いまの仕事に必要なことをひたすら学ぶ

「社会人になってからの私の学びの原点です」と言って、村田珠美さんは1冊の本を見せてくれた。ページの耳が折られ、あちこちに書き込みが残るそれは、『英文簿記会計』。

日本精工 執行役CSR本部長 村田珠美さん

「当時、弊社の米国輸出製品に追加関税が課せられており、米国赴任からの帰任後、この調査対応を担当しました。米国商務省に提出する会計データを分析し、当局に英語で説明する必要が生じたのです」

当時、T字勘定(複式簿記)も知らなかった村田さんは、本屋でこの参考書を見つけ独学。上司に、教材選びの目のつけどころがいいと褒められたことにも気をよくして、有価証券報告書のP/L(損益計算書)、B/S(貸借対照表)から始め、会計処理の仕組みを理解していく。

「その時々の仕事に必要なスキルを見つけ出し、自発的に学ばなければ。そう自覚したのが、この時期です」

それから7年後、村田さんは経営企画本部へ。そこでコーポレートガバナンスについて学ぶ必要性を感じ、会社法の勉強をスタートした。

「実はこのころ、『あなたの専門は何?』と聞かれても答えられず、悩んでいました。それで自分の市場価値を知ろうと転職エージェントに行ってみたんですね」。面談でキャリアの棚卸しをしたあとでキャリアアドバイザーから聞いたのが、法学部出身でなくても、行政書士の勉強をして法律関係の仕事をしている人も多いという話。それだ!とひらめいた村田さんは、その足で資格予備校に申し込む。

そして、挑戦は1回と決め、約10カ月の猛勉強の末に一発合格した。「すべてが業務に活用できるわけではありませんが、法律を出発点とする筋道の通った説明力が向上。転職を考えたものの、やはり今の会社で頑張っていこうと決めた、転機となった資格です」

銀行出身の上司から企業財務の千本ノック

その後も担当業務が変わるたびに村田さんは学び続けてきた。M&A案件の投資銀行対応窓口となったときは、銀行出身の上司から企業財務戦略に関する千本ノックを毎日受け、基礎から教えてもらうのが申し訳なくて、大学の社会人講座でファイナンス基礎と企業価値評価を学習。部長時代には、会社の人材育成プログラムのなかのスキル評価の際、経営・戦略・会計に関する自己評価と上司からの評価に差があることにショックを受け、「これではいけない!」と日本CFO協会に入会。同時に通信教育でファイナンスを再勉強し、プロフェッショナルCFO資格を取得した。

学びの原点であり、いつもそばにあった“仕事の友”である2冊。何度も何度も繰り返し読んだ。

最近ではコンプライアンス担当となり、認定コンプライアンス・オフィサーを取得。資格の種類と数の多さには驚く。

「どの資格も、業務に必要な知識を短期間で効率的に習得する必要があって目指したもの。それに、私は臆病で優柔不断なので、先輩から『やるかやらないか先に決める! 決めたら実行する!』と言われて。この教えを忘れず、自分で自分の背中を押しているんですよ」

My Trend●ゴルフは部の親睦のため。スコアは「みなさんを安心させる」レベル。裏千家でたしなむお茶は、何もかも忘れて集中する貴重な時間。

こうして学びながら、スピーディーに知識や情報をつかむ。それがいざというときの意思決定のスピードにつながると考える村田さん。「脳の容量には限りがあるので、最近は私の引き出しを各部の方に預けるようにしています。気になったこと、学んだことへの質問を通じて、関心事を外に出しておくと、たとえば社長に何か尋ねられたとき、『これは○○さんに聞こう』とすぐ確認できますし、組織としての状況判断や課題発見のスピードも上がると思います」

アウトプットとインプットは両輪。新聞、本、メルマガなどを読んで社会の動向や気になる事柄をキャッチ。どこからボールが飛んできても反応できるように心がけている。

▼村田さんの学びを振り返る!
28歳ごろ 英文会計。
35歳ごろ 会社法(商法)。
37歳ごろ 行政書士試験。フランス語。仏検準1級まで到達。
40歳ごろ ファイナンスの基礎と企業価値評価。英会話。1年間マンツーマンの学校に通う。
45歳ごろ ファイナンス。通信教育で再度勉強。
50歳 認定コンプライアンス・オフィサー。