第1回 イマドキ新卒は、高給より定時退社を選ぶ
第2回 新卒ほど緩いおじさん上司と働きたいワケ
第3回 イマドキ新卒は、叱り方にも効率を求める
Aさん/横浜市立大学卒、大手機械メーカーに就職。女性
Bさん/明治学院大学卒、外資系アパレルメーカーに就職。女性
Cさん/横浜国立大学卒、大手レジャー業界に就職。女性
Dくん/横浜市立大学卒、大手食品メーカーに就職。男性
Eさん/早稲田大学卒、大手機械メーカーに就職。女性
Fさん/青山学院大学卒、大手機械メーカーに就職。女性
Gくん/青山学院大学卒、大手食品メーカーに就職。男性
社員が元気すぎる会社はちょっと……
原田:さて、皆さんは4月から新社会人になるわけですが、まず、どんな就職活動をしてきたのか教えてください。
Aさん:私の場合、最初は化粧品や食品などの身近な商材を取り扱っている会社から調べました。でも、何かが自分と合わないと感じ始めて……。
原田:Aさんが最終的に決めた就職先は機械メーカーだよね。化粧品や食品のメーカーは何が合わないと感じた?「何か」ってなんだろう?
Aさん:会社のビジョンや業務内容はどこもすごく魅力的だったんですが、化粧品メーカーのインターンの時にお会いした女性社員の方が、喋り方がきつくて、厳しそうでした。笑顔なのに、目が笑っていないというか……。皆さんきれいで、「うちは美人しか採りません」という雰囲気を私が勝手に受け取ってしまったのもあります。それから、飲料メーカーなど元気がよすぎる会社もあって、「私ここでやっていけるかな」って不安になっちゃって。
原田:なるほど。会社説明会などであんまり美人すぎる社員を前面に出しても、今の学生さんたちは「高嶺の花」と感じてしまうのかもしれない。芸能人よりもより身近なインフルエンサーを見て育っている世代だもんね。「身近な説明会」がポイントになっているのかな。元気すぎる社員は何が問題なの?
Aさん:ビール会社の説明会では、松岡修造さん的な、いかにも体育会系という社員の方がよく登壇していて、ここまで熱くないと活躍できないのかなあと思ってしまったんです。
原田:松岡修造さんはテレビやCMでは大人気だけど、リアルな就活説明会ではダメなんだ(笑)。僕だったら彼が会社説明会に来て熱く語ってくれたら感動しちゃう
で、Aさんが最終的に機械メーカーに決めた理由は何だったのかな?
おじいちゃんの助言と雰囲気で決めた
Aさん:帰省したときに、祖父母からその会社を受けるように勧められました。それで、その会社の就活生向けのイベントに行ってみたら、社員さんの雰囲気がよかったんですよ。
原田:じゃあ、おじいちゃんの助言と、社員の雰囲気で決めた感じだね。拙著『ママっ子男子とバブルママ』(PHP新書)でも書いたんだけど、最近の若者たちは本当に家族仲が良くなっているから、就職先の決定においても「家族の意見」が重要になっている。あとは、今の学生は昔より「やりたいこと」よりも「雰囲気」を重視するようになってきているとも言われているね。
Aさん:私が入社する機械メーカーの女性社員の方と話したときに、「うちの会社に入ったら絶対に後悔しないと思う」って目を見て言ってくれたんです。「我が社が一番だ!」って押されるんじゃなくて、「うちはいいところなんだよ」って優しく寄り添ってくれる態度に惹かれました。私の場合、「絶対あの業界に行きたい」とか「この会社に就職したい」という明確な希望が無かったので、寄り添ってくれる姿勢が最終的な決め手になりました。
原田:なるほど。繰り返しになるけど、高嶺の花に憧れるんじゃなくて、インフルエンサーに親近感を持つように、距離の近さと寄り添う姿勢を今の学生は求めているんだね。Bさんの場合はどう?
Bさん:私は接客業で探していました。大学時代のアルバイトも接客業をしていて、それが楽しかったんです。最終的にアパレル業界に就職しましたが、最初はAさんと同じように化粧品や、宝石、ホテル業界などを見ていました。でも、私にはちょっと合わなそうだなと思って……。今の会社は、説明会や面接の時の社員さんの雰囲気がよかったんです。だから、アパレルのブランドが好きというよりも、会社の雰囲気で決めました。
原田:やっぱりBさんも「雰囲気」なんだ。日本企業は事業内容を説明することばかりに注力しちゃう昔ながらの就職説明会をしているところが多いから、今の学生のニーズを捉えて「雰囲気をどう見せるか」というところに注力したほうが良さそうだね。ちなみに、Bさんの会社は外資系だよね。会社の雰囲気っていうと、日本の古い企業のような年功序列感や縦割り感がないところに惹かれたのかな?
Bさん:はい、社員同士が仲良さそうに話しているのを見て、気張りすぎないラフな雰囲気がいいなぁと思いました。一緒に働きたいなって。
原田:SNSの普及によって、極めてフラットで縦社会感の少ない人間関係を生きてきた今の学生たちは、「横社会感」を求めている。つまり、社員同士に上下関係がなく、友達のように接することができる気さくな雰囲気を重視するようになってきたんだね。
ちなみに、会社の雰囲気以外で就職先を選んだ人はいる?
辞退を決めた面接での質問
Cさん:私はちょっと昔ながらのタイプかもしれませんが、AさんやBさんと違って、やりたい事で選んだ派です。最初は、大学での専攻を生かして経営に携わろうと思い、ガツガツ働けるイメージがあった外資系を中心に受けていました。それで、最終面接まで進んだ会社があったんですが、面接の時に詰められたり、「毎月、体調の変化があると思うけど、その時仕事はどうするつもり?」って聞かれたりして、想像していた雰囲気と違って、辞退してしまいました。
原田:今時珍しい会社だね。企業名公表したら間違いなく問題になるね。面接した人が独特だったのかなぁ……。
Cさん:そんなことがあったので、日系企業の就活にも本腰を入れ始めるようになりました。銀行も受けましたし、メーカー、映画会社、レジャー施設など、幅広くエントリーしました。色々受ける中で、エンタメ業界の面接が楽しかったんです。「何を話そうかな?」って考えるのもワクワクしました。子どもの頃からずっとダンスをやっていて、もともとエンタメ業界には興味がありましたし。
原田:「エンタメ」って括るとかなり幅が広いけど、その会社に決めた理由は何だったの?
Cさん:キャリアアップをした時に、マーケティングや広報などの外に向けた仕事があることに魅力を感じて、今の会社に決めました。事業展開も幅が広いので、色んな経験ができると思ったんです。
ガツガツ系の企業は内定を辞退
Dくん:僕もやりたいことで選んだ派です。まず営業をやりたかったのと、食べることが好きだったので食品業界が良いということで、今の就職先を選びました。
原田:Dくんは、食品関係の会社の長期インターンで、営業を経験しているんだよね。営業はどんなところが楽しかった?
Dくん:僕の話を通じて相手に納得してもらい、WIN-WINな関係を作るっていうのが楽しかったです。自分に向いているとも思いました。インターンでの経験を通して色々考えた結果、有形商材を売ることができる食品メーカーがいいと思い、今の会社に決めました。それから、もう一つ大事な軸として自分の中にあったのが、ワークライフバランスです。自分の父が、仕事が忙しくてあまり子育てに関わっていなかったのですが、その働き方を見て、僕は将来的に家庭にもちゃんと関わりたいと思っていました。
原田:「ワークライフバランス」という言葉と共に生きてきた君たち世代は、「仕事>家庭」という昭和・平成初期的な考えを持っている人が本当に少なくなっているよね。
でもさ、営業職だとガツガツが求められる時もあるし、時にワークライフバランスが崩れることもありそうだけど?
Dくん:ガツガツ働くのが好きで、とにかく結果を残したい社員さんが多いと聞いた会社は、内定を辞退しました。僕の就職する会社は、温厚な方が多くて、営業でもしっかり成績を残せばワークライフバランスが可能だと聞いて、決めました。結果を出すことはもちろん大切ですが、ワークライフバランスを保って長く働いていけたらいいなと思っています。
原田:確かに、ある調査によると、若い社員ほど「終身雇用が良い」と回答する人が多いんだよね。今の若者はギラギラキャリアップをしていくのではなく、ワークライフバランスを保ちながら居心地の良い会社にずっといたいと考える人が増えてきているようだね。
熱すぎるのもダメ、声が小さいのもダメ
Eさん:私は、3年生の5月からじっくりと就活をはじめました。最初は色々な合同説明会に足を運んでいましたが、なかなかピンとくる会社がなかったんです。説明している人の声が小さくて聞き取りづらいだけで「この会社、ちょっとナシかな」って思ったこともあって……。
原田:大声の人が好きなの?(笑)
Eさん:違いますよ(笑)。聞いている就活生への配慮がないと感じました。本当に入って欲しいなら、もっと聞いている人に届く声で話すべきかと。そんな風に、減点法で企業を見ているうちに、「私は何のために働くんだろう」って途中から思い始めて。
原田:2012年以降、企業の業績が回復してきたり、団塊世代の大量退職によって人手不足に陥る企業が増えたこともあり、企業が採用数をかなり増やし始めた。特にこの数年は「超売り手市場」になっている。だから、学生側は強気で、声が小さいという理由だけで(笑)、企業を蹴るようになっている。熱すぎるのもダメ、声が小さいのもダメ……。企業の人事は本当に大変だね。
で、その就活中に迷走から抜け出したきっかけはあったの?
Eさん:ある時、社会貢献度ランキングを調べてみたら、上位に今の会社がありました。
原田:今の学生は「社会貢献」に興味がある人が増えていると言われるけど、やや極端に言うと、「給料よりも社会貢献のほうが重要」という考えの学生が増えてきているのかもしれないね。日本の企業ももっとCSRの取り組みを戦略的に行い、戦略的に学生に対してPRをしないといけないね。CSRの取り組みって「砂漠に木を植えました」的な、それはそれで本当に大切なことではあるんだけど、一見ベタで他社と同じと思われてしまう施策が本当に多いもんね。さらに、そのPRも相当下手で、せっかくお金をかけてやっているのに、全く知られていないことが多い。
Eさん:。就職先を決めた理由は、社会貢献を積極的にしている会社である点と、社員さんの雰囲気が良くて、柔らかくて大らかだったこと。先輩たちだけでなく、一緒に面接を受けている人も自分と合うと感じたし、「こういう人たちと一緒に働きたい」と思いました。
原田:やっぱり最終的には「雰囲気」が決め手なんだね。企業の「雰囲気」は一朝一夕に作れるものじゃないし、PRの仕方も難しいから、「企業の雰囲気作りとその雰囲気を伝える広告作り」も今後の広告会社の使命になっていくかもしれないね。
海外で活躍できるかどうかも大事
Eさん:また、かなり海外進出をしている企業であることも、惹かれた理由の一つです。私は小さい頃、親の仕事で香港やマレーシアに住んでいた経験があるのですが、そこで貧しい人たちを見て、彼らの力になりたいという気持ちがずっとありました。今の会社は発展途上国などへの進出にも注力していて、長期的に考えて社会全体が良くなる事業展開をしていると思えたんです。
Fさん:私も実は、海外に関われる仕事ができるかどうかを重視していて、社会貢献度が高くて誇りが持てることをしたいと考えていました。大学時代はフランスへ留学していたのですが、ある時、田舎町の電車の窓から、就職先の会社が造っている機械を見たことがあったんです。日本の企業が海外で活躍しているのを見て嬉しく思い、印象に残っていました。
原田:若者全体では「海外離れ」していると言われるけど、企業が採用したいと思う上澄みの学生たちは、もちろん全員ではないけど、帰国子女や留学経験がある子も多い。これだけアップルやグーグルやアマゾンなどと日常的に接して生きてきた君たちからすると、国内だけで食っていこうとしている企業って、昔で言うところの小さな商店街だけで食っていこうとしている店舗のように感じてしまうのかもしれないね。
でもさ、日本の企業の中で最もグローバル化が進んでいる一つである自動車メーカーは考えなかった? 東南アジア行ったって、中東行ったって、アフリカ行ったって、日本車は本当に世界中で多く見られるでしょう?
Fさん:全く考えなかったですね。人々の生活や命に直結する機械をつくっているところに惹かれて、今の会社に決めました。
原田:交通手段がなければ人は生活できないし、
ワークライフバランスを最重要視する男子
Gくん:僕は、自分のやりたいことが全然ありませんでした。だから、私生活を豊かにするために働こうと思って、ワークライフバランスを最重視して就職先を決めました。給与の高いところもありましたが、それよりも早く帰れるほうがいい。プライベートを充実させたいんです。
原田:また出ましたね、ワークライフバランス(笑)。もちろん、本来、それが人間として正しい考えだと僕も思うのだけど、ガツガツしていた僕ら団塊ジュニア世代の管理職をやっている人間と話すと、「仕事が楽しかったら、徹夜してでもその仕事をしたくなるはずだ」なんて未だに言うものね。「いや、どんなに楽しい仕事でも、できれば定時に帰りたいというのが今の若者のマジョリティの感覚なんだよ。どんなに楽しい仕事や職場環境を提供してあげても、家でNetflixやabemaTVを見ている時間には絶対に勝てない時代なんだよ」っていくら言っても彼らには絶対に伝わらない。
君たちが会社に入ってそういう発言をすると、きっと「ゆとりモンスター」と捉えられてしまうかもしれないから注意した方がいいかもしれないね。本来なら、会社は若い社員の本音を知るべきで、
で、君の考えは、人生の豊かさはお金ではないということだね。
Gくん:はい、交友関係などのほうが大事だと思っています。
原田:就職の決め手は何?
Gくん:面接を受けた後って、普通は就活生はみんな無言で別れるんです。でも、今の会社は就活生同士で話す機会が多かった。私生活の話が出ることもあって、その雰囲気がいいなと思って決めました。それから、面接の時なんかは、面接官に突っ込んだ質問をしていました。「遅くても7時には帰れるよ」って言われて、「本当っすかー?」みたいな(笑)。「社内恋愛ってありますか?」なんて聞いてもきちんと答えてくれて、働きやすそうだと思いました。
原田:社員が7時に帰れることを公言してくれたことと、ノリの良い若々しい会話が入社の決め手……。確かにそういうものが若者に求められる時代になってきてはいるが……。
Aさん:ワークライフバランスを重視している子は周りに本当に多いです。少しも残業したくないし、絶対に定時で上がりたい。あとは、「仕事=自己実現」っていう考え方って、もう完全に過去のモノになっていると思います。
面接時にトイレや社員の服装をチェックする理由
原田:就活で企業を訪れたときは、社内のどんなところを特に見てた?
Gくん:オフィスが綺麗かどうかを見ていました。汚いとモチベーション上がりませんから。あと、自宅でMacを使っていてそれに慣れているので、Windows一択だとイヤだなと思っていました。どっちがいいかを選ばせてほしい。
原田:確かに、特に都心の高学歴の学生はマック比率が高くなっているから、受かった会社がウィンドウズを使用しているという理由で内定を蹴った、という話もちょこちょこ聞くようにはなった。
Aさん:私はトイレをよく見ていました。汚いところはイヤなので……。それから、社食やカフェがあるところだとモチベーションが上がります。
原田:僕の経験からも、確かにトイレはその企業の「民度」を測る指標になると思います。トイレのきれいな国は民度が高いし、トイレが汚い国は先進国でも民度が低く感じてしまう。会社も同じで、トイレのきれいさで企業の民度は計れると思う。
ですが、学生さんはトイレで「民度」を計ろうとしているのではなく、きっと全体的に「オシャレ」なオフィスを求めるようになっている、ということなんだろうね。
インスタ世代の君たちからすると、普段からきれいなモノに触れて生きてきているから、Gくんのように男子でさえ、「オシャレ度」を求めるようになってきているんだろうね。
僕のような昭和男性は、もちろんオフィスのきれいさはモチベーションアップの一つにはなるけれど、会社選びの基準は完全に「側より中身」だった。でも、今は「中身より側」になっている面もあるのかもしれないね。
日本は歴史の長い古い企業が世界一多い国だから、中身のある会社は他国と比べて多いと思う。だけど、オフィスやトイレで就活生を魅了する作りにしないと、人材採用ができない時代になりつつあるかもしれないね。
Dくん:僕は働いている皆さんの服装を見ていました。ダボっとした黒いスーツに大きな鞄を持っているとか、身なりを気にしていない人が多かったので、変わって欲しいなと思いました。新入社員でもオシャレなスーツを着たいですから。
原田:これも同じ。インスタ世代からすると、多くのおじさんサラリーマンの身なりはきっとひどいと映るんだろうね。これでも、昭和に比べたら今のおじさんはきれいにはなりつつあるんだけど、君らからするとまだ足りないと感じる企業が多いんだろうね。各企業がスタイリストさんを雇って、おじさん社員に服装の研修をした方が、就活生の心をつかめるかもしれないね。
僕自身、自由な会社で育ったので、ほとんどスーツは着ず、
こんな僕のような体験をするおじさんを日本企業は増やしていかないと、若者の心をつかめないのかもしれないね。
Gくん:就活中のリクルートスーツもイヤですよね。内定式も全員白シャツでしたけど、僕は柄物のシャツで行きました。
「やりたいこと」より雰囲気とワークライフバランス
原田:昔は就職先を決める基準は「自分のやりたい事かどうか」という軸が多かったように思います。でも最近は、雰囲気・ワークライフバランス・社会貢献度・社員の気さくさ・オフィスやトイレのオシャレ度・社員の服装など、選ぶ軸が多様化しているようです。
それから、今の学生の特徴としてよく言われるのが、安定志向がとても強いこと。「失われた20年」の間に公務員志向が非常に高まりました。
ただ、ここ数年は公務員を選ぶ人が減っているそうです。理由は、企業の採用状況がものすごく良いから、前提としてその企業が安定していることは重要だけど、その上で少しでも給料の良いところという意味で「大企業志向」が非常に高くなってきていると言われています。今日いる皆さんもまさに首都圏の良い大学を出て、大企業へ就職を決めた人たちですね。
また、ベンチャー志向の子や起業志向の子も大幅に減ってきていると言われています。
今の学生さんたちが全体的に保守的になってきていることは間違いないと思います。
昭和・平成までだったら「大企業に入っておけば大丈夫」という神話がまだギリギリ成立していたと思いますが、次の元号ではさすがにそうはいかないと個人的には思っています。
次の時代で日本の大企業がどう変化するか、そして、大企業を選択をした皆さんもどう変化するか、個人的に大変楽しみにしています。
さて次回は、出世や転職について聞いていこうと思います。