中学受験をせずに公立中学へ進学すると、勉強の仕方がわからない

4月から公立中学の1年生になった末っ子(3人兄弟のいちばん下)は、ゴールデンウィークのさなかに1学期の中間テストがありました。「とにかく、最初の定期テストが大事。最初のテストの成績で先生方のその子への印象が決まるから」と説明して、勉強させようとしました。しかし、中学受験も何もせず、スポーツ三昧でのんびりと過ごしてきた末っ子は、勉強をする術を知りません。新学期が始まったばかりなのでテスト範囲は狭く、テスト範囲を示すプリントには、どこが出るのかが手に取るように指示されて いるのに 、それをカバーする勉強の仕方がわからないのです。塾に通い、受験を突破して私立中学に進学した同級生とは大きな開きがあります。

たとえば英語。「『このページに出ていることは全部書けるように』ってテスト範囲のプリントに書いてあるよね。この単語19個書ける?」と聞くと、「え、これ全部覚えて書くの?」。親は絶句……。「desk」や「apple」などの簡単な単語ですが、「自分が書くもの」という認識がされていませんでした(一番難しかったのは「eraser」=消しゴム。ボールは何度も「boll」と書く始末です)。数学は教科書とワークの問題を全部解いて、言葉で説明してある部分の用語を覚えるように指示をしました。「テスト勉強は?」と聞くと「やったよ」といっていたのに、何も有効な勉強ができていなかったことが判明しました。

「そういえば……、」と夫がいい出したのは、今は大学生になった長男を中1の5月頃に学習塾に連れて行って学習レベルを見てもらったときに、「たいへんです! アルファベットが書けません」といわれて、その場で塾に申し込んだ覚えがある、という話でした。

「長男の頃には、親がそこまで勉強の仕方を教えないといけないという認識がなく過ごしていたんだなぁ」と、自分の親業を改めて振り返りました。

あとで少しくらいがんばっても、そう簡単に成績は上がらない

上の子2人は成績がいいとはいい難く、高校受験のときに苦労したので、わかったことがあります。「高校受験に向けて中3になってから勉強しても遅い」ということです。もちろん、学力は中3からでも伸びます。しかし、内申点については中2からでも遅いのです。中学に入ったばかりのときから「ちゃんと勉強する子」だと認識されていないとなかなか評定が上がらないということを知りました。

年度初めに学校から配られる「評価・評定について」というプリントがあります。各教科、どのような観点で評価をし、評価する材料としては何を使うか、ということが明示されています。たとえば国語なら、「国語への関心・意欲・態度」「話す・聞く能力」「書く能力」「読む能力」「言語についての知識・理解・技能」というそれぞれの観点で、定期テスト、授業観察、提出物、小テストなどを材料に評価されるとされています。そして、評定の基準は、到達度が90%以上で「5」、80%以上90%未満で「4」、50%以上80%未満で「3」、20%以上50%未満で「2」、20%未満で「1」となります。

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評定の基準(東京都のある公立中学の場合)

ここでのポイントは、定期テストの結果だけではなく、日常の学習活動や評価材料(意欲や積極性、小テストの結果、宿題やレポートの取り組み、ノート提出と内容、実技テスト、作品、発表や発言の内容、プリントやワークシートの提出及び取り組み状況)を総合的に判断して評価されるという点です。定期テストの点数が少し上がったくらいでは、なかなか「3」を「4」にすることはできないのです。

なぜ、内申点が重要かと言うと、東京の都立高校の入試は、1000点満点のうち300点が内申点で評価され、残り700点分を学力テストで見るのです。学力テストで圧倒的な得点力があれば別ですが、同じような学力レベルの子たちと競う場合は、ある程度の内申点をとっておかないと不利な状況になってしまいます。

しかも、2016年度から音楽、美術、保健体育、技術・家庭の実技4教科の内申点は、学力テストが実施される国語、数学、英語、社会、理科の2倍で評価されることになり、これからは実技4教科の評価が特に重要になってきます。

内申点が低くて、都立高校受験に苦労した長男の場合

長男が中学生のとき、担任が音楽の先生だったにも関わらず、長男の音楽の成績は特にボロボロ。どうしてなのか、親は不思議に思っていましたが、あとで聞くと、試験範囲のプリントを読んでおけばわかる筆記テストを間違え、みんなの前でひとりで歌う歌のテストを拒否していたらしく、成績が悪いのも合点がいきました。

しかし、思春期で反抗期の中学生男子に、成績のために先生に気に入られるような態度をとれと、親がいうのは何か違うんじゃないかと思い、直接本人にはいいませんでした。世の中の仕組みも知らなければ、計算高く生きていけるわけでもないから中学生なのであって、そこをつぶしてはいけない気がしていました。

上の子2人は、「提出物を出さない」「授業態度が悪い」という点でかなり評価を下げていたのではないかと推測されます。そして、中3になって少しくらい授業態度を改めても、先生方の評価はあまり変わらないわけです。「その変化を認めてくれるのが教育者だろう」とも思いますが、そもそも態度が悪かったのはうちの子です。

思春期さなかにある男子の高校受験は、親にとってもきついものです。本人がどうしたいのかよくわからない、親が決めるとそれには徹底的に反発する、という状況。「内申がとれていないんだから学力で勝負しろ」といい聞かせましたが、長男は、都立入試とあまりきちんと向き合えず不合格。埼玉の私立高校に進学しました。

東京の私立高校受験の「併願優遇」で苦労した娘の場合

東京の私立高校には、「併願優遇」という制度があります。「5教科の内申合計が20以上」など、学校ごとに決められている基準をクリアして「併願優遇」を利用して受験すると申請すれば、一般入試の筆記試験の点数にプラス20点などの加点措置をしてくれるというものです。

真ん中の娘は、都立高校の滑り止めに考えていた私立高校を併願優遇で受験するには、1学期の段階で5段階の評定で1~2ポイント足りない状況。結局、2学期の最終の成績で1ポイント足りず、併願優遇が利用できませんでした。あと1ポイントあれば、私立の受験がラクに迎えられただろうにと思うと、もっと早くからやる気をアピールしていないといけなかったんだと、このとき反省しました。

11月に個別面談に行った埼玉の私立で手ごたえがあったので、結局東京の私立は併願優遇が関係ない学校を受験しました。その後の都立受験で娘は、都立中高一貫校になり高校からの入学者数が少なく敬遠されていた学校に志望をかえて合格。受験は何があるかわかりません。

大学への指定校推薦などを狙っている高校生も、同じくスタートダッシュが必要

このように、都立高校受験にも私立高校受験にも、中学での内申点が影響します。内申点は途中で容易には上がりませんから、最初からの心掛けが大事です。

中学の中には、これからの期末テストが最初の定期テストという学校もあるでしょう。ぜひ、そこでスタートダッシュを促してみてください。そして、その子なりのがんばりを評価してあげましょう。

同じように、新しく高校生になった子どもたちもスタートダッシュが必要です。学力勝負の一般入試ではなく、指定校推薦などの推薦入試を視野に入れている場合は、学校の評定が推薦枠の基準に到達していないといけませんし、定員が1名の枠に2名以上手を挙げた場合、高校側が推薦者を決める際に、成績が加味されることは十分に考えられるからです。

さて、ゴールデンウィーク中に夫にさんざん嫌味を言われ、泣きながら特訓を受けた末っ子は、何とか中間テストを乗り切りまずまずの成績を収めました。しかし、これからが本番。手を抜くことなく毎日の予習・復習を繰り返し、理解できていることを確認しながら進むことほど省エネの学習法はありません。この先塾にも行かせることになると思いますが、学校の勉強を疎かにしては内申点と得点力の両方を得ることはできません。できるだけ効率のよい勉強法を実践していくことが、教育費の節約にもつながると、3人目にしてようやくわかりました。

フリーライター 生島典子(いくしま・のりこ)
投資信託の運用会社、出版社勤務を経て独立し、2004年よりライター・編集者として活動。子育て、家計、住まい、働き方などが主な執筆テーマ。好きなことは、出産と住宅ローン。3人の子どもを助産院で出産した経験あり。