親から預かった学費を定期預金に流用してしまった

はじめての投資経験は学生のとき。1年ものの定期でも5~6%くらいの金利がつく時代だったので、定期預金から始めました。ただ、元手がなかった私は、なんと親から預かった学費を定期預金に流用してしまったのです。当時は少しくらい学費を延滞してもペナルティーがつかなかったので、ちょっとくらいいいよねと思ってしまったんです(笑)。

たしか3カ月か6カ月だったと思うのですが、それでも3%くらいの金利がつくはずでした。学費はお金を増やしてから納めればいいやと思っていたのですが、延滞しているうちに大学から実家に「このままでは退学になります」という連絡が来てしまって……。それで泣く泣く定期預金を解約して学費を支払いました。

預けていた期間が短かったので実際にはお金は増えなかったのですが、この経験が投資に、より興味を持つきっかけとなりました。

マネックス証券 執行役員 チーフ・アナリスト兼マネックス・ユニバーシティ長 大槻奈那さん

文学部出身なのでファンダメンタルズを学びたい

バブル時代ということもあって不動産にも強い関心がありました。大学卒業後は信託銀行に就職。信託銀行は資産を運用する銀行なので、不動産の勉強や仲介ができたからです。信託銀行時代の後半には、現状分析をして将来を予想する仕事をしていました。

ただ、もともと文学部出身なのでファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)をちゃんと学びたいと、ロンドンへMBAを取りに行きました。ファイナンスを勉強すればするほどに将来的な予想ができるようになりたいと思うように。帰国後は格付け会社を経て外資系の証券会社を渡り歩き、アナリストとしての経験を積みました。

アナリストの仕事は自分で何か新しい発見や切り口を見つけられた瞬間が楽しいですね。そしてさらにそれが当たったときは相当うれしい。経済は、すごくいろいろなことが混ざり合って成り立っているから、すぐに答えが出るものではありません。当たるまではかなり時間がかかる場合もあるし、当たったかどうかがはっきりしないこともあります。ただ、リスクを回避できるような情報を提供できるだけでも、世の中に貢献できているのかなと思っています。

昨今、人生100年時代といわれていますが、長く生きればその分、お金がかかります。今の時代、10万円を25年間銀行に預けていたとしても、貯金だけでは260円程度しか増えない。元本は減らないけれど、ほとんど増えません。となると、「何かできることから始めなければ! 知識を身につけなくては!」という気持ちになりませんか?

証券会社で働くエコノミストの女性比率が増えている

どうしても「経済=数学」というイメージが強いため、経済アレルギーの女性が多いと聞きますが、世界的に見れば日本人の基礎的な数学の能力はトップクラスだそうです。大卒程度の学力があれば、何も心配することはないと思いますよ。相場は四則演算くらいしか使わないからです。あとは数字の読み方を勉強していくだけで大丈夫。

むしろ相場を読み解くのは、男性よりも女性のほうが向いている気がします。男性は空間認識や計算など1つのことに集中する能力があるといわれていますが、女性は表情を読むといった多くのことを総合的に判断して雰囲気をつかむのが得意。これがまさに相場なんです。相場とは景気の気を読むこと。

男性はいろいろな指標を使って予想をしますが、女性は数字だけでなく、ニュースなどを読み解いて総合的に判断する人が多い。世界的に見ても、証券会社で働くエコノミストの女性比率が増えているというデータもあるんですよ。

経済を学んでいなかったら自分の世界は広がらなかった

現在、一橋大学大学院で博士号取得に向けて勉強中で、学内の図書館で自習することも。2017年は大学院入学のためにミクロ経済学などを一から学び直しましたが、なかなか苦労しました。

私自身は、もしも経済を学んでいなかったら自分の世界は広がらなかったのではないかと思っています。たとえば異業種の人にはじめて会うとき、あなたならどんなことを話しますか? お互いの話を聞くだけなら3分は持つかもしれません。

でも、共通項があってお互いにその会話から得るものがないと、また会って話がしたいとはならないと思うんです。その点、経済は共通言語。景気や投資の話題についていけるようになれば、どこへ行っても誰とでも対等に話ができるようになります。

また、数字に慣れて会話の中に具体的な数字やデータを織り交ぜられるようになれば、話の説得力がまるで違ってきます。仕事ができるなと思う人の話し方で、特にプレゼンや上司への説得などを聞いてみると、ところどころに必ずデータが入っていることに気がつくはずです。

実は私もまだまだ勉強中。現在、大学院に通って博士号取得に向けて頑張っています。自分自身で経済の勉強を重ねながら異業種交流会などにも積極的に参加してみると、世界はどんどん広がると思います。

▼NANA’S HISTORY
1988
東京大学文学部を卒業後、三井信託銀行(現:三井住友信託銀行)に入行
1994
パリ国立銀行(現:BNPパリバ銀行東京支店)に入行
1997
ロンドン・ビジネス・スクールでMBAを取得
1998
HSBC証券に入社。投資銀行本部に配属
2000
スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン(現:S&Pグローバル・レーティング・ジャパン)に入社
2005
UBS証券に入社。調査部マネジング・ディレクターに就任
2011
メリルリンチ日本証券に入社。マネジング・ディレクター、調査部金融・内需関連セクターヘッドを歴任
2015
名古屋商科大学経済学部教授就任
2016
マネックス証券執行役員就任(現任)
2017
クレディセゾン社外取締役就任(現任)
2018
名古屋商科大学大学院教授就任(現任)二松學舎大学客員教授就任(現任)