かつての富裕層は持ち家志向が強かったのに対して、最近の富裕層は賃貸で、しかもオフィスに徒歩で通える範囲に住む人が増えているのだそう。高額の家賃がもったいない! と思う人がいるかもしれませんが、彼らの価値観はそれとは真逆なのです――。
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賃貸にこだわる理由

昔からの富裕層は持ち家志向が強く、郊外に立派な一軒家を持っています。そのため、車で都内の会社に通勤している人も少なくありません(私が知っている交友関係に限ってなのでサンプル数は多くありませんが)。

しかし最近の富裕層は、自分が経営する会社の近くに賃貸物件を借りて住む人が多い傾向があります。

まず、なぜ賃貸に住むかというと、やはり環境変化に適応しやすいからでしょう。

収入の変化、仕事の変化、拠点の変化に柔軟に対応するには、賃貸物件が最も便利で使い勝手が良いのです。

「家賃はドブに捨てるようなもの」という意見もありますが、家賃を、「身軽さ・便利さ」「住み替えやすさ」や、「ローンを抱え、資産価値が下落することに対するリスクヘッジ」としての代替コストと考えれば、無駄ではなくなります。

たとえば建物のメンテナンスや内装・設備の修繕などは、基本的に大家の負担だから気にしなくていい。マンションを所有すれば管理組合に参加しなければならないですが、賃貸ならそんな煩わしいことはありません。

つまり、賃貸という居住形態のメリットを享受できるレンタル料だと考えれば、合理的な出費と言えるでしょう。

なぜ、お金持ちは会社の近くに住むか

次に、なぜ会社の近くに住むかというと、やはり職住近接による時間の効率化です。

始発駅に座れば読書やニュースアプリなどで情報収集ができる、勉強ができるという意見もありますが、通勤のために朝は早く起きなければならないし、帰りも遅くなります。

混雑する電車に揺られれば疲れます。車通勤でも渋滞に巻き込まれれば余計に時間がかかります。そしてその分、身体や頭を休める時間も減り、プライベートの時間も減るでしょう。

しかし、通勤時間がたとえば15分などであれば、疲労度は少なく余裕が持てます。仕事に費やせる時間が増えるし、趣味や副業などもできる。遅い時間になっても終電を気にせず飲み会などに参加できる。前日が遅くなっても朝はギリギリまで寝ていられるので睡眠時間が確保できる。

そういう観点からも、やはり職住近接は理想のひとつです。

私の知人で新卒者向けの就職サポートをする会社を経営している30代の起業家がいるのですが、彼は業容拡張のため何度かオフィスを移転させています。

そんな彼は、つねに「歩いて通勤できる場所」に引っ越すことにしているそうです。

全国から来る学生の利便性を考え、東京駅近辺にオフィスを構えているのですが、その近くとなると家賃の負担は小さくないはず。

それでも彼は「仕事に専念するには通勤は時間のムダですよ。それに満員の通勤電車もゴメンです」と言います。

彼に限らず、私の周囲の起業家・経営者で、会社の近くに住むという人はたくさんいます。

最近の富裕層は、なぜたびたび引っ越しするか

私は多くの起業家・経営者・投資家とSNSでつながっているのですが、そのウォール(投稿画面)を見ていると、「引っ越しました」という記事をたびたび見かけます。

「人生を変えるには、住む場所を変えるか付き合う人を変えることだ」という言葉を聞いたことがありますが、場所を変えると発想も変わるということを、彼らは本能的に悟っているのかもしれません。

やはり「初めての街に住む」と、気持ちが切り替わり、気分も一新、モチベーションが高まるというのは、多くの人が経験したことがあると思います。

もうひとつ、移動することは「何かを成し遂げたいという意思の表明」と言えます。

たとえば、新しい仕事や活躍の場所を求めて地方から東京に出る、東京からニューヨークに行く。あるいは逆に、自然の中でスローライフをするため東京から地方へ移動するとか。

子どもは自分で住む場所を選べませんが、大人になれば、自分の意志で住む場所を選ぶことができます。だから「この目的を達成したい」「このような生き方がしたい」という意思が、人を移動させるのです。

引っ越し13回。将来は教育移住も

卑近ながら、私自身の話を紹介します。

私も進学・就職・異動・転職・起業等のため、18歳のときに実家のある岡山を出て上京してから、もう13回も引っ越しをしています。

投資のタネ銭を貯めるために郊外の安アパートに住んだり、起業してからは会社の近くに住み、オフィスを移転させればまた新オフィスの近くに住むといった具合です。

数年前までは仕事に便利な都心に住んでいましたが、最近は子どもができたことで郊外に家を建ててそこに住んでいます。

都内では待機児童問題が深刻で保育園に入れないですし、公園なども少く、子どもが安全かつ自由に外遊びができる環境に乏しい。そこで自然が豊かな郊外の新興住宅地に引っ越したのです。

実はその先も計画があり、上の子どもが小学校高学年くらいになったら、家族でアメリカかマレーシアに教育移住をしようと思っています。これは子どもの語学能力と多様性をはぐくむためです(むろん子の意思は尊重するので、イヤだと言われればこの計画はなくなりますが)。

そして子どもが巣立ってしまえば(わが家では高校を出たら強制的に家から追い出すつもり)、再び日本に戻り、夫婦二人なので大きな家は不要となりますから、都心に所有していていまは賃貸に出しているマンションに住もうと考えています。

私の例は別としても、「自宅から通えないから」という理由で選択肢を狭めるのはもったいない。「家を買ってしまったから」という理由でチャンスをあきらめるのはもったいない。私たちは本来はもっと自由なはずです。

そして「自分の理想をつかむために、最も有利になりそうな場所はどこか」を振り返ってみると、「いや、自分はここではなく、あそこに住んだほうがよさそうだ」という判断になり、そこから人生が変わっていく可能性は十分あるのです。

住み慣れた今の場所に安住せず、戦略的に住む場所を考え直してみる価値はあるのではないでしょうか。