もはや、私たちの毎日になくてはならない、この2社。巨大IT企業で最先端のサービスを動かす4人の社員の、頭の中をのぞきました。

インターフェースの未来と統計学の重要性

アマゾンの日本法人が立ち上がったのが2000年。03年入社の古屋美佐子さん、04年入社の鳴坂育子さんは、本のECサイトとしてスタートした同社が、あらゆるアイテムを扱う巨大企業に成長していく変遷を間近で見てきた数少ない古参社員だ。

共に社歴が長く、女性管理職として活躍する鳴坂さん(左)と古屋さん(右)は盟友でもある。

古屋さんは、Kindle、FireTVなど、アマゾンがメーカーとして製造販売しているデバイス事業本部のEchoデバイス事業部長。アマゾンEchoに搭載されているのは、Alexaというクラウドベースの音声サービスで、人間が「ただいま」と言えば「おかえりなさい」と返してくれ、対話を繰り返すうちに学習していくAI(人工知能)だ。

「そのうち音声だけでなく私の体温の高さを感じて、『あなた、熱があるんじゃないの?』と向こうから声がけしてくれるようになるかもしれません。そうなると人間の認知の可能性がどこまで広がるか、人間の拡張性はどこまで許容されるかに興味があります」とは、日頃から最先端技術に触れている古屋さんらしいコメントだ。

一方の鳴坂さんは、SCM事業部事業本部長で、アマゾンが誇る物流網の構築、運用、利便性の向上を図る部署を統括している。

鳴坂育子さん

商品を欠品させないための在庫補充システムの導入が担当だったので、在庫計画の背景にある統計学をしっかり学んだ。さらに「アメリカ本社が開発するサプライチェーンシステムを導入するには、どんなロジックが組まれているか、開発者とより深い話をしてシステムの効果を最大化することが大事。それにかかわる本も随分読みました」と導入後の学習も怠らなかった。「これが欲しい!」と思ったときにアマゾンを検索して、「在庫なし」の表示が出るとがっかりするが、「在庫あり」「明日お届け」の表示が出ると安心感につながる。その裏には鳴坂さんたちのたゆまぬ努力があったのだと気づく。

読書、人との交流などアナログ的な情報収集

ジャンルが違う仕事をしている2人だが共通点もある。本を読み込んだり、人と情報交換したりなど、学びのアプローチは意外とアナログ。古屋さんは「オンラインの情報も拾いますが、まずはその情報がどこからきているのかを確かめます。また、スマホやPCで完結しないように、なるべく人と交流するようにしています」。古屋さんは30歳でMBAを取るために大学院に入学したが、そのときに一緒に学んだ仲間や、前職やe-コマースのコミュニティーから情報を得たり、人材を紹介してもらうこともある。

古屋美佐子さん

鳴坂さんは、物流業界が参加する「日本ロジスティクスシステム協会」に所属し研修も受講した。他のメーカーのP/L(損益決算書)やB/S(貸借対照表)を見て、物流費が占める割合はどのくらいなのか分析もした。他社の数字を見る機会はなかなかないので、大変意義のある学びといえる。さらには物流を経営の視点からとらえる「ロジスティクス経営士」という資格も取得し、仕事に生かしている。

年齢を重ね学びが変容していった

2人とも年齢を重ね、グループの長に就いてから、学びの質が変わってきたという。「若いうちは、自分を認めてほしいので、『私は○○ができます』という具体的なハードスキルが多かったけれど、40代以降はもっと抽象的なソフトスキル、例えば心理学や人間関係など内面の学びの比重が大きくなってきました。7年前にヨガインストラクターの資格を取ったので、会社のスタジオで社員と一緒にヨガを楽しんでいます。集中力や心の落ち着かせ方を学びたくて」と古屋さん。

また、1人から3人に人員を増やしたからといって、単純に3倍の成果ではなく、もっと大きな成果を出すには、どうやったらチームメンバーが動いてくれるのだろう?ということを鳴坂さんは常に考えている。「会社の規模に合わせて、自分たちも成長していかなくてはならない。チームが大きくなるたびに、さまざまなコーチングの本を読みました」

本だけでなく当然、普段の実務の中での学びも大きい。鳴坂さんはエンジニア出身なので、たとえば不動産など、知識や経験が乏しい案件もマネジメントしなくてはならないことがある。

古屋さんの愛読書。女性としての感性が磨かれるものや、現代社会の構造などが垣間見られるものが好きだそう。

「でも『部下がやっていることがわかりません』ではグループの長として失格。各チームの業務全体をある程度把握して、重要な部分をきっちり押さえておくのは必須です。さらには部下の専門性をリスペクトし、彼らから教えを請う、という姿勢も大事です」

業界の進歩や世の中の動きが速すぎて、これからも予測不能なことが数多く発生するだろう。しかしいつでもキャッチアップする柔軟なマインドや、最新のテクノロジーなどに対するあくなき好奇心が大切だ。それが2人から伝わってくる。

聴衆の前でのスピーキングで、プレゼン上手になる

利用者は世界中で約24億人。世界最大のSNSでもあり、特にアジア地域ではもはや“社会インフラ”といってもいいほどの膨大な利用者数を抱えるFacebook。2009年に、アメリカ以外で初の海外法人である、フェイスブックジャパンが設立され、現在はInstagramやWhatsAppなども傘下に従える。

シンガポールと日本を結ぶテレビ電話越しに会話をする丸山さんと永松さん。

今回取材した2人は、どちらも広告に関する業務に携わる。丸山祐子さんは、13年入社で、フェイスブックのソリューションマネジャーとして、広告主マーケティングに携わる。もう1人の永松朋子さんは、15年にシンガポールで採用となり、日本の広告代理店を担当するチームを統括している、中小ビジネス担当パートナーマネジャーだ。どちらも30代後半で体力的にも能力的にもノリにのっている。

丸山さんの現在の最大の学びは「パブリックスピーキング」。Facebookの注力分野の1つであるInstagramのビジネスでの活用法を、大勢の聴衆の前で話すことが増えてきたからだ。

「社内のトレーニングや外部の方からの指導がかなり充実しているので、上達しているのを実感しています。動画を撮って伝えたいメッセージが伝わっているか、手の動きが自然か、声の大きさや抑揚が適切なのかをチェックして、周囲からフィードバックをもらいます。FacebookCOOのシェリル・サンドバーグのスピーキングが理想です。彼女はバーっとしゃべったあと、10秒間ほどためにためて、一番最後に、『Thankyou!』と締めるんです。このの取り方が絶妙で、すごく格好いい! なかなかまねできないですけどね(笑)

多様なチームでのコミュニケーションを模索

一方の永松さんは、部下が外国籍だったり、同僚が中国担当、オーストラリア担当だったりという環境で仕事をしているので、グローバルなコミュニケーションスキルが必須となってくる。

丸山祐子さん

「多様な人材がいる中で、どのようにコミュニケートしてリーダーシップを取っていくかが課題です。私の場合、7割が日頃の実務の中での学び、2割がメンターからのアドバイス、1割が座学といった感じ。グローバルプロジェクトに自分から手を挙げて参加して、実践をメインに学んでいます」

メンターになることをいとわない社風なので、永松さん自身もメンターになることで、国籍も文化も異なる人々の思考を知ることができる良い機会になるという。

そんな永松さんは「Blinkist」というアプリを重宝。1冊の本を要約したものが15分ぐらいの長さで聴ける仕組みになっているのでとても便利。気になっている本があれば、往復の通勤時間で大体の内容が把握できるから効率的だ。

一方の丸山さんはオーソドックスな読書派だ。ITの会社といえど、仕事をしているのは当然ながら人間だ。自分のチームのメンバーは楽しく仕事ができているのか?自分も皆も幸せでいるためにはどうしたらいいのか?と常日頃から意識している。『7つの習慣』や『道をひらく』など世界のベストセラーを読み込み、人間関係やモチベーションアップの参考にしている。

91歳の元気な姿に進化する大切さを学ぶ

Facebookでは現在シニア層を新たなターゲットにした取り組みを展開している。安全・安心な使い方をレクチャーし、社会とつながっていくための「#100年ずっ友プロジェクト」というシニア向けセミナーを17年からスタートさせた。

永松朋子さん

「84歳のプログラマーの若宮正子さんに、ダイバーシティがテーマのイベントに参加してもらいました。さらに年上、91歳の“インスタおばあちゃん”として有名な西本喜美子さんというキュートな女性もいらっしゃいます。お二人のアクティブさや前向きな姿には、本当に勇気づけられます。人生はずっと学びの連続で、何歳になっても進化し続けることができるんだと気づかされました」と丸山さんは、生涯にわたる学びの大切さを痛感している。

また、「人生は短距離走ではなくマラソンのようなもの」と言うのは永松さん。「周囲にいるグローバルリーダーたちは健康管理にとても気を使っています。『あなたは何の運動をやっているの?』という質問をされることが多くて。朝や夕方の涼しい時間帯に、3日で15kmを目標に走り込んで体力づくりに励んでいます。長生きしたとしても健康でないと意味がないですから」

世界のあらゆる年代のさまざまな人たちをつなげるサービスに携わる2人。「人」から学ぶことの大切さは人一倍実感しているのである。

古屋美佐子(ふるや・みさこ)
1970年生まれ。早稲田大学文学部卒業。カナダ・マギル大学のMBA取得。現アクセンチュア等を経て2003年にアマゾンジャパンに入社。アマゾンブックスの日本での立ち上げ、モバイルショッピングのプロダクトマネジャーを担当。17年より現職。
 

鳴坂育子(なるさか・いくこ)
1970年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業。電機メーカーでのSE、コンサルティングファーム勤務を経て、2004年にアマゾンジャパンにサプライチェーンのマネジャーとして入社。新しい配送サービスが導入されるたびにシステムを構築してきた。14年より現職。
 

丸山祐子(まるやま・ゆうこ)
1984年生まれ。米カリフォルニア州立大学フラトン校、インターコンチネンタル大学でファッションマーケティングを学ぶ。サイバー・コミュニケーションズでソーシャルメディア営業担当を経て、2013年フェイスブックに入社、現職。
 

永松朋子(ながまつ・ともこ)
1982年生まれ。大阪大学法学部卒業。ユニリーバ・ジャパンを経てコンサルティング会社に転職し、シンガポールを拠点にグローバルブランドのアジア展開マーケティングのコンサルティングを行う。2015年フェイスブック入社。17年より現職。