転職を意識した時、「役立つ資格を何か取得しておくべきなのでは?」と考えたことはありませんか。ベンチャーやスタートアップ企業の採用支援を中心に活躍するキープレイヤーズ代表の高野秀敏さんは、「資格で転職ができるわけではない」と言い切ります。とくに35歳以上の転職で求められる資格より大事な能力とは――。
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転職に特別な資格は必要なし

責任ある仕事に就いている女性は意識が高く、積極的に学びの機会を得ようとする傾向があります。そのため、すでに何かしらの資格を持っている人も多いのではないでしょうか。しかし僕は、転職には特別な資格は必要ないと考えています。それはなぜかと言うと、転職は資格の有無で決まるのではなく、求められている仕事ができるかどうかで決まるからです。

資格で転職ができるわけではない。そうとわかってはいても、少しでも有利に転職活動を進めたいとの思いから、大学院や専門学校、ビジネススクールなどに通う人がいます。いくつになっても学び続ける意識を持つのは素晴らしいことですが、いま一度、自分のキャリアや目指したい方向性をよく考えてから行動に移すようにしてください。

「MBA取得=勝ち組転職」ではない

近頃、MBAを取得する人が増えています。欧米では大手企業のCEOをはじめ、一流のビジネスリーダーの多くがMBAを取得しています。日本での注目度も高いのは事実ですが、面接でMBAそのものが評価されることはほとんどないと言ってもいいでしょう。というのは、MBAはひとつの単位にすぎず、実務能力を保証してくれるものではないからです。

転職で重視されるのは、前職のキャリア。もちろん、MBAを持っていれば面接でそのことについて問われることはあると思います。でもそれは、取得理由やそこから学び得たこと、MBAが自分の将来にどう生かされるのかを確認するためにすぎません。同じような評価の人材がいた場合にどちらかを選ぶとなった際には、MBAが有利に働くことはあると思います。しかし、ただそれだけと言えばそれだけ。MBAさえ取得すれば、理想どおりの転職ができるわけではないということを理解しておいてください。ちなみにMBAは資格ではなく学位なので、履歴書に書く際は学歴の欄に記載するようにしましょう。

専門職での転職を目指すのであれば、その職種ごとに必要とされる資格は持っておきたいですね。例えば不動産業なら宅地建物取引士、人事なら社会保険労務士など。公認会計士やUSCPA(米国公認会計士)、弁護士などの資格を持っている場合は、引く手あまたです。特にベンチャーやスタートアップ企業は社内の仕組みや制度を整えている最中にある会社が多いので、重宝されるでしょう。でも、そもそも会計士や弁護士の資格なんて、取ろうと思ってすぐに取れるものではありませんよね。

資格を取るより財務3表を読めるようになるべし

何度も言いますが資格の有無で転職が決まるわけではないので、事務職であれば特別な資格はありません。わざわざ時間とお金をかけて当たり障りない資格を取るくらいなら、僕は財務3表(PL、BS、CS)の読み方を勉強したほうが、転職にはずっと役に立つと思います。

財務や経理セクションでの転職を希望していなくても、ビジネスパーソンとして必要最低限なアカウンティング=会計に関する知識は身につけておくべきです。

むしろ、決算書が読めない、財務諸表が理解できないようでは、35歳を過ぎてからの転職は難しいとも言えるでしょう。なぜなら35歳以上ともなると、管理職として経営的視点を持って業務を推し進めることが求められたり、企業戦略や新たなビジネスモデルの構築を任されたりすることが多くなるからです。会計の基礎的知識が備わっているかいないかで、キャリアに大きな差が出てしまうと言っても過言ではありません。

簿記検定2級以上の勉強がおすすめ

会計のことは全くわからず、何から学べばよいのか検討もつかないという人には、手軽にはじめられる簿記検定の勉強をおすすめします。簿記を学ぶことによって、財務諸表を分析できるスキルが身に付き、企業活動とお金の流れが理解できるようになります。2級以上を目指して勉強していけば、ビジネスに必要な会計知識は十分に身に付くはずです。その結果として履歴書の資格欄に「簿記2級取得」と明記できるようになると、転職活動の結果も多少は変わってくるかもしれません。

とはいえ、資格の勉強を続けられる人はいいのですが、だいたいが挫折してしまうので、気になる会社について見てみるだけでも良いと思います。まずは自分が興味のある会社の決算資料を読んでみましょう。決算資料は個人投資家にもわかるように書いてありますので、不明な点も解説されていることが多いです。わからない点は、検索して調べてみることが大事。例えばソフトバンクは孫さんが動画でも話してくれています。まずは親しみやすいものから理解を深め、有価証券報告書なども読み進めてみてください。

財務諸表や決算資料を読み解く力は、転職活動そのものに役立つこともあります。これらが理解できれば、人気や知名度に左右されることなく客観的な指標で企業を見ることが可能になり、より優れた会社を選びぬくことができるでしょう。

高野 秀敏(たかの・ひでとし)
キープレイヤーズ代表取締役
新卒でインテリジェンスへ入社。その後、2005年にキープレイヤーズを設立し、人材エージェントとして30社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内、シリコンバレー、バングラデシュで実行。3000名以上の経営者の相談と、1万名以上の個人のキャリアカウンセリングを行う。マネージャーとして、キャリアコンサルタントチームを運営・教育。人事部採用担当として、数百人の学生、社会人と面談。学校や学生団体での講演回数100回以上。