「りょうくんグルメ」は、一度投稿すればたちまち1万以上もの「いいね」がつく人気アカウント。若者を中心に多くのフォロワーを惹きつける、その独自の投稿術とは? 原田曜平さんがりょうくん本人に聞きました。

紹介するかどうかは即座に判断

【原田】今日は、りょうくんが今後投稿するかもしれないアジアンダイニングで対談しているわけですが、注文するメニューはいつも来る前から決めているんですか?

【りょうくん】はい。今日はチーズナン目当てで来ました。ここはハチミツをかけて食べられるらしいんです。そういうお店は割と珍しいし、池袋という立地もバズる条件に合致しているので、実際に確かめてみたかったんです。チーズと蜂蜜のような甘さ、しょっぱさ、脂肪の組み合わせは美味しさを感じやすいんです。それに、今チーズナンは若者に大人気で、インスタに載せると1万人ぐらいが保存してくれるんですよ。

マーケティングアナリストの原田曜平さん(左) とグルメ系インフルエンサー「りょうくんグルメ」のりょうくん(右)。
マーケティングアナリストの原田曜平さん(左)とグルメ系インフルエンサー「りょうくんグルメ」のりょうくん(右)。

【原田】やはり、一方的にラーメンやカレーを載せるのではなく、トレンドに乗った上でお店を選んでいるんですね。また、若者の乗降客数が多く、あまり高いモノがない池袋はバズる条件に合致しているんですね。

【りょうくん】じゃあ、まずはチーズナンセットを注文します。セットのカレーはバターチキンとほうれん草チーズ、ドリンクはラッシーで。セットにバリエーションがある時は、いつ来ても頼めるようなベーシックなものを選ぶようにしています。

【原田】メニューを見て、このお店の印象はどうですか? 食べる前に載せる載せないを判断する場合もあるかと思うんですが。

【りょうくん】ここは載せないと思います。メニューを見て、チーズナンのセットはランチとディナーで料金が違うことがわかりました。それは僕が考えていた条件とは違うし、ディナー料金も「りょうくんグルメ」で紹介するには少し高いですね。ここを紹介しても、フォロワーには喜ばれないと思います。

写真撮影のポイントは日光とアップ度

【原田】「わざわざ来たんだから載せておこう」じゃなくて、フォロワーに喜ばれるかどうかが最優先なんですね。基準がはっきりしているから判断も早いんでしょうね。では、料理が来たので、次は写真を撮るところを見せてもらえますか? カメラじゃなくてスマホで撮るんですね。

撮影の実演をしてくれたりょうくん。
撮影の実演をしてくれたりょうくん。

【りょうくん】撮影はできるだけ目立たずに、サッサと終わらせたいんです。カメラだとどうしても目立っちゃうので、いつもスマホで「Foodie(フーディー)」というアプリを使って撮っています。シャッター音が鳴らないので、お店にも迷惑がかからないかなと。

【原田】フーディーはラインが作ったアプリですね。たくさんの若者が使っていて、そこも若者目線なんですね。確かに高級なカメラで凄過ぎる写真で高い料理を撮っても若者たちからは「手が届かない」と判断されてしまいますもんね。特にジェネレーションZは「憧れより共感」ですから、より重要なポイントですね。

ジェネレーションZが撮影で重視する「高映え」とは

【原田】バズる写真を撮るコツって皆知りたいと思うんですが、りょうくんと同じアプリを使ったとして、撮り方では何を意識すればいいでしょうか。

りょうくんが撮影したチーズナン
りょうくんが撮影したチーズナン

【りょうくん】僕は日光が一番大事かなと思っています。「りょうくんグルメ」にランチが多いのも、自然光でいい感じに撮れるからなんですよ。後は食べ物をアップで撮ることも大事で、僕の場合は「チーズナンならアップ度はこのぐらい」って大体決めています。これまでの投稿で、フォロワーの反応がいいアップ度がわかっているので。あと、チーズナンの場合は平べったく写真のインパクトが足りないので、持ち上げるとかして縦の動きを出したほうがいいと思います。

原田さんも撮影にチャレンジ。
原田さんも撮影にチャレンジ。

【原田】ジェネレーションZの写真撮影のトレンド「高さ映え」を意識しているんですね。「高さ映え」というのは僕の造語なんですが、食べ物の高さを出すことによってインスタ映えを実現する、という撮影手法のことです。

 

日光を逃したら再び食べに行くことも

【りょうくん】今日はちょっと日光が入りにくいですが、普段通り撮影してみますね。このチーズナンだったら、まずハチミツをかけます。それから全体を撮って、一切れ持ち上げてチーズが伸び始めたところ、最大限まで伸びたところ、と順に撮っていきます。Twitterの場合写真は4枚までですが、インスタは10枚なので、料理のほかに店内の風景も撮ります。チーズがものすごく伸びるようだったら、動画を撮ることもありますね。

【原田】思った以上に丁寧に撮っていくんですね。そしてこの後実際に食べるわけですが、すごくおいしかったら載せますか? 冒頭では「載せない」と言っていましたが。

【りょうくん】今食べてみたら、ここはチーズにコショウが入っていてほかの店と違いますね。すごくおいしいです。ただ、見た目よりチーズが少ないかな……やっぱり載せないと思います(笑)。たまに、載せたいけど日光が入る時間を逃していい写真が撮れなかったっていうこともあるんですよ。そんな時は、もう一度撮影するために同じメニューを食べに行きますね。

毎日10キロ走って体重管理

【原田】文章についても教えてください。りょうくんの場合、Twitterは「まじでこの世の全ての○○好きに教えてあげたいんだが」で始まる定型文ですよね。定型文にしたのはなぜでしょうか。

「りょうくんグルメ」ツイッターの文面。2・6万いいねがついている。
「りょうくんグルメ」ツイッターの文面。2.6万いいねがついている。

【りょうくん】毎回文章を考えていると手が回らないので、単純に効率の問題ですね。インパクトのある定型文は拡散もされやすいので、一石二鳥と言えるかもしれません。

【原田】確かに、りょうくんはほぼ毎日投稿していますね。この投稿量だとお店を回るだけでも大変だと思いますが、どんなスケジュールでこなしているんですか?

【りょうくん】感想を聞くために女性と一緒にいくので、互いのスケジュールが合う日に撮りだめをしています。1日に6~8軒回って食べまくって、その後2日間は胃を休めるためにサラダだけという感じですね。本当は1日3軒ぐらいにしたいんですが、相手の都合もあるから仕方ありません。でも、こんな生活だとどうしても太っちゃう(笑)。だから毎日10kmぐらい走っています。

【原田】裏ではそんな苦労があるんですね。でも、どんなに大変でもやはり自分で確かめて、全力でお勧めできる店だけを載せていきたいと。

【りょうくん】そうなんです。「りょうくんグルメ」は、もともとフォロワーとの信頼関係を一番大事にしてきました。自分で確かめる、信頼を裏切らない、嘘をつかないといった部分ですね。今はこうして仕事になっているわけですが、そこはずっと変わらないです。

PRの仕事も、フォロワーに勧められるものを厳選

【原田】ただ、インフルエンサーという立場になると、企業からPRのオファーがたくさん来るようになりますよね。その場合はどう対応していますか?

【りょうくん】フォロワー数が多いほどPR依頼も増えるので、選べるようになるんですよ。僕の場合は、バズる条件に合致していて、かつ自分で食べに行ってお勧めできると思った依頼しか受けていません。本当においしいと思った店しか載せないので、フォロワーとの信頼関係はキープできていると思います。

【原田】SNS上の嘘はばれると言われていますが、やはり「正直さ」をポイントにしているんですね。

【りょうくん】フォロワーを増やすには、楽しませることに尽きると思います。フォロワー数や「いいね」の数を増やしたい気持ちが先行している人も多いようですが、それよりも楽しませる方法を試行錯誤することが大事。僕も、自分の感覚ではお勧めできると思ったものでも、フォロワーはそうは感じないかもしれないと思ったら、100%フォロワーを優先しています。

SNSには、インフルエンサーでなくても、とてもいい投稿をする人がたくさんいます。僕も最初はそれを真似ていたので、まずはSNSをながめてまねることから始めてみてはどうでしょうか。

【原田】写真も文章も、フォロワーを優先に考えることが大事なんですね。楽しませること、そして信頼関係を大事にしていると聞いて、りょうくんの今の影響力はフォロワーの満足度を追求し続けた結果なのだと実感しました。

企業でも個人でも、SNSをやっていれば誰もがバズる秘訣を知りたいところでしょう。でも、その機会は偶然や奇跡を待っているだけでは訪れないようです。りょうくんの場合も、トライ&エラーとフォロワーの反応データを積み重ねてきたからこそ今があるように思います。膨大なフォロワー数という成果を得た今、彼は次の展開をどのように考えているのでしょうか。次回は「りょうくんグルメ」の今後について探っていきたいと思います。