「払ったってどうせもらえなくなるのでは?」「人生100年、公的年金だけじゃ絶対足りない」……年金について様々な情報が錯綜し、老後の不安がつのる時代、働く女性の年金について今、どう考えたらいいのでしょうか。制度を詳しく解説しつつ、老後に向けてどんな準備が必要なのかをお教えします。

年金、という言葉に、あなたはどのようなイメージを持っているだろうか?

あてにならない、もらえないのではないか……。そんなネガティブな印象を持っている人も少なくないが、それは、年金についての誤った情報に踊らされて正しく理解していないからかも。

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/NoSystem images)

働いている間は毎月決まってお給料が入ってくる。だからこそ、私たちはお金を使うことができるが、仕事を引退するとお給料は入ってこない。現役中に蓄えたお金や退職金があっても、お金を使うばかりでは減る一方でなんとも心もとない。対して年金は、定期的に、確実に、一生涯、受け取ることができる。やはり老後資金のベースは年金であり、90歳まで生きても、100歳まで生きても受け取れる終身型という性質は、大きな安心材料だ。

年金はなくてはならないもの。なんとなく不安視するのではなく、正しく知って老後資金づくりのスタートに立ちたい。

支給開始年齢を遅らせるのは今のところ、なし

まずは多くの人が気になっている「支給開始年齢」から見ていこう。1966年4月2日以降に生まれた女性(男性は1961年4月2日以降)が年金を受け取れるのは、65歳から。この支給開始年齢が引き上げられるのではないか、という見方がある。少子高齢化で年金財政がひっ迫しているから支給を遅らせる可能性がある、などと聞くと、納得しそうになる。

また現在は60歳定年後も働くことを希望する従業員については、65歳までは、雇用延長する、定年そのものを65歳にする、定年制を撤廃するのいずれかで働けるようにすることが法制化されているが、これを70歳まで引き上げる動きも出てきている。このことから、「70歳まで働かせて年金を出さないつもりだな」と見る人もいる。

しかし実際には、年金の支給開始年齢を引き上げるという具体的な話は出ていない。

内閣の未来投資会議では、人生100年時代を迎え、働く意欲がある高齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高齢者の活躍の場を整備する必要がある、といった論点が出てきている。

しかし、それと同時に、「70歳までの就業機会を確保したとしても、年齢支給開始年齢の引き上げは行うべきでないのではないか」、という論点メモも公表されている。つまり、支給開始年齢引き上げの方向で話が進んでいるわけではないのだ。

もしも将来的に引き上げられることが決まったとしても、過去の年金改正を踏まえると、20年先に老後を迎える人の支給開始年齢を徐々に遅らせていくなど、長い時間をかけて、ゆっくり引き上げていくものと考えられる。

未来永劫、支給開始年齢が引き上げられることはないとは言いきれないが、今から心配しても仕方がないし、個人で心配してもどうにもならない。また仮に引き上げられることがあっても、年金が国の制度である以上、「なくなる」ということはない。

もらえない、いつからもらえるか分からない、など、疑心暗鬼になるのはやめよう。

マクロ経済スライドで、物価上昇ほどには年金は増えない

年金がなくなることはない。では、給付額はどうだろうか。年金の給付を抑えるため、2019年度にはマクロ経済スライドが発動される。

マクロ経済スライドとは、物価や現役世代の賃金が上昇した場合、「物価や賃金の上昇率」から、現役世代の人口減少などを反映した「スライド調整率」を引いたものを改定率とし、年金額の計算にあてる仕組みをいう。

例えば賃金(物価)上昇率が1.5%で、スライド調整率が0.9%なら、改定率は0.6%。前年の年金額に0.6%を掛けて、年金額を決める、ということになる。

言い換えれば、賃金や物価は1.5%上がったのに年金は0.6%しか増えない、ということになり、0.9%分、購買力が下がることになる。

今後も物価の上昇基調が続いた場合、年金額は物価上昇より抑えられ続けることになり、購買力はどんどん下がることになるが、極端な物価上昇が続くとは考えにくく、「少し節約すればカバーできる程度」と考えられる。

2019年度の年金額は、国民年金(老齢基礎年金)が78万100円(月額6万5008円)で、前年度と比べて67円プラス、厚生年金は187万7966円(基礎年金を含む。月額15万6496円)*で同227円プラスとなっている。

*平均標準報酬額42.8万円で40年就業した場合

保険料は上げ止まり。払えない場合は免除あり

保険料についても気になるところ。自営やフリーランスの人は加入者一律の国民年金保険料、会社員は賃金に応じた厚生年金保険料を払っている。いずれも段階的に引き上げられてきたが、国民年金保険料は月額1万6900円(2019年度は1万6410円。保険料改定率がかかる)厚生年金保険料率は、収入の18.3%で固定され、引き上げは終了している。とはいえ、厚生年金保険料は賃金によって決まるので、会社員の場合、賃金が上がれば保険料も増える。

国民年金の保険料は現金納付より口座振替、月払いよりまとめ払いの方が安くなり、2年分を口座振替で前納すると、2年分で1万5760円も安くなる。

また思うように収入が得られないなど、保険料の支払いが困難なら、保険料の支払いが免除される制度もある。申し出をせずに滞納すると加入期間にカウントされないが、免除の手続きをすれば加入期間にカウントされる(年金額にも一部反映される)ので、手続きは必須だ。

民間保険会社の「個人年金保険」では保険料が払えなくなれば失効してしまうが、国の社会保険である公的年金は、払えない人も仲間外れにしない、というのが心強い。

女性の年金は増やせる!

もうひとつ、女性に知っておいて欲しいのは、「年金は自分で増やせる」ということだ。

20歳になると国民年金、会社員になると厚生年金に加入する。それぞれ保険料を支払っていくが、加入期間が長いほど、また収入が多くて保険料が高い人ほど、将来受け取れる年金が多くなる。

仕事を頑張って収入が増えれば、年金額はアップ。また厚生年金は70歳まで加入できるので、70歳まで会社員として働けば、それだけ加入期間が長くなり、将来、受け取れる年金が増える、というわけだ。

ちなみに、産前産後休暇や育児休暇の間は年金保険料の支払いは免除される。そのうえ、保険料を払い続けていたものとして扱われ、年金額に反映されるという大きなメリットがある。育児休暇をとったからといって、その分、年金が減る、ということはないから安心だ。

例えば勉強のために数年間仕事を休んだり、出産を機に退職して数年後に復職したりなど、会社員でない期間は国民年金のみの加入となるが、60歳以降も働いて厚生年金に加入すれば、厚生年金に未加入だった分を挽回して年金額を増やすこともできる。

パートなどで働いている人は、働く時間を増やすなどして厚生年金に加入すれば、将来の年金額を増やすことも可能。終身で受け取れるお金を多くする、というのは、安心感の高い老後対策になる。

とはいえ、年金だけで老後が暮らせるかといえば、一般的には難しく、自宅の修繕や病気、介護に備えて老後資金を用意しておく必要がある。iDeCo(個人型確定拠出年金)などで老後資金を準備することが大切だ。

井戸 美枝(いど・みえ)
社会保険労務士
ファイナンシャルプランナー、経済エッセイスト。神戸市生まれ。講演やテレビ、雑誌などを通じ、身近な経済問題をやさしく解説する語り口に定評がある。『100歳までお金に苦労しない 定年夫婦になる!』(近刊)など著書多数。