1.能力アップに役立ちます!
経営力や自己管理力が、自然と高まる
「副業が解禁ムードとなった今、2つの本業をかけ持ちしたり、副業で転職や起業を試したりするダブルキャリアの考え方が浸透してきています。副業には副収入を得るという面がありますが、実は『学び』につながる面もあるんです」
こう語るのは、副業メディア「フクポン」を運営する中野貴利人さん。プログラマーとして就職後、関心のあったウェブメディアを立ち上げて副業で運営し始めたところ、3年ほどで本業を上回る収入を得るまでになり独立した。
「自分でウェブサイトをつくって、画面のデザインをし、文章も書いてというふうにして副業を始めてみたら、『自分ひとりでもやれるんだ』と自信がついて、本業のほうでも積極的に発言をしたり企画案件の課題を解決できたり、相乗効果が得られたのです。ほかに、転売ビジネスの副業にも挑戦したことで、マーケティングのコツもつかめるようになりました」
副業を始めたことで、会社の資金力やコストなど会社の数字にも関心を持つようになった。そうした経営者的な視点や、市場のニーズをさぐるマーケティング的な感覚が養われたことは、のちに起業するうえで役に立ったと話す。
「1つの会社にだけ所属していると、自分の人生やお金をその会社に依存してしまいがちです。でも、自ら立ち上げた副業の場合は、自分のスキルも商材も、自ら値付けをして顧客と折衝し、ビジネスを成立させなければなりません。それにより経営ノウハウが学べます。さらに、時間やタスクをマネジメントする自己管理能力が身につきます」
2.副業は“プチ起業”です
経験を積んで、将来のキャリアに備える
今は「個の時代」といわれる。アイデア次第で個人が新たなチャンスをつかむことが可能となった。
「会社に寄りかからないで生きる意識を持つ、という意味でも副業をやってみる価値はあります」
目的には主に「収入補填」「キャリアアップ」「楽しさ」がある。そのなかでも最近は、キャリアアップを重視して経験を積むためにダブルキャリアを希望する人が目立つように。
「そもそも私が副業を始めたのは、奨学金の返済と実家への仕送りで貯金ができなかったからです。お金を貯めるためにコンビニなどでアルバイトをする手もありますが、そうではなく、ウェブデザイナーという副業の道を選んだのは、その先の起業を想定してキャリアを積むためでした。将来的に起業したい人は、副業を“プチ起業”ととらえていろいろ挑戦してみるのもいいでしょう」
女性に人気の副業は、“つくる系”のハンドメード販売や“教える系”の講師業、“代行系”の整理収納アドバイザー、“メディア系”のインスタグラマーなど。
「思いきってさまざまな体験ができ、嫌になったらやめるという選択肢がとりやすいことも副業の利点です」
3.はじめる前にチェックしておくべきこと
まずは副業の目標を明確にする
副業を成功させるための留意点は、①副業の目標を明確にすること、②関心事や特技のなかから副業を選ぶこと、③本業の就業規則や法的要求事項を確認することだ。
「まずは、なぜ副業をしたいのか、目標を明確にしましょう。留学の費用を稼ぎたいなど、資金面での目標でもいいし、個人名で仕事をして自分のブランド力に磨きをかけたいなど、将来のキャリアに向けた目標でもいい。なんとなくではなく、具体的な目標を立てることがモチベーションにつながります」
何を副業にするかを決めるには、自分の好きなことや得意なことを棚卸しして、そのなかで仕事になるものを選ぶのが賢明だ。
「その仕事をしている自分を想像してみましょう。ワクワクし、楽しい気持ちになるかが大切です」
最後に、必ず自分の会社の就業規則を確認すること。副業を解禁した企業が増えてきているが、まだまだ少数派。業務に支障をきたしたり、企業機密の漏えいといった違反行為があった場合は、懲戒処分の対象になったりする。年間20万円の収入を超えたら確定申告をすることも忘れずに。「物品やサービスを売る場合は、著作権法、景品表示法、古物営業法などに注意が必要です」
4.副業は本業の数だけあります。スキルを生かしましょう
“教える系”は、今の仕事を見直す機会に
どんな仕事でもそれを本業としている人と副業としている人がいる。つまり、本業の数だけ副業があるということだ。
本業で養ったスキルを副業に活用すれば、準備の時間や手間が省け、効率よくスタートできる。
「本業のキャリアを生かすには、人に伝える仕事が一番手っ取り早いでしょう。“教える系”は専門性が高く、やがて独立して活動することも可能です。ビジネスの現場で鍛えたマーケティングの方法を指南したり、人事の経験をもとに採用の仕方を指導したり。これまで、専門のスクールでしか学べなかったビジネススキルを実際に現場で働いている人から教わりたいという人は多いので、ニーズがあります」
その際、職務上で知りえた情報には守秘義務があるので、本業で使用した資料などの転用はルール違反になる。たとえば、独自の資料を作成し、テンプレート化するなどの工夫が必要だ。
人に教えた経験がないと不安があるかもしれないが、回を重ねるたびに顧客が何を知りたいかがわかってくるので、伝える力も磨かれていくと中野さんは言う。
「人に教えるということは自分の仕事についてあらためて考える機会になります。ですから、本業にも役立つはずです」
5.宣伝するならマッチングサイトが有効です
自分の市場価値は、どれくらい!?
自分のスキルを生かして副業をする場合、顧客を集めるために「私はこんなことをやっています」と宣伝する必要がある。ホームページを立ち上げるという手もあるが、ウェブ上の業務委託仲介サービスであるマッチングサイトが有効だ。
「クラウドソーシングを代表とするマッチングサイトは、仕事を発注したい個人や企業と、仕事を受注したい個人や企業をウェブ上でつなげるサービスです。報酬の受け渡しはサイト運営会社が仲介して資金を預かるので、仕事をしたのに報酬が得られないという心配はありません」
大手2社の「クラウドワークス」「ランサーズ」をはじめ、ここ数年で次々と出てきている。その数、「200社は超える」と中野さん。「Kakutoku」(営業代行)、「スカウター」(人材獲得代行)など特定のスキルに特化したものもあれば、ジャンルを問わず知識やスキルを気軽に出品できる「ココナラ」のようなものもある。
「実績のあるスキルは安売りせず、自分の市場価値を上げていくこと。一方で、取ったばかりの資格を利用したり、実績がなかったりする場合、最初はコストパフォーマンスのいい人材になることも秘訣です。続けていくうちにサイト上の評価が上がってから、単価をアップさせるのがよいでしょう」
経験を生かし、ラクな働き方を伝授
福島麻名美さんは外資系靴メーカーで事業開発部門の管理職として勤務しながら、副業でワーク・ライフ・マネジメントについてのセミナーや講演活動を行っている。
「家では1児の母親、会社では店舗統括マネジャーとして仕事をするなかで、常に『これからの働き方はどうあるべきか?』という課題に向き合っていました。あるとき自分がこれからの人生で何をしたいか棚卸ししたとき、“世の中の働く人をトコトン楽にしたい”という強い思いに行きついたのです」
その時点では具体的にどう実現させるか明確なビジョンはなかった。そこで、「ゼロから1をつくる部門で働けば何か見えてくるかも」と、自ら事業開発部門を立ち上げ、異動を志願。自分の強い思いをかなえるために副業の準備として勉強も始める。
「関連する本を読むうちに、私のやりたいことは『ワーク・ライフ・マネジメント』という分野だとわかり、体系的に学べるセミナーにも通い、引き続き関連本を読みあさりました」
子育てをしながらキャリアを積んだ自らの経験も生かし、2019年2月に「仕事とプライベートの相乗効果を最大化する」というテーマでホームページを開設。口コミで存在が知れ渡って企業などからセミナーの問い合わせを受けるようになった。
同時に、本業の協会からも講演の依頼が舞い込むようになる。現在では、月に2回ほど、企業や団体などに向けて講演。テーマは「仕事・家庭・趣味の3つで結果を出すマインドのつくり方」「家事の時短術」など。
「未来につながる仕事は生きがいになります。これからも、ワーク・ライフ・マネジメントで一人一人の人生が豊かになるお手伝いをしていきます」
スキマ時間にスマホで翻訳の副業
海外のエンターテインメントの代理店でエージェントとして働く宮下りかさん。通勤中やお風呂タイムなどにスマホを駆使して、マッチングサイト「ココナラ」で翻訳の副業を受注している。バイリンガルの宮下さんだが、意外にも翻訳には苦手意識があり、本業に生かす勉強の目的で副業を始めた。
「海外のアーティストと日本のクライアントとの交渉や契約時にコミュニケーションを図るのには不自由しないんです。でも、今まで英語をきちんとした日本語に訳す訓練をしたことがないので、仕事で翻訳を頼まれるとプレッシャーがありました。翻訳を学ぶ学校に通うことも考えましたが、そこでお金と時間をかけるより、翻訳の副業をすれば実践的なスキルを磨けるし、収入源にもなるなと思ったのです」
英訳、日本語訳のどちらも受注し、コストパフォーマンスと速さを売りにするため、英訳なら100単語、日本語訳なら200字を「ワンコイン(500円)で24時間以内に返信」と設定。開始した2年前より翻訳の精度もスピードも上がったため、18年に、単価を上げ、現在は月4万円程度の収入に。企業と個人からの依頼が半々で、リピーターも多い。必要とされることで自信がついたと話す。
「企業からはサイトやアプリ、プレスリリースの翻訳の依頼が多いです。『こんな雰囲気のキャッチコピーにしたいけれどどう思いますか?』などというような質問にはネーティブならではのアドバイスができるので好評です。個人からは海外の占い師に相談したいから英訳して、とか、ゲーマー同士の会話を英語でやりたい、という要望もあります。他業界の仕事のスタイルや、世の中にあるさまざまなニーズを知る機会にもなり、とても勉強になります」
副業プランナー
1981年生まれ。大学卒業後にJTB情報システムに入社。会社員として働く中、個人でウェブメディアを立ち上げ、26歳で法人化。副業情報サイト「フクポン」を運営。共著に、『ど素人でも稼げるネット副業の本』(翔泳社)。