「広告宣伝のことしかわからない人」で終わりたくなかった
ユナイテッドアローズとの出合いは、高校生のとき。セレクトショップというスタイルがまだ世間に浸透していない時代で、とてつもなくカッコよく感じました。自分もこんな世界に身を置きたいと思い、東京の大学を目指しました。そして上京後、原宿のお店でアルバイトを始め、新卒で社員に。当時はオフィスとお店の境がないような規模感で、レジ対応や、バックルームの整理などもしていました。
その後、広告宣伝部に異動して経験を積み、広告宣伝の予算管理を任されることに。それに応じて、経理や人事、店舗開発の責任者など、違う仕事をしている人たちと話す機会が増えました。彼らとは、それまで周囲のメンバーとの間で使っていた言葉が通じなくて……。相手の言っていることもよくわからず、同じ会社の人間なのに不思議だなと思いました(笑)。相手の言語の基本にあるものって何なんだろうと考えてみたら、要するに会社の数字だったんです。管理職として話す相手は、全員「数字がわかる人」だったので、共通言語が持てない、仕事にならないという壁にぶつかりました。
例えば決算期でいうと、「来年どういうことをやっていこう、そのために必要なお金はこれぐらいだね。そうすると、売り上げをこれくらいにしていかなきゃいけないね」という話をします。売り上げをどうやって上げていくか、それを達成するために人件費や宣伝費などのコストを使って、最終的にどう利益を出すかを議論するのですが、簡単に言うと、その話に取り残されました。自分が担当している広告宣伝費が、決算書の中で売り上げの○%ぐらいなんだというのは理解できていても、商品原価があって、粗利益があって、人件費がどれくらいかかって……という仕組みがわかっていなかった。会社全体を動かす会議に出席しても、まるで存在感がなく、私はここにいなくてもいいのではないかとさえ思いました。
このとき初めて、私が10年ぐらいやってきた広告や宣伝の仕事というのは、会社の中のワン・オブ・ゼムなんだなと気付いたんです。そしてまた、会社全体を見る仕事をやってみたいと思いました。「広告宣伝のことしかわからない人」で終わりたくなかったのです。
数字にからっきし弱いけど「ちょっとだけわかる人」に
友人に相談をしたら、「悩んでいる時間があるなら、勉強したほうがいいんじゃない?」と言われ、グロービス・マネジメント・スクールに通うことに。2年かけて、アカウンティングと経営戦略の基礎を修学しました。会計力を用いてどう経営の仕事をするかを学ぶ場なので、決算書を読めることが大前提なのですが当時は基礎的なことがわかっていなかったため、予習・復習に追われる毎日。なんとしても授業に付いていくために猛勉強しました。その結果、会計が得体(えたい)のしれない、正体不明なものではなくなったんです。
会計が少しわかったら、自分の仕事を相手に伝わる言葉で話せるようになりました。聞く耳を持ってもらえると、自分の意見も通しやすくなる。会計が自分の提案を裏付ける力強い材料になるんです。そして、決算書をもとに問題点をお互いに話し合って、解決するための策を打てるようにもなる。以前は承認してもらうだけだった相手と、同じステージに立って問題解決のできる仲間になれたことがうれしかったですね。
今でも私、数字にはからっきし弱いですし、数学は大嫌い。エキスパートでもありません。でも、「ちょっとだけわかる人」になった。例えば財務部門の人や会計士が目の前に来ても、ひるまずにいられる。それは若干の共通言語があるからなんですね。持っている知識は全然違うと思うのですが、対等にビジネスの話ができるようになりました。ワインでもファッションでも、少し知っていると話が弾みますよね。私の中で会計は、仕事と人生を楽しくしてくれる、リテラシーの1つなんです。
1996年:学習院大学経済学部を卒業後、ユナイテッドアローズに入社。販売促進部に配属
1999年:同社広告宣伝部に異動
2005年:同社社長室広告宣伝課で広告宣伝統括担当
2006年:グロービス・マネジメント・スクールに通い、会計と経営戦略の勉強を開始
2008年:同社経営開発本部経営企画部長就任
2009年:同社経営企画室長就任
2010年:同社執行役員就任
2015年:第1子出産
2017年:同社UA本部副本部長 兼 事業戦略部長就任
2018年:同社執行役員、人事部担当就任
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