ニュースを読み解く力、効率的な情報収集力、正しく分析し仮説を立てる力──。こうしたビジネススキルはどう磨いていけばいいのでしょうか。7月24日に開催されたワークショップでは、企業分析のプロである証券アナリストを講師に迎え、注目すべきビジネス情報や数字、その活かし方を丁寧に解説。好評を博したイベントの模様をお届けします。

ニュースを読み解く力を身につける

企業分析ワークショップというと堅苦しいイメージがありますが、今回は会場が銀座のカフェということもあってカジュアルな雰囲気。開始前から参加者同士の交流も活発に行われ、リラックスムードの中でイベントが始まりました。

最初に、今回の司会を務める叶内文子さんから、プログラム説明と自己紹介が行われました。フリーアナウンサーとして活躍中の叶内さんですが、実はCMA(日本証券アナリスト協会認定アナリスト)資格取得者でもあります。

「以前は経済や金融には詳しくなかったのですが、経済番組を担当しているので少しは勉強しなくちゃと思って(笑)、CMA資格に挑戦しました。この経験は、普段ニュースを読み解く上でもとても役立っていますし、仕事の幅も拡がりました」

続いて講師の佐藤有さん(CMA)が登壇し、「今日はビジネス数字について、身近な情報を題材に楽しく進めていきたいと思います」と語りかけました。佐藤さんはSMBC日興証券の証券アナリスト。ドイツ証券から同社に転職後、さまざまな業種の企業を対象に調査・分析を行ってきたそうです。

「私は、主に機関投資家向けのレポートを執筆・発信しています。この仕事には、世相や業界の動向を先読みし、仮説を立てる作業が欠かせません。そのため、ニュースの先に何があるか、何が起きるかを予測する力を磨くことが大切になってきます」と佐藤さん。

そこで、この力を磨く方法を体感すべく、脱プラスチックにまつわる3本のニュースをもとにグループディスカッションを実施。参加者は記事を読んで、気になった点やビジネスへの影響などを話し合いました。レジ袋有料化の効果などさまざまな意見が発表された後、佐藤さんがニュースを読み解く際のポイントを解説してくれました。「ニュースは過去のもの。アナリストはそのあとに何が起こるかを予想することが醍醐味です」と佐藤さん。

【ニュースを読み解く際の3つのポイント】
(1)同じ題材のニュースでも媒体によって取り上げ方が違う場合が多い
(2)記事を読む時は「書いていないことに真あり」を念頭に置く
(3)一つの記事で判断せず複数の記事を読んで比較する

企業サイトで情報を集めて分析・仮説へ

次に、佐藤さんが実践している効率的な情報収集の一例として、企業サイトの活用法が紹介されました。企業分析の際は、まずその企業のIR情報サイトでビジョン(立ち位置)をつかみ、そのあと業績などの数字を見ていくのだそう。掲げている立ち位置を、「この企業は実現できているのか、利益につなげられているのかといったことを数字で確認していきます」と解説。

では、実際にはどんな数字を、どう見ていけばいいのでしょうか。佐藤さんは、資生堂の「決算説明資料」を投影しながら、注目すべき数字や分析の進め方、仮説を立てるコツなどを教えてくれました。決算説明資料は多くの企業がサイトに載せており、誰でもアクセス可能でわかりやすくおすすめなのだとか。

【正しく分析して仮説を立てる3つのコツ】
(1)企業サイトのIR情報でビジョンや立ち位置をざっくりつかむ
(2)決算説明資料の「売上高増減実績」をチェック。増減の理由について仮説を立て検証を行う
(3)同資料の「今後のビジョン」と「実現計画」をチェック。今後の動向や成長性を予測する

読む人が視覚的に理解できる工夫を

続いての講義は「株価の上昇、下降を予測するコツ」。佐藤さんは、株価はその企業の成長性や立ち位置を数字で表したものであり、決算説明資料もそれを感じとるきっかけになると言います。ただし、株価は金融政策や原油価格など経済環境に大きく左右されるもの。株価を考える時は、一企業の動向だけでなくマクロ経済的な視点も重視して予測するとのことでした。

こうした予測をもとに書かれているのが、機関投資家向けの「アナリストレポート」。パッと見ではわかりにくいビジネス数字をどう伝えているのか、実際に佐藤さん執筆のレポートで解説いただきました。文字の大きさやグラフの色などを重要度別に使い分けていて、視覚的に理解できる工夫が満載。仮説、検証、予測の流れもわかりやすく、皆大いに参考になったようです。最後に、佐藤さんから参加者へ力強いメッセージが。

「自分の考えをわかりやすく伝えるのはとても大事なスキル。これを磨くには、普段から考えを言葉にして書く習慣をつけるのがおすすめです。もう一つ、ニュースや上司の言葉を鵜呑みにしないで、『なぜ? どうやって? その先は?』と考える習慣をつけましょう。自分なりの意見と伝える力、数字の裏づけはビジネスの大きな力になってくれます。一緒に学び続けていきましょう」

希少性の高い資格をキャリアに活かす

講義終了後には、自身もCMA資格者で証券会社等での業務経験もある日本証券アナリスト協会の大澤静香さんが、女性のキャリアアップに役立つCMA資格を紹介。「企業の将来価値を推測・判断できるスキルが身につくうえ、女性の取得者はまだ少数です。希少性の高い資格は、きっと今後のキャリアに活きてくると思います」と呼びかけました。

約2時間のワークショップを終え、参加者はそれぞれ今後の仕事に活かせる知識を得た様子でした。「ビジネス数字力を磨きたい!」という女性たちで満席になった今回のワークショップ。PRESIDENT WOMANでは、今後もキャリアに役立つさまざまなイベントをお届けしていきます。

協賛:公益社団法人 日本証券アナリスト協会

Edit=辻村洋子 Photograph=小林久井