ごく普通の会社員が節約によって1億円の資産を築くケースは結構あるという。かといって我慢に我慢を重ねて節約をしているわけではない。多くの節約家を見てきたファイナンシャル・プランナーの藤川太さんは、「お金持ちになった節約家は、ある習慣を身に着けている」と話す。
達成
※写真はイメージです(写真=iStock.com/kiddy0265)

“1億円貯める才能”がある人とは

節約だけで1億円貯める――。一見、不可能に思えるが達成している人はいる。たとえば、節約家の中には、年収に対する貯蓄率が30%を超える人も少なくないが、年収500万円なら毎年150万円の積み立てができる。これを40年続けると年率1%の運用でも約7400万円に達する。退職金を加えれば1億円に手が届きそうだ。

「ごく普通の会社員と節約家タイプの資産形成曲線」

「節約がそれほど苦にならない人は“1億円貯める才能”があると思っていいですね」とは、ファイナンシャル・プランナーの藤川太さんだ。節約を実践できる人は、身の丈に合った生活が身についているからだ。

たとえば、月収20万円の独身女性が家賃10万円以上のワンルームマンションに住むのは身の丈にあった生活とは言えない。新婚夫婦が最初から3LDKのマンションに住み、大型テレビや乾燥機付き洗濯機など何でも揃った生活をするのも同じだ。これではお金持ちになれるはずはない。

最初から何もかも手に入れてしまうと、あとは後退するばかり。新しいものを手に入れる生活は前向きになれるが、すでに手にしているものを手放すのは想像以上に心理的ダメージが大きいものだ。だからこそ、身の丈にあった生活が重要になる。

「節約家のお金持ちは、収入が増えたり、ある程度の資産を築いた後も堅実な生活を続けていることが多いですね」

これこそ、お金持ちになった節約家が実践していることだ。しかし、そんな節約家にも2つの落とし穴が待ち受けているという。

節約家を待ち受ける2つの落とし穴とは

節約家を待っている落とし穴は「家」と「教育」だ。

「どんなに堅実な生活をしている人でも、マイホームとなると体力以上のものを買ってしまいがちです」と藤川さん。

結果、ローンの返済ができなくなり、家を手放すことになったりする。

また、自分のことは我慢できても、子どものことにはブレーキが効かなくなる人も多い。中学受験をさせようと思えば塾の費用がかかるし、入学後の学費も嵩む。冷静に考えれば、塾に通うことが直接子どもの学力を伸ばすわけではない。大事なのは家で勉強をする環境をいかに整えるかだが、塾に通わせることで親の責任を果たしたと勘違いしてしまうのだ。では、1億円貯められた人は教育費をどうしているのか。

「1億円貯めた人は、いい公立がある地域に住んでいるケースが多いですね」

最近は中高一貫の公立校が人気になっている。マイホームを選ぶ際には、「通勤に便利」でかつ「いい公立校がある」地域を重視する人が多くなっているという。

1億貯めるには住宅費を年収の15%以内に

実際に「家」と「教育」の費用は、どのくらいに抑えればいいのだろうか。

「子供がいる家庭なら住宅コストは額面年収の2割以内が目安です」

夫婦合わせて年収が1000万円なら、年間の住宅ローン返済額は200万円以内にする。マンションを購入するなら管理費・修繕積立金も含めて2割以内なので住宅ローン返済額はその分小さくなる。欲を言えば15%以内に抑えられれば理想だという。

「実際に1億円貯めた人は15%以内の人が多いですね」

さらに住宅+教育の費用を年収の4割以内に抑える。一般的に年収の2割は税金や、年金、健康保険などの社会保険料として給与から天引きされてしまう。住宅と教育を4割以内に抑えなければ貯蓄などできないのだ。ちなみに子供のいない家庭なら教育費がない分、住宅コストだけで3割までOKだ。

お金持ちになるための住宅費と教育費の目安

見栄より「損しないこと」に価値がある

「これまで多くの家計を見てきた経験からすると、私たちの心が貧乏神を作り出しお金が貯まらないことが多いですね」という藤川さん。

どんなに収入が多くても満足できない人は多い。その原因は人間が物事を「他人との比較」で考える傾向が強いからだ。自分よりたくさん稼いでいる人がいれば、もっと高い収入が欲しくなる。これは心の問題といえる。節約家は自分の中にそうした貧乏神を見つけ出し、追い出すのが上手な人たちなのだ。

代表的な貧乏神をピックアップすると、【図表3】のように8種類ある。

心に住みつく8つの貧乏神

誰でも少なからず「いいものが欲しい」と思う。それが高じると「そんなものに?」と周囲が疑問に思うものにも、お金をつぎ込むようになってしまう。これが「見栄っ張り」の貧乏神だ。見栄が強くなると、たとえば「自動車を手放すべき」と頭ではわかっても、心が手放すことを許せなくなる。

「相手に嫌われたくない」とは誰でも思っている感情だろう。その結果、勧められるままに高額な商品をローンで購入したり、必要のない保険にいくつも加入したりしてしまう。あるいは、「他の人と同じものが買いたい、同じことをしたい」というのも同じ。「他人の目ばかり気にする」貧乏神の仕業だ。藤川さんは言う。

「1億円貯めた人は、自分の価値観がしっかりしているので人と比較しません。見栄を張る必要もない。お金持ちが集まる飲み会に参加したことがありますが、ごく普通の居酒屋でしたし、参加者の多くがその店の割引クーポンを用意していました」

見栄を張ることよりも「損をしないこと」に価値があると考えているのだろう。

1億貯まる人の情報収集力

「比較検討しない」人も貧乏神を呼び寄せる。牛乳やトイレットペーパーなどの日用品は比較して、少しでも安い店舗で購入するのに、金融商品となると「難しい」「面倒くさい」ことを理由にと比較をしない人は多い。これでは日々の生活で10円、20円の節約をしても意味がない。

都合の悪い将来のことから目を背け「目先のことばかり考える」人も貧乏神に好かれる。よくあるのは、マイホームを購入する際に現在の家賃負担額や貯蓄ペースから購入できる物件の金額を決めるパターン。将来、教育費負担が増えると予想される時期でもクリアできるなら問題ないが、そんなことも考えず当面のローン返済額が低いというだけで契約してしまう人もいる。

「1億円貯めた人は、今だけでなく将来も考える。徹底的に情報収集して比較・検討してからでないと、お金を支払わない。調べるだけでは不十分と感じたら、詳しい人のところに話を聞きに行く。そんな行動力を持っている人たちなんです」

投資で失敗しても切り替えが早い

「過去のことに引きずられる」のも悪影響を及ぼす。たとえば、「100万円で購入した株式が30万円に値下がりしたのに手放せない」というのは典型例。取り戻すことができない過去の損失に囚われて、将来の損失を許してしまう。

「未来が見えなくなっているのは貧乏神が住み着いた証拠ですね」と藤川さん。

「楽な儲け話に目がない」人も貧乏神に取りつかれていると思ったほうがいい。たとえば、「FXで1億円」「ラクラク不動産投資」などといった本をたくさん読んだり、宝くじを毎回買っていたりする。時間とお金を浪費していることに気づかず楽に儲けることばかり考えている。

「1億円貯めた人は、投資を始める前にしっかり勉強しているので、リスクがあることは十分に理解してリスクを管理しようとします。だから、失敗しても大きな失敗になりにくいですし、気持ちを切り替えて失敗を次に生かすことができるのです」

節約で1億円貯めた人に“一点豪華主義”の人はいない

藤川さんは、1億円貯めた節約タイプの人に、自分へのご褒美が好きな人や一点豪華主義の生活をしている人はいないと言う。一点豪華主義は一見節約タイプの特徴のようにも思えるが、無駄なお金を使っているのに「必要な支出」と正当化してしまい、アンタッチャブルな聖域をつくってしまう危険が潜んでいる。「1億円貯めた人は、支出に聖域をつくりません。とくに趣味やブランド品に関する支出が極めて少ないのが特徴です。それに、聖域をつくってしまうことが夫婦喧嘩の元になることもよくありますね」

先送りばかりしている人も貧乏神に好かれる。結婚費用や教育費の準備は早く始めるほどいい。頭ではそれがわかっているのに先送りしてしまう。結局、期限が目の前に迫ってから始めるのでうまくいかない。

消費税率が上がり負担は増えたが、収入はなかなか増えない。それが現実だが、お金が貯まらないことを会社や社会の責任にしていても何も改善しない。家計に最もブレーキをかけているのは自分自身であることに気づくことが重要だ。他の人をうらやんだりせず、自分自身に目を向けて貧乏神を追い出すことこそ、お金持ちへの近道となりそうだ。