新元号となり“令和”の時代を迎えて、働く女性の意識とビジネスファッションはどう変わっていったのか。あらためて平成を振り返り、2人の識者に話を伺いながら、分析します。

派手色スーツでキメた女性が闊歩した80年代

金ボタンが並ぶ肩パッド入りのボディコンスーツに身を包み、ウエストは太ベルトでギュッとシェイプ。ゴージャスなチェーンバッグを肩にかけ、ピンヒールでさっそうと歩く……。今では信じられないが、バブル全盛期の1980年代、こんな派手なファッションで通勤する女性が多くいた。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/JGalione)

「当時はデザイナーズブランドが大ブーム。女性だけでなく、肩パッド入りのソフトスーツで仕事する男性の姿も見られました。服飾史の視点から見ると、好景気ほど男性は男性らしく、女性は女性らしい装いになるといわれています。経済とファッションは緩やかにリンクしていて、景気の波とともに女性のビジネスファッションは少しずつ変化を遂げているのです」(共立女子短期大学教授・渡辺明日香さん)

今では揶揄されることも多いこの時代のファッションだが、働き方という観点から見ると、バブル期はポジティブで明るい時代だった。

「やればやるだけ評価され、成功体験となって積み重なるぶん、仕事へのネガティブイメージがない。今でもバブル期入社の方々と話すと、『仕事は楽しいもの』というムードが伝わってきます。そんななか、86(昭和61)年に施行されたのが『男女雇用機会均等法』。これを機に、第1次女性活用ブームが起こります。

それまで、女性は男性の補助的業務を担っていたのが、“一般職”と“総合職”という呼称が誕生。女性のキャリア形成にコース分断が生まれたのです。総合職の第1期生は、89~90年ごろに入社した、現在50代前半のパイオニアの方々。まだその頃は企業に余裕があり、社員にどんどん投資した時代でした。女性社員を海外留学させる商社や銀行もあり、時代の恩恵を存分に受けていたのです」(リクルートワークス研究所人事研究センター長・石原直子さん)


イラスト=渡辺直樹、以下すべて同じ

景気の後退とともにカジュアル化が進む

80年代後半から90年代にかけて、渋谷に集う若者から発信され、爆発的トレンドとなったのが“渋カジ”。これ以降、キレカジ、デルカジ、フレカジなど、ファッションのカジュアル化が浸透していった。そのトレンドを受け、オフィスでも渋カジのキーアイテム、紺ブレが流行。タイトスカートやシルクスカーフを合わせ、きれいめのトラッドスタイルを実践する女性を見かけるようになる。

「バブル経済は92(平成4)年に崩壊したとされますが、ビジネスファッションはまだその薫りを残しながら、ゆっくりとカジュアル化が進んでいきます。好景気のときとは逆で、景気に不透明さが増すと性差が縮まり、ユニセックス化が進みます。たとえば、オイルショックや環境問題が表面化した70年代は、男性が長髪にしたり、女性がデニムをはくなどの動きがありました。90年代も男性のロン毛が流行ったり、女性が紺ブレやチノパンを取り入れたりなど、男女差のない装いが増えてきたのです」(渡辺さん)

就職氷河期、そして派遣社員の台頭へ……

不景気の波とともに、就職市場もどんどん冷え込んでいく。ほんの数年前は多くの企業から内定が出ていたものが、全滅という女性も現れるようになってきた。

「2005(平成17)年まで続く、就職氷河期の到来です。特に女子大生にとって超氷河期となりました。さらに1990年代後半には、大手商社をはじめとして、一般職の採用を取りやめる企業も出てくるほど。景気の悪化とともに、一般職を採用するなら派遣社員の採用に切り替えたい。多くの企業がそう考えるようになってきたのです」(石原さん)

女性は正社員としてバリバリ働くか、はたまた派遣社員となるか。2000年という節目をまたいで、時代は大きく変わっていった。

産んでも辞めずに働くワーキングマザーが増加

新世紀を迎え、マニッシュなパンツスーツが働く女性の新定番に。

「そこで各アパレルメーカーが提案したのが、女性らしいパンツスーツ。ウエストを絞ったショート丈のジャケットに、フルレングスのパンツを合わせ、スタイルアップして見せる工夫を施したのです。時代とともに生地も進化。ストレッチ素材を使用した動きやすく働きやすいスーツが女性の味方となりました」(渡辺さん)

一方、銀行の統廃合で空いた土地に海外資本が目をつけ、ラグジュアリーブランドの旗艦店が東京・表参道、銀座に軒並みオープン。フェミニンな装いも復活の兆しを見せる。

「07(平成19)年の『改正男女雇用機会均等法』施行などを機に、制服廃止が広がります。するとストッキングではなく素足、パンプスではなくサンダルやミュールなど、ビジネスファッションの多様化が進行。エビちゃん、もえちゃんOLが話題になったのもこの頃ですね」(渡辺さん)

女性の働き方に大きな影響を与えた、03(平成15)年施行の「次世代育成支援対策推進法」にも注目。

「これを機に第2次女性活用ブームが盛り上がります。主軸は『産んでも働ける社会に』。産休、育休、復職までのサポートとケアが一気に手厚くなりました。オフィス内でのワーキングマザーの比率がどんどん上がっていったのです」(石原さん)

未婚・既婚、子どもの有無、総合職、派遣社員……さまざまな女性がオフィスに混在する時代となった。

内閣も後押し、女性活躍推進が本格化

10年代のファッションは“ノームコア(※1)”“アスレジャー(※2)”へ。着心地がよいものをオンオフ問わずに着るスタイルが定着していく。

「オフィスでは、エレガントさを醸し出し、足さばきもよいガウチョパンツがブームに。またライダースジャケットやレーススカート、休日にも着回しできるセットアップなど、ビジネスファッションの私服化が進んでいきます」(渡辺さん)

そんななか、13(平成25)年に安倍内閣より「日本の成長戦略に女性の社会進出が必須」と発表される。

「この発言は確実に女性活躍を後押しするきっかけになりました。さらに16(平成28)年には『女性活躍推進法』が施行。企業が問題点を把握し、改善目標を数値化し、結果を公表するようになり、女性管理職も少しずつ増えてきました」(石原さん)

働く女性の激動の時代だった

産んで働く“ケア”から、結果を出して働く“フェア”へ。平成は、働く女性の激動の時代だったのだ。

「令和は自分で働き方を決める時代。ビジネスファッションは名刺代わりとなり、キャリアに影響を与えます。そこでPW(※3)世代が意識したいのが、ベストなサイズ感と上質な素材感。1度自分を客観視することをおすすめします」(渡辺さん)

「令和時代の働くキーワードは、多様化、自立、柔軟性。そこで必要なのが“真のリーダーシップ”です。それは力強く人を率いる力ではなく、人の力を借りる力。チームで仕事をし、人の力を借り、時には自分の力を差し出す。年齢を重ねたPW世代なら、なおさらその力が必要になってくることでしょう」(石原さん)

※1=ノーマルとハードコアを組み合わせた造語。「究極の普通」を実践するスタイル。※2=アスレチックとレジャーを組み合わせた造語。スポーツウエアを普段着に取り入れたスタイル。※3=プレジデント ウーマン

渡辺明日香(わたなべ・あすか)
共立女子短期大学教授
共立女子短期大学生活科学科教授。ストリートファッションの定点観測、若者のファッションやライフスタイルの分析などを行う。
 

石原直子(いしはら・なおこ)
リクルートワークス研究所人事研究センター長
慶應義塾大学法学部卒業後、銀行などを経てリクルートワークス研究所に参画。人材マネジメント領域の研究に従事。