「就学前の子どもがいる場合、母親は家にいるべき」と考える人の割合が、日本は世界で1位。共働き家庭があたりまえになっていく中でも、いわゆる「三歳児神話」が根強いのは、なぜなのでしょうか。
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そもそも三歳児神話は本当か

小学校入学前の子どもがいる場合、母親は家にいるべきと考える人の割合が、日本は世界1位です(図表1)。俗にいう「三歳児神話」が今の世の中にも存在しているようです。なぜでしょうか。

小学校入学前の子どもがいる場合、 女性は家にいるべきという人の割合

まず、三歳児神話自体が本当なのかと思います。多分に作られたところがあるのではないでしょうか。子どもが小さいうちから働くと子どもが不幸になるという人もいますが、それなら北欧の子どもたちはみんな不幸になってしまいます(笑)。

なかには子どもが小さいとき母親が付きっきりで面倒を見るのが日本の伝統だと主張する人もいます。でも日本の“伝統的家族”である皇室を見て分かるように、天皇家は長い間、幼い子どもの養育を母親が担わず、乳母に託してきました。養育のプロが面倒を見たほうがよいと考えていたからです。皇室で母親が最初から自分の子どもの面倒を見るようになったのは、昭和の時代に入ってからのことにすぎません。

スウェーデンでは「一歳児神話」がある

実は、スウェーデンでは「一歳児神話」というのがあって、ゼロ歳児保育が存在しません。それには2つ理由があり、1つは1歳までは親のもとで育てたほうがよいだろうという考えです。もう1つは、国側も手間のかかるゼロ歳児対応の保育園を作るより、個人が育休を取るほうにお金をかけたほうが合理的だというものです。

そんなわけでスウェーデンでは、男女ともに480日の育休が保証されています。子どもが1歳半以降になると9割以上の家庭は保育所に入れています。

また、スウェーデンでは保育は教育のプロに任せたほうがよいという考え方があります。父母は子どもの親であっても、教育のプロではありません。

スウェーデン政府は就学前教育の指導要領で、就業前教育は国家の競争力を高めるためにある、と宣言しています。日本では子どもが小さいときに保育園に預けるのは「親がどうしても働く必要があって子どもはかわいそうだけど仕方ない」というマイナスイメージがありますが、スウェーデンでは保育は教育であるとはっきり位置付けられ、国家戦略になっているのです。もちろん実際には、スウェーデンの子どもたちも日本の子どもたちと同じように遊んでいるだけなのですが(笑)。

母親の働く姿を見せることはメリットがある

それに、スウェーデン人は、母親だけが面倒を見るよりも父親も育児に携わったほうが、子どもの成長にプラスになると考え、さらに親以外の人のものの見方や考え方に触れることが望ましいという考え方をします。

男性が小さいときから母親とべったりだとマザコンになりやすいとも言われますが、それは母親の価値観だけで育てられた弊害かもしれませんね。小さな子どもに母親の働く姿を見せることにはメリットがあると思います。うちの学生でも、母の働く姿を誇りに感じ、自分も頑張って働きたいという人がたくさんいます。もちろん、専業主婦の母親を誇りに思うことが悪いわけではありません。

子どもは父親や母親の姿を見て育ちます。母親が働いている女子学生は自分もそんなふうになりたいと考え、父親が家事をしている家の男子学生はそれが当然だと考える傾向があるのは、何も不思議なことではないということです。

育休480日分、いつ取得してもOK

ちなみにスウェーデンでは先ほどの育休480日を続けて取得する必要がなく、好きなときにインターネットの“口座”から引き出せるような形になっています。それ以外に子どもが15歳までは年間20日まで子どもが病気になったときなどに使える休みが付与されます。どちらの休みも原則上司に相談する必要はなく、ネット上で手続きすれば休めます。もちろん、上司や同僚と一緒に進めているプロジェクトなどに影響が出る場合は、あらかじめ話しているでしょうが。余談ですが、サッカーのワールドカップが開催されるような時期は、やけにお父さんたちの育休が増えて困るという話を聞きます。

スウェーデンの管理職たちは、部下の家事や育児に対して大きな価値を見いだしています。仕事と違う経験をすることが、仕事で煮詰まったときのヒントになるなど、仕事に対してもよい効果をもたらすと考えています。

例えば部下の子どもが病気になるといった不測の事態まで織り込んでマネジメントできる人が「できる上司」です。子どもを育てることは企業の社会的責任でもあります。部下が「子どもが風邪をひきました」と言ったら、「遠慮せず休みなさい」といえる上司はカッコよくて、部下がハッピーになるばかりか、部下はこんなよい上司に恵まれているのだから頑張ろうとモチベーションが上がり、その結果生産性が向上する、と見るわけです。この考え方は、日本の企業にも参考にしてほしいと思っています。