多くの女性に備わるのが、わかってあげる力

「今日はまず、“数字が取れる雑談力”について、お話ししましょう。ここでさっそく問題です。A・自分中心の会話にする。B・相手中心の会話にする。どちらが正解かわかりますか? 答えはB。相手中心の会話にしたほうが、圧倒的に数字が取れることをまずは伝えておきましょう。必要なのは、わかってあげる力。俗にいう“共感力”の高さが求められるのです」

「TALK&トーク話し方教室」主宰 野口 敏さん

話し方教室を主宰する野口敏さんによると、その共感力は、男性には乏しく、女性は特に優れている人が多いのだとか。

「ここで例を出しましょう。たとえば不動産営業の女性が、『やっと法人営業部に異動になったんです』と話したとします。あなたはどう返答しますか? 男性はここで、『では、前はどちらに?』などと聞いてしまいがち。しかしよく考えてみましょう。先ほどのセリフでいちばん重要なのは『やっと』。ここに相手の思いが込められているんです。『ずっと法人営業部に移りたいと願っていて、それがやっとかなった』という相手の喜びに気がつけるかどうか。ここで共感力の高い人なら『ようやく異動できたんですね』『努力なさったんですね』と返すでしょう。大切なのは、相手がどんな気持ちを理解してほしいと考えているのか、そこに意識を向けること。すると円滑なコミュニケーションが生まれ、仕事がよく回り、結果的に数字が上がることにつながるのです」

共感の言葉を持つ女性は美しい

相手側に立って話を聞く。言葉では簡単に聞こえるが、実践するのはかなり難儀ではないだろうか。

「そこでおすすめしているのが、相手の話を映像化して聞くことです。とはいえ、話の映像化自体、実はだれもが無意識のうちにしていること。それをあらためて意識すればいいだけなのです。すると何が起こるか。相手への理解が、思考的理解から体験的理解へと変わります。頭ではなく心から共感することができるようになるのです。人として、なんと美しい姿でしょうか」

さらに野口さんが美しいと考えるのが、“共感の言葉をたくさん持っている女性”なのだとか。

「『大変でしたね』という声かけに、どれだけ具体性を持たせられるか。『苦労が絶えないですね』『我慢なさったんですね』『体調が優れなかったんですね』『トラブルがあったんですね』。これこそ、リアルに相手の立場に立たなければ出てこないもの。受け答えのバリエーションの豊富さは、知的レベルに比例します。賢くて話し方の美しい女性だけが持ちうる能力だと思うのです」

野口さんが愛用する 鉄板フレーズ
「いいですね」「困りましたね」
初心者に最適なフレーズ。いい話は前者、悪い話は後者で対応し、共感グセをつけたい。
「顧客を1年で2倍にしましょう」
プレゼンの場で相手を惹きつけるためには、最初に結論を具体的に提示するのがベター。

必要なのは、共感力と想像力

「続いて、“数字が取れるプレゼン力”についての話をしましょう。ここで女性がはまりやすい落とし穴をひとつ。それが『言葉を使いすぎる』ことなのです。本当に伝わる言葉は短く、本質を突いたもの。では、それがよくわかる例を出しましょう。最近、歯科医院の研修を請け負ったのですが、私はひと言めにこう伝えたのです。『先生、患者を1年で2倍にしましょう』。ただ、私は歯科業界のプロではなく、あちらはまだ半信半疑です。そこでこう続けました。『私は長年歯を悪くしていました。患者側のプロなのです』。ここまで言えば、相手は『患者目線をもった人間が顧客を増やす話をするのだ』とイメージができる。話のゴールを短い言葉で表せば、内容の理解が早くなります。それも魅力的なゴールにすることで、相手は自ら耳を傾けてくるのです」

実はここで冒頭の話との共通点が現れる。雑談もプレゼンも、どちらも相手が欲しいものを差し出すのが正解だということ。

「それこそが“想像力”ですよね。これは、いろんな人に会って、その立場になり続けることで伸びるもの。個人的に感じることですが、“共感力”と“想像力”、どちらも備えている女性は、ひと筋縄ではいかない経験をしている人が多い気がします。なんと美しい話し方をする女性だろうと話を聞けば、何度もピンチが訪れ、自分に向き合い、相手の立場に立つことの連続だったと語ってくれることも少なくないのです。話し方は経験によってさらに磨かれる。私はそう信じているのです」

▼野口さんが選ぶ 話し方を学ぶ本

左から/野口さんが話し方教室を始めるきっかけとなった『神との対話』(サンマーク文庫)。野口さんの著書で、女性が影響される人から影響を与える人になるための必読書、『誰からも大切にされる女性のための話し方』(扶桑社BOOKS文庫)。

野口 敏(のぐち・さとし)
株式会社グッドコミュニケーション代表取締役
「TALK&トーク話し方教室」を主宰し、社員教育や講演活動を行う。『会話がとぎれない!話し方66のルール』(すばる舎)など著書多数。