物価上昇が続けば円資産は目減りする

東京五輪が目の前に迫った今、その後の日本経済はどうなるか、気になるところ。景気が落ち込むとすれば、私たちは資産をどう守っていけばいいのだろうか……。

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経済評論家の藤巻健史さんは、五輪後はインフレに注意すべきだと話す。

「その理由は、日本の借金が世界でワーストワンになっているからです」

借金の規模を把握する際には、GDPと比較するのが一般的だが、米国は約104%でドイツは約62%。財政危機に陥ったギリシャでさえ約185%なのに日本は約237%になっている。しかし、日本が財政危機に陥るとは考えにくい。

「それは政府、日本銀行(以下、日銀)、金融機関の三角関係でお金をバラまいているからです」

政府は国債を発行し、金融機関に売却して足りないお金を賄う。金融機関はその国債を日銀に買い取ってもらう。日銀は紙幣を印刷すれば国債をいくらでも買い取ることができる。ユーロを刷ることができるのは欧州中央銀行のみで、ギリシャの中央銀行では刷れない。その点が日本と異なるというわけだ。

その結果、日銀の貸借対照表(B/S)では、負債が膨らんでいるのがわかる。20年前の1998年の時点では86.2兆円だった負債合計が、2018年には553兆円に。このうち紙幣(日本銀行券)発行高が108兆円で預金が421兆円。預金の394兆円は当座預金で、これは金融機関が日銀に預けているお金。この2つのお金を使って、何とか乗り切っている状態だという。しかし、お金が増え続ければ、貨幣価値が下がってインフレになる可能性は高くなる。

急激なインフレではないが、物価は確実に上がっていると指摘するのはファイナンシャル・プランナーの深野康彦さん。「身近なところでいえば、ブルボンのお菓子“ルマンド”は中身が1本減りました」

ただ、物価はジワジワと上がっているが、日本の財政状態は、それほど深刻ではない、とも言う。

「IMF(国際通貨基金)が公表している統合政府のB/Sを見る、という考え方があるからです」

これは、日銀は公的機関なので、政府と合わせて統合政府として計算するべきだという考え方だ。これによると、日本の負債合計は1558兆円になるが、政府にはさまざまな国有資産があるので、その合計は1530兆円で、実質的な負債は28兆円という計算になる。

経済が成長する国こそお金を増やすことができる

日本の財政状況について両者の意見は分かれるが、では、私たちのお金はどうすればいいのか。

過去の実績として日本と米国の株価の推移を見ると、日経平均株価はバブルピークの1989年に4万円弱に達した後、当時と比較して40%減の状況が続く。一方ニューヨークダウは、同じ期間で10倍に伸びている。100万円を株で運用していたとすれば、日本株では60万円に目減りしているが、米国株なら1000万円に増えていたことになる。なぜ、このような差が生じるのだろうか。

「それはGDPの成長の違いです。米国は過去30年間で3.5倍になっていますが、日本は1.6倍にしかなっていません」(藤巻さん)

ちなみに中国は同じ期間で33.5倍に成長。これは日本で中国人観光客が急増したことにもつながっている。中国の経済を80年と現在で比較すると、人民元のレートは10分の1にまで下落。中国でモノをつくれば安く輸出できるようになったので、中国は世界の工場になった。それによりGDPは220倍まで成長。円を基準に考えると人民元が10分の1になったので、経済成長の効果も10分の1で22倍になるが、それでも日本の1.6倍と比較すると驚異的な成長となる。結果、中国にとって日本は物価が安い国となり、観光客が押し寄せている。

好調な今の米国経済は日本のバブル期に似ている

経済成長が期待できる国に投資すれば、お金が増える可能性があるわけだが、中国はリスクが高い。比較的安心なのは先進国で経済成長の可能性がある国となるが、そうなると選択肢は米国となる。

「ただ、米国は今後、経済が過熱しすぎる可能性があるので注意が必要です」(藤巻さん)

その理由は、今の米国は日本のバブル期と似かよっているからだという。80年代後半、日本では地価や株価が上昇していたが、物価が低迷していたことを理由に金利を引き上げなかったため、さらに資産価格が上昇、経済が狂乱してしまった。現在の米国はニューヨークダウが最高値を更新しているにもかかわらず、金利を引き下げている。

「今の米国のバブルは、日本の88年ごろの状況に差し掛かっていると思います」(藤巻さん)

日本にはインフレリスクがあり、米国にはバブル崩壊リスクがあるとするならば、お金はどうすればいいのだろう。

日本経済の成長があまり期待できないとすれば、資産を円だけで保有していると目減りしてしまう可能性がある。為替レートは2国間の力関係で決まるので、ドル/円で考えた場合、日本よりも米国のほうが経済が強いと判断されれば、円安・ドル高になる可能性が高い。

「ドルで資産を持っていたほうが資産防衛につながります」(藤巻さん)

藤巻さんのお薦めは米ドルMMFと米ドル預金。米ドルMMFとは安全性の高い米国の債券などで運用される投資信託。元本は保証されないが、米ドル預金と同程度に安全性が高い。違いは税金の扱い。米ドルMMFは利益に対して20.315%が課税される。一方、米ドル預金の利益は、給与などほかの所得と合算されて課税されるので、本業の所得税率が高い人は不利となるので注意しよう。

深野さんも外貨資産の保有には賛成の立場だ。

「私たちの生活は給与にしても円が基本。資産まですべて円で保有するのはリスクがあります」

勧めるのは広く世界に投資する投資信託を保有すること。それは世界の経済成長を自分の資産に取り込むことにつながる。たとえばMSCIコクサイ・インデックスに連動する投資信託なら、先進国の成長に合わせて自分の資産も増加する仕組みだ。

きんはインフレや経済危機にも強い資産として知られている。その理由は現物資産であること。株式や債券はペーパー資産といわれ、発行元が破綻すると紙クズになる可能性があるが、金は現物があるので、価値がゼロになることはない。また、インフレ時にはモノの価格が上がるので金の価格上昇も期待できることから、持っていて安心な資産といえる。金は宝飾品需要が高いのも特徴で、全体の5割以上を占める。金の価格が下がると金を買う人が増えるので、価格が戻りやすい面がある。

ただ、金の価格は2018年の半ばから急上昇していて、これから買っても大丈夫なのか不安はある。

「毎月定額で積み立て購入するのがいいでしょう」(深野さん)

将来価格が上がったときには有利

地金商や証券会社、銀行で扱っている純金積立なら毎月1000円から積み立てが可能。貯まった資金はいつでも金製品と交換できる。毎月定額で積み立てると購入単価を平均化する効果がある。価格が高いときには少なく、安いときにはたくさん買うことになるからだ。今後価格が下がったとしても、その分、多く買うことができるので、将来価格が上がったときには有利になる。

「金は持っていても金利がつきませんが、資産を守る効果はあります」(藤巻さん)

不動産も金と同じ現物資産、インフレに強いという特徴がある。問題は価格がすでに上昇していること。国土交通省の公示価格によると、18年時点では前年比で5%以上上昇したのは、東京23区で港区、品川区など6区だったが、19年には12区に広がっている。人件費や原材料費が上昇しているのも不動産価格を押し上げている要因だ。

「その意味で不動産は買い時とは言えませんが、マイホームなら別。今は金利が低いですから、買ってもいいと思いますね」(深野さん)

金融機関と住宅金融支援機構が提携して貸し出している住宅ローン「フラット35」の最低金利は、19年12月時点で年1.210%(返済期間21年以上、融資率9割以下の場合)。35年の固定金利でメリットが大きい。

「将来インフレになれば、ローンは逆に有利になります」(藤巻さん)

インフレになると現金の価値が目減りすると同時にローンの価値も目減りする。物価が上昇すれば給料も上がるので返済はラクになる。

マイホームでなければ、投資信託で不動産に投資する方法もある。J-REITはオフィスビルや商業施設、住宅などに投資して家賃収入などを投資家に分配する仕組み。少額から投資できるのがメリットだ。

17年に価格がブレイクして話題になった仮想通貨(暗号資産)。日本ではあまり浸透していないが、世界では広く利用されるようになっている。

「世界には銀行口座を持たない人が17億人いるといわれています。その人たちもネット環境さえあれば、仮想通貨で決済や送金ができるのです」(藤巻さん)

先進国ではほとんどの人が金融機関に口座を保有しているので、買い物の決済や送金に不自由はない。しかし、口座を持たない人も多い新興国では、決済や送金が自由にできない。そのような人たちが仮想通貨を利用するようになれば、人気はさらに高まるという。また、仮想通貨なら銀行よりも安い手数料で送金できるので、先進国でも利用が広がる可能性は高い。とはいえ、焦って仮想通貨を保有することはない。

「将来、万が一Xデーが来たときに、資産の避難先として仮想通貨を利用できるような準備をしておくことは必要です」(藤巻さん)

必要になってから口座を開設し、取引しようとしても、やり方を知っていないとすぐには難しいのだ。

「仕組みだけでも学んでおくといいでしょう」(深野さん)

実際、国内でも口座数は上昇している。まずは、その仕組みを知ることからはじめておこう。

藤巻健史(ふじまき・たけし)
経済評論家
三井信託銀行を経て米モルガン銀行(現JPモルガン・チェース)勤務。元日本代表兼東京支店長。同行会長から「伝説のディーラー」の称号を贈られる。その後2019年7月まで参議院議員を務めた。
 

深野康彦(ふかの・やすひこ)
ファイナンシャル・プランナー
ファイナンシャルリサーチ代表。投資、運用、資産形成などの分野に強く、セミナー講師、マネー誌や新聞へのコメント、執筆のほか、All Aboutなどでも情報を発信している。