ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。新型コロナウイルスによる休校措置に伴い、政府はベビーシッター補助額の大幅拡大を打ち出しました。海外と比べ、日本ではシッターをフルタイムで使う人はまだまだ限られています。今回は、シンガポールの育児システムとの比較をしたいと思います。
子供と犬とぬいぐるみ
※写真はイメージです(写真=iStock.com/chachamal)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学校の臨時休校への措置として、内閣府は国が企業に補助する従業員のベビーシッター利用料の上限を引き上げることを決めました。

当初、助成分は「雑所得」となるということでしたが、3月5日夜、新型コロナウイルス感染症対策のため、本特別措置の趣旨に沿った割引券利用による経済的利益は非課税所得となると内閣府が発表しました。特例措置の趣旨に沿った割引券の利用については、令和2年(2020年)3月に限り、1日(回)対象児童1人につき2200円の割引券を複数枚、1家族当たり1カ月に120枚まで使用できるため、最大26万4000円の補助となります。

学校が休校になって預け先に困っている共稼ぎ親にとっては助かる補助だと思いますが、あくまで非常時の限定的な措置なのが残念だと感じました。

日本ではベビーシッター代はまだまだ高く、1時間2000円前後で、業者によっては登録料や年会費などもかかります。病児などのスポットで利用することはあっても、フルで利用している人はあまりいないというのが現状です。

東京都では、平成30年(2018年)度から、待機児童対策としてベビーシッター利用支援事業(ベビーシッター事業者連携型)を実施しています。待機児童の保護者や育児休業を1年間取得した後復職する保護者が、子供を保育所等に入所できるようになるまでの間、東京都の認定を受けた認可外のベビーシッター事業者を利用する場合の利用料の一部を助成するというものです。

これを受けて少し前に、「保育園落ちてもベビーシッターは1時間150円」との仲介企業による宣伝がSNSで話題となりました。しかし、助成を受けた額は雑所得となり、総合課税扱いとなります。翌年に確定申告が必要で、思わぬ税金がかかる可能性が高いのです。

例えば、年収が600万円(源泉徴収前の給与と賞与の合計額)、月平均220時間利用した場合(月助成額49万5000円)、本事業利用により生じる税額は月11万300円となります。年間132万3600円もの所得税がかかる上に、住民税、人によっては国民健康保険税の負担増もあります。

もちろん、月49万5000円もの助成を受けられるのでそれでも助成を受けて働く方が経済的なメリットが大きい場合も多いでしょう。しかし、保育園の利用者の場合、サービスを受けた額だけ税金が増えるといったことはありません。保育園には公費が投入されているので、全額を自費で払うよりも恩恵を受けているはずです。

これらのニュースを受けて、仲介企業の宣伝の仕方の問題とともに、税金面からも日本は子育て世代に優しくないと感じてしまいました。

外国人ヘルパーも保育園も利用できるシンガポール

シンガポールでは既婚女性の就労を支援するために、個人がスポンサーになって、外国人ヘルパーを容易に雇うことができ、一方で保育園も利用することができます。外国人ヘルパーの費用は人にもよりますが、日本円にして月5万円前後。加えて国に納めるメイド税が日本円で2万5000円ほどかかります(雇う人数にもよる)。ただし、所得税の優遇措置があり、所得の金額からメイド税支払額の2倍の金額を控除できます。メイドが一人で税負担率が8%なら、年間5万円弱税金が少なくなります。メイド税として、年間30万円弱支払う必要があってもその負担の軽減策があるということです。

その他、ヘルパーの医療費などもかかりますが、合計して月平均10万円程度で住み込みで雇うことが可能です。子供の世話の他にも家事もお願いできます(ちなみに香港はメイド税もないのでさらに安く利用ができるようです)。

一方で、シンガポールでは保育園も希望すれば誰でも利用ができ、ママが休職中でも入園できます。料金は国民、永住者、外国人と3段階に分かれており、国民は一般に日本の認証保育園程度の料金で預かってもらうことができます。外国人からは少し高い料金を取ります。ですが、財源が潤沢にあるため、質も量もよくすることができます。保育園や幼稚園がどんどん街中に建っていくので、生徒を募集しないとうまらない園もあるほどです

「こんな繁華街のど真ん中に?」といった一等地に保育園ができることもありますが、日本のように静かな国ではないですし、子供は国の宝だと思っているのでうるさいなどとは誰も言いません。日本よりも保育費は高いですが、日本人や欧米人などの外国人が利用しても満足度が非常に高いようです。日本のように、支払う料金と質が比例しないという不公平感もないのがよいところです。一般に7時から19時まで預かってもらうことができ(3食付きでシャワーも浴びさせてくれる施設も)、英語と中国語のバイリンガル教育に加えて算数などの基礎教育も充実しています。そのため、両親は安心して仕事に専念できるのです。

ベビーシッター代はなぜ経費にならないのか

日本も、シンガポールや香港のように、英語ができるフィリピン人のヘルパーなどを気軽に安価で雇うことができれば、待機児童の解消にもなりますし、子供の英語力も上がるのではないかと思うのですが、現在、個人でスポンサーになれるのは一定の条件をクリアした外国人のみ。企業がスポンサーになると、国は管理をしやすいですが、現況の社員として雇うため、どうしてもコスト高になってしまいます。待機解消に加えて、こういったコストを軽減させるために冒頭に紹介したベビーシッター利用支援事業ができたのでしょう。

しかし、ベビーシッター利用支援事業を利用しても、前述のように後から高額の税金が来るのであれば、やはり保育園でないとダメだと思う人も多いのではないでしょうか。日本もシンガポールのメイド税に対する控除のように、この制度を使うための税金の控除をしてもよいのかもしれません。

ちなみに、ベビーシッター減税に関しては2017年度税制改正で給与所得者の「特定支出控除」として、盛り込まれる可能性がありましたが、見送られています。

国税庁HP:給与所得者の特定支出控除

今後どこかで「特定支出控除」として、盛り込まれたとしても、特定支出控除は利用しにくいというデメリットもあります。そもそも自営業者は利用することができません。日本は、接待交際費などの範囲は広いのに、なぜベビーシッター代が経費にならないのかという議論になっています。

税金がかかるなど注意点も多いですが、その後の人生にかかる子供の学費や自分の老後の費用などを考えると、保育園に入れなかった場合など、ベビーシッター利用支援事業を利用してもキャリアは継続した方がよいでしょう。例えば、会社の人事や総務などと相談をしながら、企業にベビーシッター代を一部負担してもらうなども含めて現実的な方法を模索するのもよいのかもしれません。

利用前にきちんと調べて、自分の税金額を試算し、申告手続きや税額の計算方法等、詳細は、お住まいの地域を管轄する税務署にご相談ください。また、事業の内容自体を知りたい場合は問い合わせ先の少子社会対策部保育支援課などに質問をするとよいでしょう。