視線を外すタイミングは、話が終わる“句点”

講演やコンサルティングで、皆さんのお悩みを伺うことが多々あります。

「うまく相手の目を見られません」「どこを見て話せばいいですか?」といった人前で話すときのアイコンタクトや視線に関することも、よく受ける相談のひとつです。

相手の目を見て話すのはコミュニケーションをとるときの基本中の基本。クライアントと1対1で話をする、あるいは少人数で会議をするといった、相手との距離が近い場面ほど、視線の動きは相手の目につきやすいものです。特に女性の場合、目元を化粧で強調していることがよくあります。まつげのエクステをしている人や、アイカラーやアイラインをはっきりと入れている人は視線の表現がより目立ちます。ぜひ今回ご紹介するスキルはしっかりと自分のものにしてください。

今回は、とくに1対少人数の場合の視線のとらえ方についてご紹介します。

視線は、どう見るかに加えて、相手に向けていた視線をどこで外すかということも大事です。視線の外し方で考えたいのは、外す“タイミング”と“方向”です。

イラスト=米山夏子

視線を外すタイミングは、基本的に“句点”です。相手の話が一段落した「。」で視線を外す。話の途中にもかかわらず目をそらされると、その話に興味がないように見えてしまいます。相手が話し終わるまでは視線を外さないようにするのがポイントです。

話を聞きながらメモをとる場合も、メモをとるタイミングは同じく句点。話の途中で目を落としてメモをとりはじめたら、しゃべっているほうは違和感をおぼえます。例えば上司の指示などをメモする場合、最初から書き始めれば「しっかりと書きとめているな」と思われます。しかし話の途中からメモをとると「どの部分を書きとめたの?」と思われる可能性があります。

唯一視線を外していい方向は「斜め上」である理由

視線を外す方向も大事です。上、下、横、斜めという各方向において、視線を外していい方向と外してはいけない方向があります。

合わせていた視線を外していい方向とは、どこでしょうか。それはズバリ、斜め上です。人は何かを考えているときや思い出すときは、たいてい斜め上を見ます。例えば、あなたに質問です。おとといの夜、何を食べましたか? 今、無意識に視線が斜め上にいきませんでしたか? 何かを聞かれたときに「うーん」と考えながら斜め上を向くのは自然な仕草。ですから、視線が斜め上に外れても気にならないのです。

この習性を利用して、相手が言ったことについて「意味がわからない」と思ったら、わざと斜め上を見ると「私は理解できていません、もう少し説明してください」というサインにもなります。斜め上なら、右でも左でもOKです。

一方、外してはいけない方向は、斜め上以外のすべての方向です。まず“上”は、伸びをするときや話を拒否する“お手上げ”のジェスチャーをするとき以外に、それほど見ません。

“下”は△です。外してはいけないというよりも、視線が外れた理由が相手に理解できればOKです。例えば、下に置いている資料が相手に見えていて、そこに視線を落としながら話しているのであれば下に視線を向けるのは問題ありません。しかし、資料が相手から見えない状態で、ちらちらと視線を落とすと自信がなさそうに見えるので気をつけましょう。資料は隠してちらちら見るよりも、堂々と出して見るほうが信頼につながります。

下の方向に視線を外す場合、注意したいのは、パソコンを使う場面。話を聞きながら、パソコンにいったん目を落としてからまた上げる、ということが多々あるでしょう。このとき下からすくって見上げるようにすると、相手を小馬鹿にしたように見えるので気をつけたいところです。

“横”に視線が外れることは、どんな状況でもNGです。目を合わせていて横に目をそらすということは相手の話に関心がないのを伝えることになります。

“斜め下”は、つい見がちな方向。時計やスマートフォンなどを手元に置いて、ちらっと見るということをしていませんか? 視線を外すのは失礼なのでちらっと自然に外したつもりかもしれませんが、それもやはり失礼な行為です。

そもそも視線の外し方でよくないのは、何を見るために外したかがわからないことです。何が気になって視線を外したのだろう、と相手が話に集中できなくなります。それが「時間を気にして時計を見ている」「スマホが鳴ったからメールをチェックしている」などとわかれば不信感は払拭(ふっしょく)されます。資料の例でもお伝えしたように、むしろ見たいものは堂々と出して、視線を落とすほうがおススメです。

利き腕に時計をすると目線が自然になる

ちなみに時計の自然な見方ですが、腕時計のつけ方をあらかじめ工夫しておきましょう。女性は腕時計の文字盤を内側にしている人もいますが、こういう場面での見やすさを考えると、外側につけるのがおススメです。さらに言うと、わざと利き腕にします。たいてい右利きの人は腕時計を左腕につけるものです。しかし左腕だと時間を知りたいときにわざわざ時計を見なければいけません。しかし右腕なら、何かを書いたり、ジェスチャーをしたりと腕を動かしたときにさりげなく見られます。自然に視線が行く方向に、時計を仕掛けておくのです。

誰かを説得したいというときには、やはり目力は重要です。目というのは、人間の視覚情報で最も印象に残ります。プレゼンテーションなど大勢の人前に立つときにはリキッドでアイラインを引き、マスカラもしっかりとつけて、アイメイクを頑張りましょう。視線を外すタイミングさえ注意すれば、エクステも効果的です。色は黒がおススメです。ふだんはおしゃれで青などのカラーにしたり、髪の色に合わせて茶色にしたりしている人も、このときばかりは信頼性の高い黒で勝負してください。

カラフルなアイシャドーは、ノイズになります。アイシャドーは色をのせるのではなく、陰影を与えるものと考えましょう。メイクは女性ならではの武器です。今回お伝えした視線の表現スキルにプラスすると、説得力を増します。ぜひ意識して使い分けましょう。

矢野 香
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。長崎大学准教授。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、博士号取得。政治家、経営者、上級管理職に講演や研修で「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。