専門用語を勉強し、決算書を隅々まで読まなくても、投資するうえで必要な会計数字は簡単にチェックできるんです! 会計のプロに、最低限押さえるべき数字や指標、そのチェック方法を聞きました。

相手を知ったうえで、お金を預けるのが鉄則

株を買う人の中には、投資対象について自分で調べず、誰かがすすめていたからなどと深く考えずに投資する人が少なくありません。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ipopba)

「株を買うこと=その会社に資金を提供すること」であり、つまりは他人にお金を預けているのと同じようなものです。みなさんは、よく知らない人にお金を貸せますか? たとえ友人でも、信頼関係を築けていない人には貸したくないでしょう。貸すとしたら、性格をよく知る長年の友人などに限られるはずです。

にもかかわらず、投資に関しては、知らない相手に気軽にお金を預けがち。上場企業は、会計数字の内部情報を「決算書」という形で定期的に公表することを義務付けられています。せっかく相手のことをよく知るための情報源があるのですから、それを活用しない手はありません。決算情報に目を通すのと、通さないのとでは、投資の結果に大きな違いが出てくることは明白です。

決算書(財務諸表)というと難しそうですが、隅々まで読む必要はありません。私自身も活用する必要最低限の情報収集の仕方を紹介していきましょう。

会社四季報で会計数字のポイントを押さえよう

ここからは「会社四季報」の基本的な見方を紹介します。日本には上場している企業が3600社ほどあり、四季報はそのすべてを網羅。ただ、それだけあると、1社当たりの掲載できる情報量は限られます。そのぶん、コンパクトに濃度の高い情報が集約されているのが特徴です。

気になる会社の記事には全部目を通すといいですが、投資の判断をするうえで特に重要なポイントを、以下に紹介します。

まずは肝心の業績。利益には売上高、営業利益、経常利益など種類がありますが、特に重要なのは売上高の伸び。しかも、直近だけでなく過去5年程度にわたってずっと順調に伸びているのが望ましいです。

なお、上場企業は決算の実績に加えて、今後の見通し(業績予想)も発表するため、四季報には来期以降の予想も載っています。もちろん、予想も上向きであることが必須です。

次に、現金の流れであるキャッシュフロー(CF)もチェック。営業CF、投資CF、財務CFと3種類あってわかりづらいのですが、本業できちんと儲けているかどうかを示す、営業CFが最も重要です。

財務関連指標も見たほうがいいでしょう。財務関連指標とは、会社の業績や経営の状況を診断するデータ。ROE、ROAなど、ぱっと見、小難しそうな項目が並んでいてわかりづらいですが、必ず見たほうがいいのはROEと自己資本比率くらい。この2つで「きちんと効率的に稼げているか」「借金だらけで火の車になっていないか」を判断できます。

四季報を見て、業績が上向き、本業で儲けて借金も少ないことがわかれば、検討する価値はあります。

有価証券報告書を確認しよう!

会社四季報を見れば、その企業の必要最低限の財務情報は把握できます。投資ビギナーであれば、これだけチェックしておけば、ひとまず十分でしょう。少し慣れてきたら、決算書を見るとさらに詳しい情報を収集することができますが、これは、興味がわいて、もっと勉強したくなってきた人だけ挑戦すればいいと思います。

会社四季報を補完する情報源として、もう1つおすすめするとしたら、有価証券報告書(有報)です。有報は、上場企業が年に1回、本決算の後3カ月以内(3月決算の企業なら6月頃まで)に公表することを義務付けられている資料。金融商品取引法に基づき、投資家が適切な投資判断を下せるように、内部情報を開示することになっています。

有報の内容は、企業の基本情報、沿革、従業員の状況、株主構成、経営・財務状況や、事業の今後の展望、設備投資の方針などさまざまで、200ページ前後に及ぶことも珍しくありません。全部に目を通すのはかなり大変なので、次の2点のみ注目しておけば十分でしょう。

まずは、その企業のビジネスモデルや経営戦略、その企業が本業で、どのようにして利益をあげているのか、今後の展開をどう考えているのかを確認するといいと思います。なかには、何で儲けているのか、結局よくわからないような企業もありますが、投資するのであれば、自分がビジネスモデルを理解でき、持続的に利益を伸ばし続けることを期待できる企業のほうがベターでしょう。

有報では「事業等のリスク」も明記することになっています。どんな企業にも必ず何らかのリスクはあるので、いい部分だけでなく、悪い部分にもきちんと目を向けるようにしましょう。

▼見るべきポイント 1
ビジネスモデル
たとえばフリマアプリの「メルカリ」は、女性向けカテゴリーや海外戦略の強化といった戦略を公開。内容に共感できれば、その企業をより応援する気持ちが生まれるはず。
▼見るべきポイント 2
どんなリスクがあるか
「メルカリ」を例に挙げると、業界の成長性が伸び悩むリスク、競合他社が伸長するリスク、決済に関する法規制のリスク、自然災害リスクなどを列記している。

PERや配当利回りで、チャンスをつかむ

株は安く買って高く売るのが理想。なるべくいい株が安くなっているときを見計らって投資したいものです。

それを見極めるのに有効なのが、株価指標。さまざまな種類がありますが、ここでは特にメジャーな「PER(株価収益率)」と「配当利回り」を紹介します。

PERは、株価の割高感を示すもの。業種にもよりますが、大体30倍を超えていたら株価が高すぎると考えるべきでしょう。

配当利回りは、現在の株価に対し、配当をどれだけもらえるかを表す指標。株価が下がると利回りは上昇しますが、好業績の企業が2%以上の配当利回りになっていたら、買いの好機と捉えることができます。

▼PER(株価収益率)とは?
PER(倍)=株価÷1株当たり純利益(EPS)
株価を利益で割って算出するので、株価が低ければPERも低く、株価が高ければPERも高くなる。ちなみに、東証全体のPERは約15倍。体質的にPERが高い業種もあるので、同業他社と比較するのが理想。
▼配当利回りとは?
配当利回り(%)=1株当たりの年間配当金額÷株価
企業の多くは、年に1、2回、株主に対して配当の形で利益を還元。株価が安くなると配当利回りは上昇。業績が悪くて株価が暴落し、配当利回りが高くなっている場合もあるため、配当利回りは高ければいいとは限らない。
山田真哉(やまだ・しんや)
公認会計士・税理士・作家
一般企業退職後、公認会計士に。2004年独立、声優・作家・音楽家などエンタメ専門会計事務所の所長に。著書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)がベストセラーに。

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