「こんなに手間暇がかかるもの、どうして作るんですか? 一体どれだけ現場に迷惑を掛けることになるのか。お客さまはこんなことを求めているのでしょうか?」
2005年、ヘッドハンティングされて入行した新生銀行で、猛烈な批判の矢が四方八方から飛んできた。全国行脚して必死で説得したが、行く先々で反対に遭い「明日クビになるんじゃないか」と落ち込んだ。福田さんはそのときのことを「全身に矢が刺さった弁慶みたいだった」と表現する。
作ろうとしていたのは業界では前代未聞の「32色のキャッシュカード」。銀行はモノクロで堅いイメージだが、「Color your life」と銘打ち、ブランディングを図ろうと考えた。どんなお客さまにも好きな色はあるし、キャッシュカード1枚でお客さまとのコミュニケーションも生まれる。色ごとにユニークなネーミングも考えたが「金融のきの字も知らない人が……」と怒鳴られたのだ。
しかし、福田さんはめげなかった。トップの判断で実行に踏み切ったところ、見事に大成功。同時に発売した「仕組預金」も当たり、前年比160%の売り上げを達成した。猛反対していた神戸支店長もスタンディングオベーションで出迎えてくれ、「あのとき、厳しいことを言ったよね。ごめんね」と労いの言葉を掛けてくれた。
金融業界にどっぷり漬かっていなかったからこそ生まれた斬新な発想で高い評価を得た福田さん。金融の前も異なる業界で活躍してきたが、もともとは武蔵野美術大学でデザインを学んだという異色の経歴を持つ。
クリエーティブな環境で育ってきたため、自然に美大に進学したが、美大生となり課題に取り組むうちに、自分の才能のなさを思い知った。誰かの作品のよさを客観的に見いだし、それをプレゼンする能力に長けていると自覚した大学時代。そして、美術の道ではなく、大手流通企業に入社した。
働かない“社内マンボウ”へのいら立ち
配属された宣伝部での仕事は楽しく、よい上司にも恵まれた。一流アーティストと仕事をしたり、まだ始まったばかりのCRMも学ぶことができたが、あるとき社内に「全然仕事をしていないおじさん」がいることに気づく。「社内マンボウ」は喫煙室に行ってただプカプカしているだけなのに、なぜか部長で給料も高い。それなのに「一生懸命働いて、力を発揮している女性はなぜ課長なんだろう?」と感じた。
「いわゆる年功序列が歴然と存在していたんですね。だから、いつまで経っても私は会議に呼ばれないわけですよ。偉くなろうと思っていたわけではなかったのですが、何かが決まっていく会議に出て、自分もディシジョンメイクをしたかったのです。なぜ女性で若いと会議に呼ばれないんだろう?という疑問があり、理不尽だと感じていました」
そんなとき、アメリカに帰国した元同僚から、日本進出する企業に行ってみないかと声が掛かる。「働きぶりを認めてもらえるところで、フェアに働きたい」と転職を決意。30歳でLVMHグループの化粧品会社に入社した。
そこにはもう社内マンボウの姿はなかったが、180度違う業界で面食らった。ルイ・ヴィトン命、という社員がほとんどの中、上司から「PR担当としての自覚が足りない!」という叱責(しっせき)の声が飛んだ。プレスという特殊な部署で『プラダを着た悪魔』のような見栄の世界についていくことができず違和感を覚えていたとき、グループ内企業に異動。MD、販売促進など、さまざまな業務を担当しながら実績を積んでいき、ようやくこの世界に慣れてきた。
だが、そう思った矢先、思いがけない転職話が舞い込んだ。それが、冒頭の新生銀行からのヘッドハンティングだった。
3人の子育てでバタバタの日々
4年後、大きな転機が訪れる。夫の海外転勤により退職することになったのだ。願っていた妊娠も叶い、長男を出産。続けて双子も出産し、それまでに経験したことのないバタバタの日々が始まった。
帰国し、アクサ生命への転職も決まったが、住んでいた都内の地域では待機児童が200人以上といわれ、保育園に子どもを入れることができない状況。
「さて、どうしよう、困った」。そんなとき、たまたま保育園をやりたいという人が見つかった。子どもを預かってもらうことができ、そこで英語のプリスクールも始めた。子どもが小学校に入ってからは、自分が習い事などに連れていけない分、できるだけ自宅でスクールを開くなどの環境づくりにも取り組んだ。
アクサ生命では執行役員として多忙な日々を送る。生保は金融とも異なり、人の生死や病など数字では割り切れないエモーショナルな面がある。トラディショナルな社員がいる中で、ロジックだけで方針を伝え、会議の場では「福田さんは生保業界のことはご存じないですからね」とチクリと言われることもあった。だが、「規制や決まりがあるからこそ、新しい発想でやってみたい。きっと美大時代から、私はそういうことが好きだったんでしょうね」。企業に新風を送る福田さんのチャレンジは続いている。
Q.好きな言葉
目の前にあることに真剣に取り組んでいれば将来はついてくる
Q.趣味
パートナーとおしゃべり
Q.ストレス発散
パートナーとおしゃべり
Q.愛読書
『薔薇の名前』(ウンベルト・エーコ著)
アクサ生命 執行役員 マーケティング/CRM&コミュニケーション本部長
1992年、大手流通企業に入社。広告、商品開発などを担当。99年、LVMHグループを経て、2005年、新生銀行にマーケティング部部長として入行。09年、コンサルティング会社のパートナーとして香港やフランスで活躍。14年よりアクサ生命執行役員。