ヘアメイクを手早く、「キレイ」を気軽に。自分が欲しかったサービスを事業化した「アトリエはるか」創業者の西原良子さんに話を聞いた。

「大の合コン好き」が起業のきっかけに

仕事終わりのデート、結婚式へ出席、大事なプレゼン前。髪やメイクをささっとキレイに整えたいときがある。女性ならではのこうしたニーズをとらえた企業が「アトリエはるか」だ。施術内容にもよるが、ポイントメイク10分、フルメイク20分、ヘアアレンジも10分程度で仕上げてくれる。価格は10分1500円(関東は1800円。税別)から。パーマ、カット、カラーリングは行わないため、移動途中で気軽に利用できると幅広い客層から支持を得て、現在ルミネや東京・渋谷マークシティ、京都伊勢丹など全国に50店舗以上と拡大中だ。

株式会社アトリエはるか取締役副社長 西原良子さん。結婚、離婚、再婚を経験し、今は3人の子どものママ。ワーキングマザーが働きやすい職場づくりは自身が関わる問題でもあり、会社の規模が大きくなるにつれ、やるべきことが増えた。99%が女性社員。彼女たちとの密なコミュニケーションで本音を聞き、長く勤められる企業にしたいという。http://www.haruka.co.jp/

今では同業他社も現れたこの新しいビジネスモデルは、同社で副社長を務める西原良子さんが生み出したもの。発想のもとは自身が大の合コン好きだったから(!)というのが面白い。

「名古屋の地元テレビ局で会社員をしていた頃、夕方5時45分に洗面室でイチからヘアメイクをやり直し、6時に会社を飛び出して、週に5回の合コンをこなしていました(笑)。でも、私は派手なヘアスタイルが大好きな名古屋人なのでホットカーラーを使った巻き髪は得意ですが、メイクは苦手。毎日面倒くさくて。だから、プロに手早くやってもらえたらいいのになあ、と思ったんです」

そんなことをぼんやり考えていたときに整体やリフレクソロジーで行われている「10分単位」のサービスを見て、「メイクやヘアセットもこうすればいい!」とひらめいた。

そこからは猪突猛進だ。なんと、具体的な事業計画もなしに会社をあっさり辞めたうえ、名古屋の有名な地下モール「セントラルパーク」の案内係の女性に「ここにお店を出したい」といきなり尋ねたという。係の女性も想定外の「お問い合わせ」に驚愕(きょうがく)したに違いない。それでもちゃんと運営会社につなげてくれて、西原さんはやりたい事業の夢を伝えることができた。相手は男性だったが、後日、あなたのアイデアに力と場所を貸そうじゃないか、と話はとんとん拍子に進んだ。

並走する仲間は「とらばーゆ」で募集。「友だちをつくるのと同じ。この人と一緒に働きたいと思えるかどうか」が採用条件だった。第1号店のオープンは2001年2月。退職後、1年も経たないうちにアイデアを現実のものにした。

まるでママゴトのような始まりだ。だが、自分自身が欲しかったサービスのニーズに強い確信があったから突っ走れたという。当然、会社の内外で大小さまざまな失敗をした。しかし、実はいろいろな職業の人から本音の話を聞いてみたいと思ったことが怒涛(どとう)の合コン三昧の日々につながった、とあっけらかんと明るく話す姿に「人を巻き込むパワー」が感じられる。良い意味で無理をしないのも西原さんの持ち味だろう。「子育て中ですし、もともと数字は得意じゃないから」と社長業は夫に任せ、自らは原点と語る各地の店舗に頻繁に顔を出しながら、サービスのブラッシュアップと新事業の開拓に力を注ぐ。

「私は施術できませんから、各店舗の受付でお客さまをご案内しています。ニーズも見えやすいですし、社員たちに直接ハッパもかけられますし(笑)」

今日も副社長はさりげなく受付に立ち、お客さまに笑顔で接しているはずだ。

【写真左】渋谷マークシティウエストモール店。【写真中】社名入りのペンは社員たちにも配る。愛用のブルーの手帳の中は小さな文字で整然と予定が書きこまれていた。【写真右】店舗では一店員。名札をつけて気持ちを引き締め、社員たちと一丸となってお客さまに対応する。
西原良子(にしはら・りょうこ)
1975年愛知県生まれ。女子大を卒業後、地元テレビ局に就職。2年で退職し、2000年にアトリエはるか創業。全国主要都市での約50店舗の美容サロン運営のほか、関連事業へも進出。