転じて福となす」となるのではないでしょうか。