1冊を速く3回、見ると記憶に残る
学生の頃の私は、読書が好きではありませんでした。国語が超苦手で、読書=国語というイヤなイメージを持っていたのです。大抵のことはインターネットで調べられるので、読書なんて必要ないとすら感じていました。転機となったのは、住宅ローンを組んだタイミングでお金の勉強を始めたこと。500ページを超える課題図書を、短時間で読み切って理解しなくてはならない状況に追い込まれたのです。効率よく本の内容を覚えたいと思い、速読を学び始めました。
ビジネスの場でも、教材やマニュアル本を読まなくてはならないことがあると思います。数ページ読んだだけで集中力が切れてしまい、1冊読み切ることができないという人もいるのではないでしょうか。そんな人に少し思い浮かべてほしいのですが、ゆっくりと丁寧に読み進めても、内容の多くは記憶に残っていないのではないでしょうか。1回読んだだけでは理解度は上がりません。
それなら、速いスピードで何度も読んだほうが効率的。忘れる前に読み返すと、頭に残る情報量が格段に増えます。私が教える速読法では、1冊を3時間かけて1回読むところを、1冊を1時間で3回見ます。
この読み方を数階建ての書店に行くことにたとえると、1回目はビル全体の把握。「2階はビジネス関連なのね」というように、全体がどのような構造になっているのかをチェックします。2回目は、各階がどのようなつくりになっているかの確認。「ビジネスフロアは、経済関連のコーナーが充実しているんだ」というようなイメージです。最後の3回目は、そのコーナーの本の見定め。「売れている本はどれかな?」と、調べるように見ていきます。
このように、全体から細部にフォーカスしていく読み方をすることで、詳細まで把握できるようになります。さらに本を読むスピードを上げれば、反復学習に使える時間が増え、理解も深まります。この読み方なら1日で1冊の本を読んで、しっかりと理解することが可能に。単純計算でもひと月で30冊分の知識が身につくということになります。
STEP 1 ●15分
考えずに速く、全体を見渡す
目次や見出しを見ながら「読み切る」ことに注力
1回目は目次や見出しを見ながらどこに何が書かれているかを確認し、全体を見渡します。最初と最後に書かれている結論に意識を向けて読むというのもよいですね。結論が先にわかっているとテンポよく読めます。
また、本を読むのが遅い人の多くが、読みながら考え込み、先に進めなくなってしまうというクセを持っています。読むのが遅いのではなく、考えている時間が長いのです。読んでいる途中で「あれ?」と思うことがあっても、部分的に読み返すことはせず、まずは速く読み切ることに集中してください。それが難しい場合は、集中力が続くところまで速く読んで1回ストップ。集中力が回復したら、再び読み始めます。1度、1冊をきちんと読み切る達成感を味わうことが、途中で挫折してしまうクセを改善する近道です。
では、どのくらいの速さで読めばよいのかというと、理想は1ページ10秒以内。本の内容や読書に慣れているかどうかでも変わりますが、普段の読書時間の3分の1を目標にするとよいでしょう。1冊を1時間で3回読むには、1回目は15分を目安にしてください。
目線を速く動かせば、読書スピードは上がる
本は目を使って読むので、目線を速く動かすことができれば読書スピードは上がります。そこで、簡単に始められる基本トレーニング法をお教えします。
眼筋トレーニングは、目の動きをスムーズにするストレッチ。図の上下、左右、縦対角、横対角の4つを使い、(1)→(2)→(3)……と順に目線を動かします。このとき、図は目から15~20cm離し、スピードの間隔は各点0.5秒を目標に。目が激しく動くので、コンタクトレンズをしている人は、外してから行いましょう。目線を大きく動かせるように、できれば4つの図はそれぞれA4サイズに拡大を。集中するあまり、首や体を動かす人がいますが、速く大きく動かすのは目だということを忘れないでください。
眼筋トレーニング
●縦、横、対角とバランスよく行う●目の位置から15~20cm離す●各点0.5秒のスピードで見る●コンタクトレンズは外す●目線は速く、大きく動かす●首や体は動かさない
イラストのように文章や言葉を「見る」
1冊を速く読み切るには、文字を読むのではなく、文字に目を通すという感覚に慣れることが大切。具体的に説明をすると、イラストを見るような感じで文章を見て、どんな言葉が使われているのかを確認していくイメージです。特に1回目は、目に入ってきた言葉を覚えたり、その意味を確認する必要はありません。知らない言葉だったら「知らない」まま、次に進んでいけばよいのです。
文章の音声化をやめ「見て理解」する意識を
文章をイラストのように見ることができると、頭の中で文章が音声化されなくなります。文章の音声化はどうしてもスピードに限界があり、速読にとっては弊害です。どんなに速く黙読しても、頭の中で音声化していると、1ページを読み切るのに30秒以上はかかってしまいます。
言葉を音声化せずに「見て理解」すると、人によっては2倍の速さで読めるそうです。難しく感じる人もいるかもしれませんが、ほとんどの人が知らず知らずのうちにできていることなのでご安心を。たとえばメニュー表やツイッターの記事も文字で書かれていますが、パッとひと目見れば内容を把握できるはず。ツイッターなどを見ているときが、まさに「見て理解」している状態です。
しかし、本で試してみようとしても、慣れないうちはなかなかうまくいきません。なぜなら、本の文章は1度に目にする文字数が多すぎるから。まずは漢字で始まる言葉と接続詞、文末だけに注目するとよいでしょう。
文章で「見て理解」する感覚をつかむには、新聞でのトレーニングがおすすめです。紙面によって違いはありますが、新聞の1行は11~13文字。1行が固まりとして見やすい文字数なので、行単位で目線を横に動かす練習をしてください。最初は60~90秒ほどで読み終わる短めの記事から挑戦を。記事の内容を覚えることが目的ではないので、目線の動かし方に意識を向けるようにしましょう。
新聞1行読みトレーニング
●視点を行の中心に置き、1行全体を見て読み進める●文字数の少ない記事から始める●1つの記事を60~90秒のスピードで見る●内容の理解よりも目線の動かし方に注意
STEP 2 ●30分
各章の構造を確認しながら読む
見出しに対する結論が、書かれている場所を探す
1回目は目次や見出しを見ながら、どこに何が書かれているのかを確認しました。2回目に読むときは、それぞれの見出しに対する答えがどこに書かれているのかを一つ一つチェックしながら読み返していきます。
1度読み切っていることで、どこにどんなことが書かれているかが大体わかるので、1回目よりは随分と楽な気分で臨めると思います。もし、何が書かれてあったかをある程度思い出せるような状態であれば、1回目よりも少しスピードを上げて読んでみるとよいでしょう。頭に残っている内容を引き出しながら、太字で書かれた文章を中心に見たり、起承転結や論文形式などを意識すると、結論が書かれている場所を探し出しやすいはずです。
そしてこのときはまだ、本の内容を理解しようとしなくて大丈夫。気になる文章やわからない部分が出てきても、立ち止まって読み返してはいけません。途中で考え込んでしまうと、時間を無駄にするだけでなく、見出しに対する結論を探すという目的から外れてしまいます。どうしても気になってしまう場合や、もっと詳しく知りたいと思う部分については、とりあえず付せんを貼り、とにかく先に進むこと。付せんを貼っておくと、3回目で理解を深める際にも役立ちます。
聴覚と嗅覚を刺激する環境をつくる
長年、体に染み付いた読書スタイルに戻らないようにするために、自分を速読モードに切り替えることのできる環境に整えましょう。読書は目を使うので、視覚以外の感覚を刺激することがポイントです。たとえば音楽をかけると聴覚が刺激され、文字を読もうとする意識をそらすことができます。読もうとする意識がそれると、「見る」感覚で文章を追えるのです。だから私は、本を読むときには基本的にいつもクラシックを流しています。また、臭覚を刺激するためにコーヒーを入れるようにしています。これが習慣化され、今ではコーヒーの香りを嗅ぐだけで、意識しなくても速読モードに切り替わるまでになっています。
STEP 3 ●15分
詳細を検索するように見る
頭に残った言葉や、うろ覚えを明確に
3回目は本の中でよく使われている言葉や気になった部分、うろ覚えになっているところをクリアにしていきます。あいまいになっている箇所の内容を検索するように進めてください。2回目に付せんを貼った人は、そこをチェックしても構いません。
このとき大事なのが、なるべくスピード感を持って速く探すこと。うろ覚えだったことをただ確認する作業だけで終わらせないために、探すときはスピードを優先してください。気になっている部分を見つけたら、その後は無理に速く読む必要はありません。普通のスピードで該当部分や周辺の文章を読み、理解を深めましょう。
また、「探す→クリアにする」というステップは、長くても15分以内に終わらせることを意識して。気になったり、忘れてしまったりした部分は何回でも見直してよいのですが、時間を決めて短時間で集中したほうが記憶も新しく、内容が頭に残りやすいからです。
ここまでのステップをやり終えたうえでまだ余裕があったら、翌朝の通勤時間などにもう1度同じ本を読み返してみましょう。文章をじっくり読むのではなく、内容を確認するだけで記憶への定着度合いが変わってきます。
Exイントレ協会代表理事
速読を学び始めて8カ月後に、日本速脳速読協会主催の2010年速読甲子園で準優勝。翌月開催された特別優秀賞決定戦で速読甲子園優勝者を下して日本一になる。現在はさまざまな分野において速読を生かした研修、指導を行っている。近著の『速読日本一が教える すごい読書術』(ダイヤモンド社)はベストセラーに。