雑誌をめくって目に留まるメイクのページにはいつもこの人の名前があった──。全世代の女性たちから絶大な支持を集める藤原美智子さんの、「なんとなく」で流されず実行する力に注目だ。活躍し続けるためには技術以外にもあることが必要とか?

直感の正しさを行動で証明

ヘア&メイクアップアーティストと聞いて、まずこの人の名前と顔を思い浮かべる人は多いだろう。長らくヘア&メイク業界の第一線で活躍してきた藤原美智子さん。きっと幼いころからこの仕事を志していたと思いきや、そうではなかったという。

「学生のときは、そんな名前の職業があることも知りませんでした。実家が美容院で美容関係の学校に通っていましたが、家業を継ぐのは先が見えてしまい嫌だった。そんな折、雑誌で後の師になる人がアシスタントを募集していて『面白そうだな』って応募したら受かっちゃった。もともと直感で動く性格なんですよね」

MICHIKO FUJIWARA
1958年生まれ。ヘア&メイクアップアーティスト、ライフスタイルデザイナー。ラ・ドンナ主宰。雑誌や広告撮影のヘアメイク、執筆、化粧品やファッション、ライフスタイル関連のアドバイザー、講演、TV出演などで幅広く活躍。近著『LIFE IS BEAUTY~美しく幸せに生きるための逆算思考』(集英社)ほか、著書多数。

その後メキメキと頭角を現し、一人前のヘア&メイクアップアーティストへ。34歳のときには自身の事務所を構えるに至った。「でもそれも、前もって計画していたわけではなくて直感で決めてしまったの(笑)。ただ、その時期は人の何十倍も働きました」と笑って振り返る。本業を精力的に行うかたわら、オリジナルのメイクブラシやヘアアクセサリーの開発、個人へのメイクアップアドバイスも。「身銭を切って経験したことが後に自分の糧となりました」。自分を追い込みつつあらゆることに挑戦した結果が今の活躍につながった。「そのときは自分の直感が正しかったか否かは判断できない。『正しかった』ことにするために、一生懸命行動することが大事だと思っています」

+αの人間力がモノを言う

行動力もさることながら、一流のヘア&メイクアップアーティストなら他者とは違う特別な技術が必要?

「プロならメイクはできて当たり前です。そこにプラスアルファがないと」と藤原さん。大切なのは人間力、つまりコミュニケーション力だそう。

「アーティストと名はつくものの、ヘア&メイクは職人だと思うんです。アーティストなら自由に作品をつくればいい。でも私たちが働いているのは、さまざまな立場の人がチームになりひとつのものをつくり上げる現場。だから一人ひとりの性格や状況を察知していろんな角度からアプローチすることが必要です。ちょっと苦手だと思った人でも、苦手な部分をあえて面白いととらえて、実際に本人に『面白いですね』と伝えちゃうんです。相手も悪い気はしないので、案外うまく事が運びますよ」

「続けること」が力になる

藤原さんが長く続けてきたことにスクラップブックづくりがある。「素敵な女性やファッション、アートやインテリア、庭の写真など、いいなと思うものを集めて分類するんです」と教えてくれた。頭の中で思うだけでなく具体的に形にすることで、自分が目指す方向が明確になったのだそう。さらにこんな利点も。

「ヘア&メイクの仕事は瞬発力勝負。私は撮影現場でその日のテーマを聞き、絵コンテや衣装を見てモデルに会うと、パッと仕上がりのイメージが浮かびます。するとすぐに手が動くの。だからイメージする力を鍛えるために、いつもよいものを見たり触れたり、五感で感じることを大切にしています。よいものをインプットし続けることで養われたイメージ力。それが私を動かしてくれるんです」

さまざまな行動の積み重ねが、他者との違いに表れているのだと感じられる。多くの示唆に富んだ藤原さんの仕事の流儀。分野が違っても、学ぶことはたくさんあるはず。

藤原さんのこだわりの道具

オリジナルのメイクブラシ

事務所を設立した際に立ち上げたオリジナルブランドのフェイスブラシは、従来のブラシを改良し、女性の手にフィットして使いやすいように柄を短くしたもの。「よい道具を使うとメイクの仕上がりに違いが出ます。だから道具はとても大切」と藤原さん。

 

Text=デュウ Photograph=洞澤佐智子(CROSSOVER)