給与支払いについて定める労働基準法の5原則。あなたの給与は正当に振り込まれていますか? 労働者の身を守るための法律を、会社勤め女子代表、働なの代(どう・なのよ)が弁護士に学びます。

[質問]私の会社は大きな取引先との契約が終了した関係で業績不振となり、毎月25日に支払われる給料日の1週間前になって「今月の給料日は月末になる」と通知されました。住宅ローンなど引き落としがあるので、どうお金を工面するか困っています。今まで、給与振り込みが遅延したことはなかったのですが、会社が一方的に給料日を変えることは法的に問題ないのでしょうか?

次のうち、給与支払いの原則として、法律上定められていないものはどれでしょうか?

Q 給与の支払いは……

1. 通貨(金銭)で支払わなければならない
2. 直接労働者本人に支払わなければならない
3. 全額を支払わなければならない
4. 毎月1回以上、一定の期間内に支払わなくてはならない

A 4. 毎月1回以上、一定の期間内に支払わなくてはならない

【解説】

【岩沙】「職場のあるある! リーガル相談」。アディーレ法律事務所弁護士の岩沙好幸です。 急に涼しくなりましたが、皆さん今年の夏は満喫されましたか?

【なの(以下、なの)】私は沖縄に行ってきました! これで夏休みも終わっちゃったし、今月末には旅行の引き落としがあるし、しばらく金欠です……。

【岩沙】確かに、夏はいろいろと出費がかさむので、給与日が待ち遠しい、という方も少なくないのではないでしょうか。今回はそんな給与の支払いに関する相談から問題です!

【なの】おっ、先生、話の持って行き方が上手です!

【岩沙】恐れ入ります(笑)。 なの代さん、今回の給与支払いに関する質問は答えられました?

【なの】いやぁ、今回も難しかったです。全部正解っぽいですもん。

【岩沙】そうですよね。今回は一見、全部合っているように見えるような4択でした。給与支払いについて、法律では5原則というものがあるのですが、今回はそこをおさえておきましょう。

【なの】給与支払いの5原則?

【岩沙】はい、実は給与の支払いについては労働基準法にこんな5原則があります。

(1)通貨で支払わなければいけない(通貨払いの原則
(2)直接労働者に払わなければいけない(直接払いの原則
(3)その全額を労働者に支払わなければならない(全額払いの原則
(4)毎月1回以上支払わなければならない(毎月1回以上の原則
(5)毎月一定期日に支払わなければならない(一定期日払いの原則

【なの】んー、やっぱり今回の問題の4択に全部当てはまっているような……。

【岩沙】答えは4の「毎月1回以上、一定の期間内に支払わなくてはならない」という内容のうち、1回以上という部分は問題ないのですが「一定期間内」というのが間違いなんです!

【なの】一定期間内……。あ! なるほど、これだと例えば「毎月25~30日の間に支払いますよ」という給与日設定でも良いってことになっちゃいますもんね。

【岩沙】そうなんです! 給与日は必ず「毎月25日払い」など、明確に期日が決められていないといけません。

【なの】じゃあ「月末」という表現も曖昧なのでダメなんですかね?

【岩沙】大体「月末」となっていると「末日」とされることが多いですが、加えて「毎月第4金曜日」などの表現も、その月によって日にちが変わってしまうのでダメなんですよ。

【なの】とにかくハッキリ日付を決めろということですね。今回の質問のように、1週間前に突然給料日が変更になるっていうのもダメなんですよね?

【岩沙】そうです。労働者の不利益となる急な給与日の変更は、一定期日払いの原則に違反します。現に今回の質問者さんも困っていますからね。

労使協定が結ばれていれば5原則に例外もある

【なの】ホントですよ! 私も毎月の支払いがきついので痛いほど気持ちが分かります。先生、この5原則の中の「直接労働者に払う」というのは、労働者本人に「手渡し」ということですか?

【岩沙】そうです。法律では、本人に直接手渡しが原則なんです。ただ、労働者の合意があれば、金融機関等への振り込みでも可能ということになっているんですよ。

【なの】そういえば、入社時に希望振り込み先として口座番号などを書いた気がします。

【岩沙】そうですよね。入社時に給与振り込みについて説明を受けていると思います。

【なの】手渡しが基本というのはちょっと意外でした。口座振り込みの会社が多いのに、実は振り込みの方が例外なんですね。給与を受け取るのはどんな時でも本人じゃないといけないんですか?

【岩沙】代理人や親権者への支払いは認められていませんが、労働者本人が受け取り困難な場合に本人が誰かを使者として受け取りに行かせることは認められます。手渡しでなくとも、結局奥さんが旦那さんの給与を持っていっちゃう家庭もありますしね(笑)。

【なの】働く身としては、笑えませんね……。はっ! 先生! 気付いたんですが、「全額払いの原則」があるのに、いつも社会保険料とか税金とか差し引かれて、手取りが嘘みたいに少なくなるんです! あれは「全額払いの原則」に違反していません?

【岩沙】その気持ち、とてもよく分かります……。目を疑いたくなりますよね。でも、給与から社会保険料や税金を差し引いて良いというのは、別の法令(所得税法など)で定められているので、大丈夫なんですよ。

【なの】まぁ、税金などは会社が代わりに払ってくれているだけですもんね。でも、友人の会社は、社員旅行の積立金も毎月少しずつ差し引かれるって言っていました。これはどうなんでしょう?

【岩沙】それは、おそらく「労使協定(ろうしきょうてい)」といって労働者と使用者の間で書面による協定が締ばれているんだと思います。労使協定が結ばれていれば例外としてOKなんです。社宅や寮などの住居費や、社内預金、組合費なども差し引かれるという話もよく聞きませんか?

【なの】確かに、聞きます! 結局、労働基準法で5原則が定められていますけど、場合によっては例外が認められているパターンも多いんですね。

【岩沙】そうですね。ただ、この原則はいざという時に労働者を守ってくれる盾にもなり得ますからとても重要ですよ!

給与支払いのトラブルは5原則に照らして考えよう

【なの】確かに、当たり前のことをしてくれないところもあるみたいですしね。そういえば先生、大分前に、米の卸問屋が従業員に給与としてお米を現物支給したことを思い出しました。

【岩沙】お米ですか!

【なの】昔、米は年貢としてお金と同じように扱われていたし、どうせ米を買って食べるんだから良いだろうっていう理屈でした……(笑)

【岩沙】給与がお米は困りますねぇ。私はパンも大好きでよく食べるので……。

【なの】先生、そこの問題じゃないです。米じゃ家賃も払えませんよ! そんな考えの雇用主も中にはいるとなると、この原則はやっぱり無ければダメですね。

【岩沙】そうですね。労働者に不利な天引きをする会社もありますし、給与の支払いについてはトラブルが多いですからね。もしもの時はこの5原則を思い出してください。

【なの】給与といえば、そういえば先生は弁護士だから、結構もらっているんじゃないですか?

【岩沙】「そういえば」って。私はいつも悩みが解決された方々から「笑顔」という給与をたくさん頂いています! これはもうプライスレスですね!

【なの】最後はやっぱり印象良くして締めましたね。こんな岩沙先生ですが、皆さま、今後もよろしくお願いします。

【岩沙】「こんな」って……。

【なの】先生、今回もありがとうございました!

【回答者】岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払い などのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』(http://ameblo.jp/yoshiyuki-iwasa/)も更新中。
【文・監修】アディーレ法律事務所(http://www.adire-roudou.jp/