年金はどう働くかによって、種類も、将来受け取れる年金額も変わってきます。キャリアチェンジをした場合、年金にはどう影響するのか。会社員として働き続けた場合、会社員からフリーランスに転身した場合、また海外に一定期間移住した場合について、具体的に試算しました。
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平均年収500万円の会社員なら月約15万円

梢さん(仮名)は現在30歳。大学卒業後、22歳から会社員として働いている。会社員である梢さんは、公的年金の「第2号被保険者」であり、厚生年金に加入している。第2号被保険者は国民年金(フリーランスや自営が加入)にも加入しており、給料から引かれる厚生年金保険料には国民年金、厚生年金、両方の分が含まれている。

梢さんが60歳まで会社員として働くとしたら、年金はいくらになるだろうか。

国民年金は加入期間、厚生年金は納めた保険料(年収に応じて決まる)と加入期間によって計算される。梢さんは大学生だった20歳から国民年金に加入しており、60歳までで40年。厚生年金は22歳から60歳までだから、加入期間は38年で、38年間の平均年収は500万円と想定する。

この場合、梢さんが65歳から受け取れる国民年金(老齢基礎年金)は78万100円、厚生年金(老齢厚生年金)は104万9700円と計算される。合計で182万9800円、月額にすると約15万2500円だ(いずれも2019度価額。以下同)。

41歳からフリーランスの場合は約9万円

キャリア志向の高い梢さんは、資格を取得したり、海外で学んだりしてスキルアップを図り、いずれは転職、またフリーランスになるといったプランも描いている。

キャリアチェンジを図ると、年金はどうなるだろうか。

まず、40歳まで会社に勤めながら資格を取得するなどして、41歳でフリーランスになる、といったプランを想定してみよう。

20歳から21歳までは第1号被保険者(国民年金)で、会社員時代は第2号被保険者(厚生年金)、そして独立後の42歳~60歳までは第1号被保険者となる。

その場合、国民年金の加入期間はずっと会社員だった場合と同様(厚生年金には国民年金も含まれるため)、20歳から60歳までの40年で、国民年金(老齢基礎年金)は78万100円。60歳まで会社員を続ける場合と変わらない。

一方、厚生年金の加入期間は22歳から40歳までの18年間となり、20年短くなる。会社務めの間、キャリアを積むごとに年収が増えるとすれば、22歳~40歳まで18年間の平均年収は、22歳~60歳の平均年収より少ないと考えられ、それが年金額にも影響する。ここでは300万円と想定しよう。

加入期間38年・平均年収500万円では104万9700円だった厚生年金が、加入期間18年・平均年収300万円では29万6000円と、3分の1以下となる。

国民年金との合計額は107万6100円、月額にすると約9万円で、年額で75万円以上、月額6万円以上も少ない額だ。

この差をどう埋めるかについては、後半で考えることにしよう。

留学を経て平均年収600万円では月15万円弱

では、梢さんが海外に長期留学すると年金はどうなるだろう。

梢さんが描くのは、現在勤めている会社を退職してアメリカの大学に入学し、数年間、しっかりと勉強すること。その後、帰国して、外資系企業に再就職したいと思っている。

会社員からフリーランスや自営になると、厚生年金(第2号被保険者)から国民年金(第1号被保険者)に切り替わるが、梢さんは退職してすぐに出国するため、話が少しややこしくなる。

まずおさえておきたいのは、第1号被保険者は国内に住所があること(住民票が日本にあること)が加入の要件になっている、ということ。つまり梢さんは第1号被保険者として国民年金に加入できず、「カラ期間」という扱いになるのだ。

「カラ期間」は年金を受給するための受給資格(10年以上加入していないと老後の年金は受給できない)にはカウントされるが、カラ期間中は年金保険料を払わないため、年金額には反映されない。つまり、移住している期間の分、将来受け取る年金が少なくなる、ということになる。

梢さんが35歳で会社を退職して、アメリカで5年間学び、帰国したとしよう。

梢さんの年金加入期間は、20歳から21歳まで国民年金、22歳から35歳まで厚生年金、36歳から40歳までカラ期間、41歳~60歳まで厚生年金、となる。

会社員時代の平均年収が600万円とすると、国民年金は68万2600円、厚生年金は108万5200円、合計で176万7800円となる。月額では14万7000円だ。

ずっと会社員だった場合に比べると、年額6万2000円のダウンである。カラ期間が5年あることが年金が減る要因だが、平均年収が100万円上がるという想定で考えると、5年のカラ期間の影響はかなり抑えられる。キャリアアップした成果、というわけだ。

ちなみに、海外に居住している間も、「任意加入」という制度を利用して保険料を払い続けることもでき、そうすることで年金の受給額を増やすこともできる。経済的に余裕があれば、その選択肢も検討して欲しい。公的年金は「一生涯受け取れる終身型」のため、長生き時代には公的年金を増やすことはとても大切だ。

会社員として海外赴任するとどうなる?

梢さんは会社を辞めて移住するケースだが、会社員として海外赴任する、という場合はどうなるだろう。

厚生年金には国内に居住しているか否かは問われず、会社員(第2号被保険者)が海外赴任する場合は、厚生年金に加入したまま、となる。保険料も払い続ける必要があり、「日本を離れていたから将来の年金が少ない」ということは避けられる。

ちなみに、赴任先で社会保障制度に加入する義務がある場合は、日本の年金と赴任先の年金に二重で加入することになる。そこで、日本はアメリカやドイツ、イギリス、フランスなどと「社会保障協定」を結んでおり、それらの国に赴任する場合は、5年以内なら日本のみで加入、5年超では相手国のみで加入する、ということになっている。

なお、会社を辞めて、日本の住まいはそのまま、住民票も移さずに海外に短期留学する、といった場合には、日本の公的年金に継続して加入し、国民年金の保険料を払い続ける。保険料を未納すると、障害を負った場合の「障害年金」が受けられないといったリスクがあるので、要注意である。

フリーランスや自営は自助努力必要

以上のように、年金が最も少ないのは、フリーランスや自営である。梢さんのケースでも年額約108万円、月額約9万円で、生活費にはかなりの不足がある。年金が少ない分、自身で年金を準備する「自分年金」がより多く必要だ。

年金づくりにはiDeCo(個人型確定拠出年金)があり、拠出額(掛け金)が全額所得控除されることで所得税や住民税が軽減されたり、運用益に非課税になったりするメリットを得ながら年金づくりができる。

iDeCoは会社員でも利用できるが、拠出額の上限はフリーランスや自営が最も多く、年間81万6000円まで拠出できる。国民年金の保険料は厚生年金の保険料より少ないので、頑張ってiDeCoを利用する(無理がなければ上限額まで)のが得策といえる。梢さんが41歳から60歳まで上限額を拠出すれば、元本だけでも1632万円だ。

キャリアプランを考える際は、年金のことも意識しよう。