ヨーロッパ女性はアジア人やアメリカ人に比べて、質素、質実な生活を送る傾向にあるようです。フランス人と結婚し、ロンドンで働いた経験があり、現在はシンガポールに在住する著者がヨーロッパのキャリア女性の節約術とお金の使い方について紹介します。
パリのアパートメントからの眺めを楽しむ若い女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/lechatnoir)

ブランド物より不動産を買うイギリス人

多くの高所得女性が働くロンドンのシティ(金融街)ですが、アメリカや日本のようにブランド物のバッグや華やかな洋服を身につけたファッショナブルな女性を見かけることは稀です。東京、ニューヨークと並び、世界でも飛びぬけて物価が高い都市ロンドン。アメリカと違い、教育費のサポートは充実しているため学費ローン返済に苦しむ人は少ないけれど(イギリスの大学の学費はアメリカの5分の1以下)、都心部の家賃は東京より高いです。それを避けて郊外に住むと、やはり東京より高い通勤電車代がかかりますが日本と違って会社による通勤費の手当などはありません。エクササイズと節約を兼ねて自転車通勤する一方で、貯蓄目的でハイリスクハイリターンなアグレッシブな投資に手を出している人も多いです。他のヨーロッパ諸国に比べると、イギリスの失業手当は心許なく、かつ簡単にリストラが起きる現状なので、いつでも最悪の事態に備えていなくてはいけないのです。

イギリス女性が早いうちから投資も兼ねた不動産を購入するのはこういった事情もあるでしょう。幸い今は金利も低く、日本などに比べて不動産マーケットが流動的なので、貯金代わりで困ったら売ればいい、といった感覚で20代の独身時代から家賃を払う代わりにローンを組んで小さなマンションを手に入れる人が多いです。その後、結婚(または同棲)すると2ベッドルームのマンションに、子供が生まれると郊外の一軒家へと買い換えてプロパティーラダー(資産形成の梯子)を登っていきます。中には家を何件も所有し、家賃収入やAirbnbで生計を立てる人も少なくありません。

ファッションと同じく、普段の食事にもお金はかけません。日本でいう年収1000万以上軽く稼いでいても、ランチは、ドリンク、サンドイッチにクリスプ(ポテトチップ)のセット(だいたい5ポンド前後とリーズナブル)を買って自分のデスクでいただきます。日本のように1000円以下でコーヒーからデザートまでついた美味しいランチを出すレストランは海外では少ないのです。ちなみに日本式の仕出弁当やお寿司も人気で、最近は、マイ“OBENTO”を買って持ってくる人も増えています。

前述したとおり、リストラが日常的なロンドンのシティで働く女性たちは、いつでも転職できるようにヘッドハンターと密なコンタクトを欠かさず、常にキャリアアップに余念がありません。育休も産休と併せて平均3カ月、職場によっては出産1週間前まで仕事、産後1カ月で復帰も珍しくありません。

ロンドンシティは朝の始まりが早く(7時)、冒頭で述べたように郊外から1時間以上かけて電車通勤する人も多いため、金曜日は午後3時のマーケットが終わると早々に、普段より短めのスカートでパブへ繰り出すのが彼女達のささやかな息抜きです。土曜日は大抵二日酔いです。

パリジェンヌは本当に服を持たない

一方、フランス人女性も独自のマネーリテラシーを持っています。私はフランス人の夫と結婚していますが、夫の姉シルビーは、パリにあるフランスの大手銀行で働いています。アメリカやイギリスと比べ、育児など福祉は大変充実しています。義姉は子供を4人産んでいるので4回育児休暇を取ったことになりますが、流産しやすいという医師の診断書のお陰で妊娠発覚から産後まで、毎回有給での自宅待機を強行していました。その割にはいつも無痛分娩の安産で産前産後ともにいたって元気だったのですが……。

復帰後も、フランスでは学校が水曜日休校なため、彼女もそれに合わせてお休み、週休3日です。羨ましい話ですが、福祉が充実しているだけあって税金が高いのでとにかく払っている分の元を取りたいと、顔を会わせれば国からの補助でどんな得をしたかと盛り上がるのがフランス人女性の常です。そんな恵まれた環境にあっても、子供も4人いるし、もっと広いマンションに移りたいし、バカンスも大事だし、と義姉はせっせと節約に励んでいます。

フランス人は服を10着しか持たない』という本が日本でもベストセラーになりましたが、義姉の仕事着は本当に春夏と秋冬でそれぞれ2パターンずつ。1年を通じてGAPの白い半袖Tシャツを毎日着用(同じ物を6枚持っている)、季節毎にボトムは2種類ずつ。冬はTシャツの上に着るジャケットが2種類。コットン100%のTシャツは漂白剤を入れて60度でジャブジャブ洗えるし、傷んできたらまた同じのを買えばいいと恐るべき合理性です。忙しい朝にコーディネートに頭を悩ますことがない時間活用術とも言えるでしょうか。

仕事のジャケットの色は明るめに、暗めのボトムでバランスを取ります(なお休日はボトムがジーンズに変わるだけです)。プレゼンテーションがある日やクライアントに会う予定がある時は、このコーディネートに誕生日に貰ったエルメスのスカーフがプラスされるだけです。靴はプレーンな黒のパンプスですが高い物は買わず、ダメになるまで履き倒してまた新しい物を購入します。冬は膝下ブーツで。見えないからと伝染したタイツも捨てずに洗って履く……日本人から見るとすごい割り切りです。

平日は帰宅が19時前後のシルビーですが、多くのフランス人と同じく夕食づくりに火は使いません。前菜からメイン、チーズにヨーグルトまで付くフランスの給食があるため、子供達の夕食は、出来合いのスープに野菜スティックにチーズ、サラダにハムに茹で卵にヨーグルト、といったような簡単なメニューです。夕食はまず子供たちに食べさせた後、必ず旦那様と2人でいただくのがシルビー流ですが、メニューは毎日同じで、すでに洗ってあるサラダとチーズ。日によってスモークサーモンかツナの缶詰がつきます。

冷凍食品も大活用。ポテトピュレー(マッシュポテト)の粉末をUHTミルク(高温殺菌牛乳。室温で保存できる)で溶いて電子レンジへ入れるだけ。彼女の子供はじゃがいもから作ったピュレーを家で食べたことがありません。ただし、フランスのインスタント食品は美味しいので問題ないのかもしれませんが。

物は買わないけれど思い出に投資

このように普段は驚くほど質素な生活をしているフランス人女性は多いのですが、計画的に貯めてきたお金はそのままにせず、計画的に使います。シルビーの楽しみはフランス人のご多分にもれず、夏のバカンス。大手自動車メーカーに勤める夫ともに8月は丸々お休みなので1年前から入念に計画を立てます。

子供が4人いるのでホテルではなく戸建てを借りることが多く、AirBnBもよく使います。旅行中も外食はほとんどせずに自炊で節約は続きます。ただし時には、自分へのご褒美に、自分の時間もできるし、子供達もそれぞれ楽しめる、少し割高なクラブメッド(フランス発祥の、食事やアクティビティなどがパッケージされたリゾート施設)も利用します。なんと言っても三度の食事の心配をしなくていいのはこの上ない贅沢なのです。

エキゾチックな場所に惹かれ、数年に1回、アジア、南アメリカなどの秘境を旅しすることも。こういった海外旅行の資金は数年かけて貯めていきます。子供が小さい時は、夫の両親に子供を預け、夫婦でインドネシアのイリアンジャヤへ熱帯トレック、ヒマラヤ秘境トレックを楽しんだといいます。ちなみに新婚旅行はエクアドルのキトーでした。

物は残らないけれど、思い出は死ぬまで心の中にと、旅行が終われば、次の年にどこに行こうか、世界地図を眺めるのが一番の楽しみだそう。こうやってバカンスで一年分の充電をしてフランス人女性はまた元の日常に戻るのです。

日本人にとっても、これからの不透明な状況下において、ロンドン、シティで働く女性のように貯金の代わりに投資、不況の波に備え転職の準備をしておくことは不可避かもしれません。節約しているといっても、辛さが全く見えないフランス人。その典型である我が義姉シルビーのように、お金について自分のポリシーを貫き、他人の意見や周りに影響されず我が道を行っているだけなのです。本人たちは倹約している意識もなく、お金をかける意味を感じられないと判断したモノには元から興味を持たないようにしているのです。ヨーロッパ人にとっては節約とは苦行ではなく、一つのライフスタイルそのものだと言えるでしょう。