SNSでのグルメ系情報源として、この連載の若者座談会でもたびたび名前が上がってきた「りょうくんグルメ」。今回はその“中の人”であるりょうくんが登場。若者文化に詳しい原田曜平さんが、彼の素顔やSNS戦略に迫ります。

タピオカブームの火付け役の素顔とは

【原田】「りょうくんグルメ」はタピオカブームの火付け役とも言われていて、特に中学生~大学生の女子に大人気ですね。ただ、フォローはしていても「りょうくんって何者?」と思っている若者も多いようです。実際のところ、何者なんですか(笑)?

マーケティングアナリスト原田 曜平さん(左)とグルメ系インフルエンサー「りょうくんグルメ」のりょうくん(右)
マーケティングアナリスト原田 曜平さん(左)とグルメ系インフルエンサー「りょうくんグルメ」のりょうくん(右)

【りょうくん】僕は宮城県出身で、フィリピンと中国に語学留学をした後、帰国後の2018年にSNSを始めました。最初は試しにいろんな話題を投稿していたんですが、グルメ系が一番反応がよかったので、それがわかってからはグルメだけに絞って今みたいな形になりました。

【原田】始めて約2年でここまで有名になったのはすごいことですね。これまで何度もりょうくんグルメが掲載して、行列ができた飲食店を見てきました。フォロワーの反応を見て話題を絞ったということは、初めからインフルエンサー的な立場を目指していたのでしょうか? 将来的にはビジネスにつなげたいと。

【りょうくん】グルメに絞ったのは、もともと食い意地が張っていたこともあるんですが(笑)、初めからSNSで有名になろうとは思っていました。うちは父も祖父も起業家で、特に祖父は通信系の会社を経営していたので、小さい頃から継ぎたいなと思っていたんです。それでビジネスに興味を持つようになって、経営コンサルタントの大前研一さんが学長をしているオンライン大学「BBT大学」(ビジネス・ブレークスルー大学)で学んだりもしました。

試行錯誤を重ねて「流行はつくれる」と確信

【原田】りょうくんには起業家の血が流れているんですね。BBT大学でビジネスを学んだ後、留学先にフィリピンや中国を選んだのはなぜでしょうか。

【りょうくん】フィリピンはBBT大学で東南アジアの経済を学び自分の目で見てみたくて。中国は祖父に勧められたのと、当時まだ留学先に選ぶ人が少なかったので、行っておけばのちのち武器になるかなと思ったんです。

ある日の「りょうくんグルメ」のツイッター投稿。
ある日の「りょうくんグルメ」のツイッター投稿。

【原田】確かに、中国は今やビジネスの世界で欠かせない市場になっていますね。お話を聞いていると、常にしっかり先を読んでいるように感じますが、今「りょうくんグルメ」に女子高生や女子大生のファンが多いのも、狙った結果でしょうか。

【りょうくん】そうですね。「りょうくんグルメ」は21歳ぐらいの女性をターゲットにしているんですが、なぜかというと女性のほうがクチコミ力があるから。金銭感覚も僕と近いですし、友人にも女子大生が多いので、一緒に行って感想をフィードバックしてもらいやすいんです。

でも、女子高生のフォロワーが増えたのは少し意外でした。僕が投稿するもの、例えばタピオカドリンクなどは700円ぐらいで、高校生には少し高いだろうと思っていたんです。でも、僕の地元の宮城では高いと感じられても、東京の高校生は普通に買うみたいで。それもSNSを始めてから分かりました。

りょうくんがこだわる投稿の3条件

【原田】投稿の内容についても聞きたいんですが、載せる・載せないは何を基準に決めていますか? 一口にグルメ系といっても幅が広いですから、当初は反応が悪かったものもあったのでは。

【りょうくん】重視しているのは①見た目、②味、③コスパです。特に見た目は本当に大事だとわかったので、今はインスタで「これは反応がある」と思える写真を探すところから始めています。次に値段や場所を調べて、最後に自分で行って確かめるという流れですね。

【原田】 「団子より花」の時代に完全になったわけですね。しかもインスタでお店を探すなんて、過去の「花より団子」世代のグルメブロガーには考えられなかった発想かもしれませんね。

【りょうくん】今はフォロワーの反応が大体予測できるので、5軒行って4軒紹介できるぐらいの精度ですが、始めた頃は紹介できる確率がもっと低かったので大変でした。ラーメンやカレーなど身近なジャンルは反応がいいだろうと思って載せたら全然だったり。

今思えば、ラーメンやカレーには若者が重視する「見た目のサプライズ感」がないですし、僕より信頼度の高い専門家がたくさんいますよね。同じような理由から、僕は寿司や肉料理もほとんど紹介しません。食べ放題ならともかく、ビジュアル的にはこれまでの経験で拡散されないことがわかっているので。

【原田】 日本人に最も人気のあるラーメンやカレーをほとんど載せないっていうのは、これまでのグルメブロガーもびっくりでしょうね。発想ややり方が全て「若者目線」ですね。

こうした経験を重ねて、今では何がバズるかわかるようになってきました。フォロワーに喜ばれるものを最優先にして、嘘はつかず、信頼を裏切らないようにしっかり自分で確かめてから紹介する。そうすれば流行はつくれると確信しています。

「世代の違う女子の感覚がわかる」ことが武器

【原田】自分なりの“バズる秘訣”をしっかりつくりあげているんですね。でも、りょうくんは今31歳ですよね。一般的には、30代の男性にとって20代女子の反応を予測するのはとても難しそうに思えます。

【りょうくん】今のところ、写真への反応にはあまり男女差はないですね。でも、店の雰囲気や味に関しては、女性のほうが反応が細やかだと感じています。そのあたりは、一緒に行く20代の女性に感想を聞くことでカバーするようにしています。一緒にいても疲れなくて味覚の合う女性が5人ぐらいいて、互いにスケジュールを合わせながら店を巡っています。

りょうくん

【原田】自分の感覚と、一緒に行く女性の感覚とでWチェックしているんですね。でも僕の場合は、年をとるにつれて若者や女性との“感覚のズレ”が大きくなってきている気がして……。りょうくんは、そうした世代間ギャップや男女間ギャップみたいなものは感じませんか?

【りょうくん】感じたことがないんですよ。実は20代前半からずっと、女性や若者と感覚がズレないように意識してきたんです。年上でも年下でも、年の離れた女性とはまめに連絡をとって、交流が続くように心がけてきました。そうした人たちの感覚を理解できるということを、自分の武器にしようと思って。

【原田】ずっと若者研究していた僕からすると、きっといずれ感覚はずれてきます。ただ、ずれた分、客観的視点は増します。若者たちと協働しながら客観的に分析するスタイルが今後も続けられるときっと強いですよね。

知らない女子大生からダメ出しされるタイプ

【原田】そうした積み重ねが、今は実際に武器になっているわけですからすごいですね。ビジネスの世界にも、若者や女性の感覚を理解したいという人はたくさんいます。どうすればりょうくんのように交流できるのでしょうか。

【りょうくん】これといった方法論はないんですが、僕は女性に怒られやすいタイプみたいです。中学生の頃からずっとそうで、母性からなのか「そんなんじゃダメだよ」ってよく注意されてきたんですよ。今も、SNSで知らない女子大生からタメ口で怒られたりしています。完全に友達感覚で、同い年の友人みたいに接してくれるのでありがたいですね。

【原田】よく言われる「上から目線」はダメで「横から目線」ですね。というか、りょうくんの場合は「下から目線」かもしれませんね。僕のジェネレーションZ研究でも、Z世代は大変自意識が強くなってきているので、「下から目線」が大変重要になってきていると思います。じゃあ男性の場合はどうでしょう。年の離れた人の感覚をつかむために、工夫していることはありますか?

【りょうくん】自分自身が男性なので、感覚は年が離れていても結構わかっちゃいますね。そういう意味ではあまり学ぶことがないというか(笑)。以前、会員制サロンのHIU(堀江貴文イノベーション大学校)に入っていて、そこで幅広い世代の男性の友人ができたので、今は無理に交流を広げなくてもいいかなと思っています。今回の原田さんのように、仕事の場を通じて自然に知り合えるのが理想的ですね。

今はとにかく面白い人に出会いたいと思っています。日々充実しているんですが、その出会いだけが足りない。面白い人と一緒に何かやりたくて、それが有名になりたい理由でもあります。堀江貴文さんのような、自分が無条件に「この人面白い!」と思える相手をずっと探しています。きっとビジネスの世界にいるはずなので、早くそうした人と交流を深められるようになりたいです。

【原田】「りょうくんグルメ」はもはや立派なビジネスの一つになっていますから、その日も近いように思います。お話を聞いて、今の影響力は確かな目標や戦略があったからこそ実現できたのだと感じました。

かつてりょうくんがSNSで紹介したタピオカやチーズドッグは若い女子の間で大ブームになり、今も彼が取り上げたお店にはたちまち行列ができます。彼は今やヒット商品を紹介するのではなく、つくる立場。企業のマーケティング担当者やSNS担当者も、その戦略を参考にしてみてはいかがでしょうか。次回からは、SNSでバズるためのチェックポイントや写真の撮り方、そして「りょうくんグルメ」の今後の展開について聞いていきたいと思います。