空間において照明は重要な役割を果たしている。どんな光をどのように照らすか。まだ日本では珍しい女性照明デザイナー、小西美穂さんに照明のもつ可能性について尋ねた。
光が人に与える影響は大きい。煌々(こうこう)と明るいオフィスとほのかな明かりのバー。空間における光の役割はきわめて重要だ。
たとえば六本木の東京ミッドタウン。キラキラとあたたかな明かりで照らされたビルの姿に見とれる観光客が多い。その照明の共同設計に加わっているのが、小西美穂さんだ。日本初の照明コンサルティング会社を立ち上げた父、武志さんとともに「必要なところに必要な光を」という信念を掲げ、東京・豊島区の一大プロジェクト、としまエコミューゼタウンや大東文化大学東松山キャンパス、神戸三宮ミュージアムタワーに中国・重慶のファイナンシャルセンターから、お寺や旅館など、さまざまな建物の照明デザインに関わってきた。
美穂さんがメインで照明デザインを取り仕切ったクライアント、東京アメリカンクラブで行われた取材。1928年に設立された会員制クラブが再開発で2011年に生まれ変わり、クラシカルな重厚さにモダンが加わった建物となった。
そんな由緒あるクラブの各レストラン、ラウンジ、会議室など用途の異なる室内の光を彼女が工夫を凝らして演出した。
「クライアントはもとより、建築家や職人さんなど、多様な職種の方々と協働しなければ成立しない仕事です。時間との戦いのなか、時には行き違いもあって、もうダメかと真っ青になったときもありました。でも、当然のことながら、皆さん、プロとしての誇りをもって仕事に向かってくださったので、素晴らしい空間に仕上がり、とても満足しています」
心からいとおしそうに各所の照明について説明してくれる。ワインセラーの背後でかすかに光るブルーの照明には、建物をよく知るクラブ関係者も「こうなっていたのね!」と驚いていた。派手な仕掛けだけではない、細やかな「配光」。たとえ訪れる人が気づかなくても、心地よく過ごす空間に不可欠な一要因だろう。
「東日本大震災直後、東京も節電でほの暗くなりましたよね。光というものへの問いがあらためて投げかけられたと思います。煌々とした明るさとは違う“ほの暗さ”もまた人間らしい生活に必要ではないでしょうか。煌々と照らす必要のない場所もあるはずです。私は“しなやか”と“艶”という言葉が好きなのですが、心の健康を取り戻せるスポットになる場所を、しなやかで艶のある明かりで照らしたいのです」
日本と西洋では光に対する感覚が異なる。「日本が水彩画だとしたら、西洋は油絵」と語る美穂さんはイギリスで学び、アメリカの照明事情にも詳しい。日本と西洋をつなげて光で表現することができるのが彼女の強みだ。
「それから、女性がビジネスをやっていくうえで“きれいに見せる演出”が必要だと思っています。そのために照明ができることがあるはず。たとえお疲れ気味でもコンディション良く、生き生きして見えるような照明デザインを考えたい」
ハロゲンからLEDになったことを「絵の具が変わったようなもの」と説明してくれた。照明の世界はいま、大きく変わっている最中だ。最新技術と情報をキャッチアップしながら、照明デザイン界の新世代として、これからさらに注目されるプロジェクトを手掛けていくに違いない。
ALG建築照明計画(株)照明デザイナー。1980年東京都生まれ。日本女子大学家政学部家政経済学科卒業後、建築照明計画株式会社(ALG)入社。渡英してロンドンAAスクール修了。ロンドンFoster+Partners勤務。帰国後、ALG照明計画ディレクターに就任。