2021年度からの介護保険料アップが報道されました。よく介護費の上昇は高齢化のためと言われますが、それだけでは説明できない実態があります。介護費用が上昇する本当の理由と、現役世代が心掛けるべきこととは――。
車椅子のシニア男性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/byryo)

介護保険料が引き上げに

こんにちは、家計コンサルタントの八ツ井慶子です。

先日、会社員(主に大企業)の介護保険料率が来年度から大幅に引き上げられるというニュースがありました。これを目にして、目先の負担増に対してのみならず、将来の老後不安に少なからずつながった方もいたのではないでしょうか。少しでもその不安軽減になればと思い、公的介護保険について取り上げ、さらに介護にどう備えたらいいのかを一緒に考えてみたいと思います。

ある記事では具体的な企業の健康保険組合名を挙げて、4月前後で公的介護保険料率がどれほど引き上げられるのか、従業員は年間でいくらの負担増になるのか具体的に書かれていました。事例の試算では、年収600万円の場合で年1万4400円のアップ。これだけの「手取り」が減ってしまうのですから、当然インパクトのある数字です。

そもそも「公的介護保険」とは、高齢期の介護を社会全体として支える仕組みです。2000年にスタートしました。40歳以上になると加入が義務付けられ、保険料を納めます。40~64歳は「第2号被保険者」という区分で、加入する健康保険へ健康保険料と共に介護保険料も納めることになっています。大企業に勤務していると、それぞれの健康保険組合に納める方も多いでしょう。

介護保険料大幅アップの本当の理由

今回の介護保険料の大幅アップの背景にあるのは、突然に介護保険利用者が増えて、介護費用が増加したとかではなく(確かに増え続けてはいるのですが……)、第2号被保険者間での「負担の仕方」の変更によるものです。

ごく大ざっぱな説明をしますと、従来は「第2号被保険者」の保険料は、その頭数で割ることで決定されていました。ところが、この場合だと、所得の低い人の負担が高い人に比べて相対的に重くなることが指摘されており、これを是正するのに、第2号被保険者の中でも「被用者保険(健康保険組合、協会けんぽ、共済組合)」といわれるところにおいては、所得水準を考慮して負担を分担するようになります。これを「総報酬割」といいます。

実は、この改正はすでに2017年度から段階的に始まっていて、2020年度で完全導入となります。そのため、中小企業よりも所得が高めである大企業の健康保険組合では保険料率がアップすることになるのです。

ただし、健康保険組合といってもすべてが引き上げられるわけではありません。そもそも加入する健康保険組合等により介護保険料率は異なるため、今回の改正の影響もそれぞれ、ということになります。

とりあえず、毎月の給与明細の「控除」欄を見れば、ご自身が毎月いくらの介護保険料を納めているのかはすぐに確認できます。具体的な料率を知りたい場合は、ご自身の健康保険証に明記されている「保険者」に直接問い合わせるか、勤務先の担当部署に聞いてみるといいでしょう。

今回の保険料アップの背景にあるのは制度変更に伴うものであったとしても、介護保険全体を見渡してみれば、介護費用が年々増え続けている事実は変わらず存在します。となれば気になるのは、さらに高齢化は進みますから、今後ますます私たちの負担は増えてしまうのか、でしょう。

75歳以上人口は2倍弱なのに、介護費用2.8倍の謎

結論からいいますと、それはいまの私たちにかかっているのではないか、と思うのです。

厚生労働省の介護費用データの推移をみると、制度が開始された2000年度は総額3兆6000億円でした。10年後の2010年度では2倍以上の7兆8000億円にまで膨らみ、直近の2017年度は10兆2000億円と当初のおよそ2.8倍にまで増え続けています。

一方で、高齢者の人口推移をみてみると、少し違った推移がみえてきます。

介護保険の利用者の大半は75歳以上なので、75歳以上の人口でみてみます。2000年の75歳以上の人口を「1」とすると、2010年は1.564、2017年は1.943です(いずれも国立社会保障・人口問題研究所の人口統計より試算)。

75歳以上の高齢者数は、2000年比で2倍程度の増加に対し、介護費用全体はそれを上回る3倍近くにまで膨れ上がっています。つまり、一人あたりの介護費用が増えている実態がみえてきます。

介護費用と人口

要介護が上がるほど、事業者が儲かる仕組み

この要因の一つとして、要介護度が上がるほど(介護状態が重くなるほど)、介護サービス事業者の売り上げが上がる構造が以前から指摘されていました。本来であれば、予防や介護状態は改善した方が本人や家族、ひいては社会にとってヨシとされるはずですが、“現場”にそのような雰囲気が醸成されにくいという指摘です。

これに対し、2018年度改定がなされました。介護状態が事業所全体として維持・改善がみられた場合に一定のインセンティブが行われるようになりました。その効果はこれからみていく必要がありそうです。とはいえ、このことが一人あたりの介護費用増加のすべてを説明づけることでもないであろうと思うと、引き続き、なぜ増えてしまったのか、制度に無駄はないのか、その上で必要な人のところにきちんとお金と介護サービスは行き渡っているのか等々、しっかり精査する必要はある気がします。

現役世代が今からできる介護予防

そしてもう一つ、私たちの意識を変えていくことです。

介護は予防ができます。一人ひとりの意識をちょっとずつでも変えることができれば、それは社会全体で大きな効果につながるでしょう。

例えば、「高齢になったら介護が心配」というフレーズを何度も口にするのではなく、「介護にならないよう健康を維持しよう」を口癖にしてみて、実際に行動してみることです。

私は団塊ジュニア世代なのですが、私が後期高齢者になる頃は支え手である“若者”の人数は、相対的に非常に少ないことはすでに分かっています。ですので、私自身のため、若者のため、社会全体のためと思いつつ、健康には非常に気を付けています。いまや自称“健康オタク”です。

毎日ストレッチや軽い筋トレを行ったり(たまにさぼる)、体をつくる源である食事にも、できるだけ自然のものを摂ろうと気を配っています(時折、断食もします)。ひどかった肩こりはかなり改善しましたし、ほとんど風邪もひかなくなりました。定期的に通っていたマッサージはやめることができましたし、転んだ以外はここ何年も病院にかかっていません(思い出せる限り、かつ歯科除く)。

一日一笑を心掛けて

悲観的な人よりも楽観的な人の方が認知症になりにくいとか、寿命が長いなどという医学データは多くあるそうです。笑いはNK(ナチュラルキラー)細胞を増やし、免疫力をアップさせることはよく知られています。

また、私たちは「言葉(言霊)」の影響も大きく受けるものです。「心配だ」と言い続けていると、心配事にばかり目がいってしまい、頭の中は心配だらけになってしまうものです。

これは脳科学的にも理にかなっていて、脳はほとんどの情報を認知せずにスルー(破棄)しているのだそうです。ところが、意識したものの情報は拾う習性があるのだとか。例えば、「ハワイに行きたい」と思っていると、なぜかハワイの看板を目にしたり、旅行情報に気が付きやすくなったりするのは、脳の働きによるのだそうです。

心と体はリンクしますから、何十年も先で、かつ100%なると決まっているわけではない介護のことで(いま)やきもきするよりも、いま目の前で、そうならないために何ができるかを考えて、建設的に行った方が健全ではないでしょうか。一人ひとりのそうした意識改革は、日本の社会保険の財政を改善させるパワーさえ秘めていると私は思います。

「一日一善」もとても大切ですが、まずは「一日一笑」から心掛けてみてはいかがでしょうか(真剣)。