2015年10月から通知が始まったマイナンバー。本当にメリットはあるのでしょうか。

マイナンバー制度がついに開始。2015年10月から12桁の個人番号の通知が始まり、16年1月からは源泉徴収票や支払調書等に番号の記載が求められる。

各企業は管理体制の構築に大わらわだ。顧客や従業員の番号が流出したら一大事、莫大なコストをかけて対応に追われている。一方、国による情報の一元管理や、情報漏洩への懸念も根強い。事実、日本年金機構の情報流出で制度改正法案の採決が延期された。この制度、コストやリスクに見合うメリットはあるのだろうか。

マイナンバー 今後のスケジュール

マイナンバー制度は、国内に居住する人に国が個人番号を付し、様々な行政手続に活用するもので、当初の利用範囲は、税、社会保障及び災害対策の3分野に限られる。国が強調するメリットの一つは、税負担と社会保障給付の公平化だ。自治体等が生活保護等の給付にあたって所得を含む関連情報を容易に確認でき、不正受給等の防止に役立つほか、今後預貯金口座への任意付番が実現すれば、税務当局がより正確に所得を把握でき、公平な税負担につながるという。

行政手続の効率化もメリットとされる。様々な行政機関が個別に管理する情報が、2017年以降、マイナンバー制度を通じて連携され、例えば健康保険の加入や児童手当支給の申請などの際、必要書類が減る見込みだ。17年1月に運用が始まるウェブサイト「マイナポータル」では、自分の税金や年金等の情報確認や関連手続が行える。形式的・非効率的との批判を受けてきた数々の「お役所仕事」が、迅速簡便な「IT行政サービス」に変貌するかもしれない。

こうしてみると、「不公平」「非効率」の解消を目指すマイナンバー制度は、格差の拡大が指摘される一方で税や社会保障の国民負担率が上昇するという、時代の要請を受けた政策ともいえそうだ。

とはいえ国民全員を巻き込んで多大なコストを投じるこの制度、メリットが公的分野に限られていては、投資対効果が十分に実感できるとは言い難い。民間分野に新たな可能性は見出せないだろうか。

注目されるのは個人番号そのものではなく、希望者に発行される顔写真付きの「個人番号カード」だ。住所、氏名、生年月日、性別が記載され、運転免許証と同様、信頼性の高いアナログ身分証明書になる。加えて内蔵のICチップに「公的個人認証サービス」に対応した「電子証明書」が記録される。行政のオンライン手続の本人認証に用いられる仕組みで、マイナンバー制度の開始に合わせて、広く民間に開放される。対応する読取端末にカードをかざせば「本人」だと行政のお墨付きが得られるもので、スマートフォンとの連携も想定され、簡単でより確実なオンラインでの本人認証が実現する。

民間企業が利用すれば、本人確認が容易でないネット空間での安全・安心を高められる可能性がある。ネットバンキングなどでの「なりすまし」防止をはじめ、ネットオークションなどの個人間取引では相互に実在の人物であることを確認できるようになり、クチコミサイトではサクラの書き込みを減らせるかもしれない。政府の有識者会議では、東京オリンピックのチケットを本人認証のうえで電子販売し、会場の安全性を高めるという案も出されるなど、アイデアは尽きない。

さらに民間分野でのメリットが期待される枠組みとして、「マイナポータル」への民間事業者の乗り入れや、個人番号カードのICチップの空き領域の民間利用も提案されている。将来の法改正に向けて、これから議論が本格化するだろう。

このようにマイナンバー制度は、新たな社会基盤として民間分野にとっても多様な可能性を秘めている。制度の実現に投じられた莫大なコストやリスクを上回るメリットを我々が実感できるかどうかは、今後の法改正の行方と民間の創意工夫にかかっているともいえそうだ。

伊藤 亜紀

片岡総合法律事務所弁護士。NHK報道記者を経て弁護士登録。電子マネー等の決済ビジネスやパーソナルデータ関連の法務を数多く手掛ける。