南フランスの小さな調剤薬局から、医療分野で国際貢献するフランス政府公認の公益財団へと成長。創立20周年を迎えた“ピエール ファーブル財団”の歩みとこれからの活動を、ピエール ファーブル ホールディングスのエリック・デュクルノーCEOにインタビュー。

薬局から医薬品メーカー&公益財団に成長した“ピエール ファーブル社”

日本では「アベンヌ ウオーター」をはじめとするスキンケアブランドとしてよく知られる「アベンヌ」。世界で愛され続ける製品を生みだした企業の背景には、「ピエール ファーブル」という、一人の薬剤師の熱い思いがあることはあまり知られていない。

Pierre Fabre●ピエール ファーブル
医薬品メーカー「ピエール ファーブル社」、政府公認公益財団「ピエール ファーブル財団」の創始者。南フランスの小さな薬局からスタートした。薬剤師であり植物学者として、天然・自然を生かした治療をモットーに、医師と患者の真ん中に立って人々のケアにあたる精神は、今も受け継がれている。

彼が設立した南フランスの小さな薬局は、やがて世界中の人々の健康的な暮らしをサポートする国際的な医薬品メーカー「ピエール ファーブル社」へ、さらにはフランス政府公認の公益財団「ピエール ファーブル財団」へと成長した。

ピエール ファーブル氏は調剤薬局を設立した当初より「Taking care, living better.」という信念のもと、医者と患者の間に立ち、さまざまなアドバイスを行ってきたのだという。

「ピエール ファーブルが、自ら興した会社をここまで発展させた根底には、『ケアする』『自然である』『サービスを提供する』の、3つの軸があります。彼自身は薬剤師であり植物学者でもあったので、薬草を使った医療を提案・提供し、薬の処方や化粧品を通して、相談に訪れた人の状態を今よりよくすることをモットーとしていました。そして、現代では当たり前ですが、顧客に何らかのサービスを提供することを使命としていたのです」。そう語るのは、ピエール ファーブル ホールディングスを統括する、エリック・デユクルノーCEOだ。

薬剤師の育成、置き去りにされがちな患者を積極的にケア

「彼の信念には、確かな倫理観が存在します。だからこそ利益の追求より、もっともっと人々の健康に努められるよう、会社を公益性の高い政府公認の財団組織としたのです」

公益財団の基本運営は、所有する企業から配当を得て活動すること。企業を所有していてもその経営に携わってはならないのだ。そのため、財団が所有するピエール ファーブル社の利益は、主に新たな医療品などの研究・開発に再投資され、配当や寄付金を財団に支払うことで、財団は自らが掲げるミッションを遂行できるのだという。

「公益財団の活動の1つは、医療体制を整えるサポート。具体的には薬剤師の育成です。たとえば、ラオスに薬科大学を設立して薬剤師を育てたり、カンボジアでは薬剤師のマスターコースを設けたり。次に、いくつかの疾患や病気の撲滅対策支援です。アフリカで蔓延している『鎌状赤血球症』の罹患患者や、熱帯地方で発生する皮膚ガン『白皮症』患者の治療や支援。こうした患者の多くは家族や社会から迫害されがちで、そうした人々の社会統合を支える活動もしています。それから現代的なことでは、『eヘルス』ですね。スマートフォンを利用した薬の処方や症状へのアドバイスを、アフリカの50カ国以上で行っています。半分以上の国々では、専任の薬剤師や皮膚科医がたったひとりという場合も多く、そうした地域で暮らす人々の健康維持に貢献しています」

Eric Ducournau●エリック・デユクルノー
ピエール ファーブル ホールディングス 代表取締役社長
2000年ピエール ファーブル社 社長兼事務所長に就任。12年ピエール ファーブル デルモコスメティック社CEO就任。18年ピエール ファーブル グループCEOに就任。

地道な活動の継続が、より大きな効果を生みだす

「Taking care, living better.」をミッションに掲げたピエール ファーブル氏の思いはこうした財団の活動に、しっかりと根付いているのがわかる。ほかにも、2018年にノーベル平和賞を受賞した、コンゴ共和国の婦人科外科医、デニス・ムクウェゲ医師が行う、戦争による性的被害女性たちへの矯正医療へも強力なサポートを行っている。

設立20周年の節目を迎えたピエール ファーブル財団の歩みの中で、もっとも思い出深い出来事として、デユクルノーCEOは、以下の2つを挙げる。

「財団を設立して間もない頃にラオスの医療大学を再建しました。戦争で何もかも失った国の人々の医療へのアクセス方法をどうするか考え、再建しなければなりませんでした。これは、ピエール ファーブルの理念を反映して行った財団の最初の活動です。また最近のことでは、コンゴ共和国のムクウェゲ医師の講演ですね。彼は大変な信念を持っており、100%命を賭けて活動されています。自身の命も危険にさらされる中で、それでも今の活動をやり続けたいとおっしゃった。財団のミッションにも通じる彼の考えに触れ、一生忘れられない人となりました」

今もこれからも財団のミッションは、短期的な利益を上げることではなく、長期的に何かをやり続けることだとデュクルノーCEOは言う。

「世界の国々で、地道な活動を続けることが大きな効果を生みます。『白皮症』などの皮膚ガン治療と予防に必要不可なサンスクリーン剤のつくり方を提供することで、年間100人の命が救えるのです。新しいことをするというより、これまでの20年間の活動をひたすら続けて行くことが大切だと考えています」

皮膚研究を核にした化粧品や医薬品の開発は、こうしたピエール ファーブル財団の地道な活動を支えている。近年、日本でも飛躍的に市場を拡大している「アベンヌ」ブランドも、敏感肌やニキビ、皮膚感染症などに悩む人々でも安心して使えるよう『ケア』『自然』『サービス提供』のミッションのもと研究・開発された。皮膚治療と化粧品の中間に位置する「デルモコスメティック」という新たなカテゴリーを確立したスキンケア製品でもある。

「“深層ミネラル温泉水”の『アベンヌ ウオーター』は性別・年齢問わず使用できます。2015年に発売した『アベンヌ ミルキージェル』は、日本で研究・開発した製品です。日本人は皮膚感覚が繊細で、スキンケアに対しての要求がとても高く、その声はさまざまな製品の改善にもつながり、われわれにとってとても刺激になります。日本向けに開発した製品はヨーロッパの市場でも大変好評な場合が多いのです」

ヨーロッパはもとより、アジアやアフリカなど世界中の人種の皮膚を研究し続けているピエール ファーブル社。そしてその研究開発の成果は、ピエール ファーブル財団が世界中の人々の健康な暮らしのサポートに役立てている。南フランス出身の一人の薬剤師、ピエール ファーブル。会社が国際的な医療品メーカーとして成長した今も彼の理念は、企業と財団にしっかりと受け継がれているという。

「彼は薬剤師である前に、敬虔な人格者でもありました。厳しい側面もありましたが、彼がスタッフや提携企業に求めた唯一のものは、『寛大さ』と『心の広さ』でした。通常、企業人がこの言葉を使うことはありません。けれど、ピエール ファーブルが大切にした他者に対する心の広さは、今でもグループ企業や財団の中で体現され続けています」

ピエール ファーブル社の新たなスキンケア製品の開発はもとより、地道ながらも確実に実を結び続けているピエール ファーブル財団の「人間を中心」にした今後の活動に注目し続けたい。

日本で発売33年目を迎え、変わらぬ人気を誇る「アベンヌ ウオーター」。南フランスのアベンヌ村に湧き出る温泉水100%のスプレー。「アベンヌ ミルキージェル」は、日本で研究・開発して誕生。ヨーロッパでは珍しいオールインワンタイプのジェルは、欧州市場でも大好評に。
「ピエール ファーブル財団」
1998年に設立。健康から美まで、人々の暮らしをよくするため、「Taking care, living better.」をミッションに掲げ、公益性の高い政府組織が運営を担う。ピエール ファーブル グループの独立・継続性を確保するため、財団が86%の株式を保有。それ以外は10カ国の社員株主たちが保有している。

Edit&Text=戍亥真美 Photograph=大槻純一