シンガポール在住、ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。経済開発協力機構(OECD)の学力調査(PISA)では、2015年度、シンガポールは科学的リテラシー、読解力、数学的リテラシー共に世界首位でした。「まずは美しい日本語から」などという日本と違い、同国の特に富裕層家庭では、幼児のうちからバイリンガル教育が当然のように行われています。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/undrey)

学力首位の国の幼児教育とは

まず、世界の学力調査で上位の国を見ると、シンガポール、香港、マカオ、台湾、中国、韓国、日本などのいわゆる「詰め込み式教育」と言われるアジア各国が並んでいるのが分かります。

これに対して、欧米諸国では一般的に詰め込みではなく、「考える力を養う」というアプローチが取られます。ちなみに「PISA2018」では新たに「グローバル・コンピテンス」調査が導入されました。グローバル・コンピテンスとは、いわば国際的に通用するような文化的多様性に関する調査ですが、この価値観を1つの指標で順位付けされる懸念があるために文部科学省は日本の参加を見送り、2021年以降に再度参加を検討するようです。

詰め込み式か考える力を養う教育のどちらをよしとするかは、各家庭の教育方針によるところでしょう。シンガポールにある学校でもローカルスクールや、英国系、インド系などの一部のインターナショナルスクールはお勉強をしっかり、アメリカ系などは考える力を養うことを重視するなど、学校によって教育スタイルがまったく異なります。シンガポール在住の日本人家庭の場合は、欧米系だけれど、お勉強をしっかりの英国系インター校を選ぶ人も多いようです。わが家は考える力を養う系の学校を選びましたが、それはそれで親のフォローアップが大変だということに気づかされました。

中華系やインド系は外で詰め込んでくる

「遊び中心で大丈夫だから」という言葉を信じて、学費も高いのだし、教育は学校に任せてよいのかなと思っていました。入学したばかりの3歳の頃はバスで長距離を移動するだけでも大変なので無事に戻って来てくれたらそれでいいだろうと考えていたのです。

しかし、小学校入学前の5歳にもなると、外で勉強させている家庭とそうではない家庭とで大きく水を開けられていたのです。担任の先生との面談で子供の英語力について詳しく聞いてみたところ、このままでは少人数の特別クラスに行かなければならないだろうと言われました。英語がネーティブではない日本人や中国人の場合、ESL(English as a Second Language)と呼ばれる少人数のクラスに入ることはごく一般的なのですが、娘は1歳からシンガポールにいて普通に会話できているので大丈夫だろうと高をくくっていました。しかし、ライティングやリーディングは学校外で練習をさせないと自然と身につくものではなかったのです。

担任に根掘り葉掘り聞いて見ると、クラスで一番文章が書ける子の日記を持ってきました。多くの生徒が1日の出来事を絵で表現しているのに対して、その生徒は正確なセンテンスで文章を数行書けていたのです。しかも数カ月前に上海から来たばかりの中国人。ネーティブスピーカーの中でもアルファベットが全く書けない生徒もいるにもかかわらずに。もちろん、日本でも未就学児の場合、日本語がどこまで書けるかは個人で大きな差はあります。しかしこの生徒の場合、中国育ちで英語はネーティブではなく、両親も英語が上手ではないのです。

なぜそこまでできるのだろうと両親に聞いたところ、「上海ではもっとプレッシャーがすごかった。以前の学校では1位では全くなかった」と言うのです。上海のインター校はシンガポールのインター校よりも一般に学費が高いですから(シンガポールも日本よりは高いです)、上海の平均賃金を考えると、インター校に行かせるのは超富裕層になります。

どうやって英語を教えたのかを聞いたところ、学習アプリで全部やったと言います。別の中国人家庭は、5歳から家庭教師をつけていると言い、よい先生を紹介してくれました。その教師も「Raz-kids」というアプリをやるようにアドバイスをくれました。このアプリは日本でも多くのインター校で使われているようです。

中国語ができないと子供が不利な境遇になるといわれる同国のローカル学校に通わせるシンガポーリアンの友人も2歳から子供に中国語の家庭教師をつけているそうです。その結果、第一言語の英語よりも中国語の方が書けるようになったそうです。だからといって英語教育に支障が出ることもなく、5歳児で大変流暢りゅうちょうに話しますし、簡単なフレーズも書けるようです。

基礎的な語学力だけでなく、英語でのディスカッションでも個人差がついており、インド系の子供などはすでに論理力が高いように見えます。5歳でも重力について説明をしたり、意見が相反するときにどのような対処をすればよいのかなど意見を出しています。

シンガポールとはいえ、中華系もインド系もそれぞれに第一言語があり、英語は第二言語です。日本人が日本語を学ぶのと同じようにそれぞれの第一言語である北京語やタミール語を学んでいます。一方で早期から第二言語をしっかり学ばせることによって、大きな差が出ているので身近に接していると焦りを覚えるほどです。

「外国語は母国語を習得してから」というのは日本だけ

日本では、外国語の学習は母国語を習得してからの方がいいという議論もあります。欧米でも母語が強い方が第二言語も強くなるという考え方は一般ですが、シンガポールでは、同時並行に学ばせている家庭が一般的で、英語しか話さないアメリカ人であれば中国語で授業を進めるクラスに幼少期から入れる家庭もあります。

日本人以外から、外国語は母語を確立してからという話を聞いたことはほとんどありません。むしろ多くの富裕層が幼少期から複数言語を学ばせています。シンガポールなどの多民族、多言語国家では、いや応なしに街などで複数言語が入ってくる環境なので耳を塞ぎ続けることもできないこともあるでしょう。英語と中国語やタミール語などのバイリンガル教育が一般的なシンガポールが、国際学力テストの3分野で一位という結果を見れば、早期からの多言語教育が悪いとは言えないのではないでしょうか。同国は、一人当たりGDPも日本より高く、稼げる人材を生み出していると言えます。

日本で重視されがちな、字を綺麗きれいに丁寧に書くという発想も英語であまりなく、書き順やスペルが完璧ではなくても怒られたりはしません。将来、ビジネスで使うことを考えると、まず「美しい日本語」から、といった曖昧なことにこだわり過ぎて一つの言語を完璧にすることに集中するよりは、幼少期からもう一つ言語を覚える方が効率的と言えるでしょう。シンガポールのように、公教育の中でもっと早い時期から外国語を学ばせた方がよいのではないでしょうか。語学教育の質の改善も必須でネーティブスピーカーによる授業を増やすべきでしょう。

習い事も半端ないが、気になる学費は…

シンガポールでは中流家庭でも幼稚園から習い事を週6回くらいさせているので子供を行かせたくてもアポイントが取れないこともよくあります。5歳児のスイミングを見ても、クロールで往復ができる子と溺れそうな子とでかなり差があります。娘の場合、2歳から触れさせていたダンスと音楽と水泳などの運動だけがかろうじてインター校で真ん中くらいを維持できています。やはり、勉強熱心なアジア富裕層が多い学校に入ると、周りが勉強も習い事もすごくやるのでやらざるを得なくなります。

ただし、学費は非常に高額です。米系インター校の学費は、日本では250万円程度ですが、海外ではさらに高く、日本円で300万円以上かかる場合もあります。加えて、バス代、給食代、ESLに数十万円、習い事や家庭教師に数十万円と一人の子供にかかるお金が400万円を超える場合もあるのです。

インター校に入れる場合はこうした細かい出費にまで気を配るべきでしょう。また、外での習い事を最小限に抑えたいのなら、あえて詰め込み式の学校を選ぶ方が学校で学んできてくれるので経済的な負担は少ないでしょう。

何が子供の将来にとって一番よいかを判断するのは難しいところですが、現実として、教育のグローバル競争は恐ろしいほどに進んでいます。少子高齢化などから今後の経済成長が難しいと思われる日本に留まっていたら生活水準を維持することも難しい時代がくるかもしれませんし、今後は中国人やインド人と国際競争をしていく必要があるわけです。保護主義の日本で生活をしているとこのようなダイナミクスを感じる機会は少ないかもしれませんが、お金に余裕がある家庭で、子供を世界を股にかけるような人材に育てたいなら、どこかのタイミングで海外に出すなどして、世界標準の教育を肌で体感すべきではないでしょうか。