人をソノ気にさせるのがメッチャうまい詐欺師の実態

先日、わが家の固定電話に、商品先物を名乗る会社から電話がかかってきました。「信用状を用いた船便の輸入取引への投資」で、積荷は石油。簡単にいうと、「船の運賃に投資をすると、石油が売れた時に1.2倍になって戻ってくる」というものでした。

職業柄、これは詐欺だということはピンときましたが、話を聞いてみることに。

【ワタシ】「お金がないわ」
【詐欺師】「100万円なんて必要ないんですよ。今回は投資信託のようなファンド形式で、小口でもいい船便ですから、10万円から受け付けています。石油が売れれば儲けは大きく、運賃代はサッと払ってくれるので、3カ月後に12万円になりますよ。あなたは株をやりますか?」
【ワタシ】「ええ、少しだけ」
【詐欺師】「この件は秘密で、投資経験者のみにお話をしています。注意深い調査の結果、あなたが選ばれました。投資で絶対儲かるとは、法律で言ってはいけないことになっていますが、株よりずっといいですよ。船が地球半周する間に沈没さえしなければ、3カ月後には儲かるのですから。50万円が60万円になるので、それくらいなら出せるでしょう? 過去には、50万円が倍になったこともありますよ」

10分ほどのやりとりでしたが、文章にするとあまり臨場感がなく……、とても残念です。話には詐欺の手口を聞いていましたが、いや~その儲け話の巧みなこと。

私は金融取引の知識が少しあるので、「信用状付荷為替手形」のことも少しは知っているのですが、専門用語の説明の仕方が上手で(おそらく、説明はほとんど合っている)、人をソノ気にさせるのがメッチャうまい。しかも口調がさわやかな男性で、 “本当っぽい話”に聞こえます(褒めてはいけない!)。

ただし、詐欺師は、自分が詐欺師であることを証明するNGワードを連発していました。

「あなたの電話番号はある証券会社から聞いた」
「この件は秘密で、表には出せない話」
「あなたは選ばれた人間」
「滅多にないいい話なので、このチャンスを逃さないほうがいい」

全部、人をだますための典型的なセリフです。

最後、もう、二度と電話がかかってこないように言いました。

【ワタシ】「主人は警視庁に勤めているので、勝手なことをすると怒られます。今聞いた電話番号を調べますよ」

「先にお金を払えば、後で大きく戻る」とだます、劇場型詐欺

このような金融詐欺は「劇場型詐欺」の部類で、少し金融知識があって、「私は大丈夫。だまされないわ」という人も、「今、権利を買えば、後で確実に高く売れる」という儲け話に、コロッとだまされてしまうのが特徴です。

「劇場型」というくらいですから、詐欺師は役者です。今回、実際に詐欺の電話を受けてわかりましたが、大根役者ではなく、本当に魅力的なストーリーでニセの商品を説明していました。あれならだまされる人がいるのもうなずけます(感心してはいけない!)

消費生活センターなどに寄せられる「劇場型勧誘」の消費生活相談件数は、平成24年度以降月平均で1500件以上もあり、被害者の多くは、在宅時間が長い高齢者や、女性だそうです(表参照)。

表を拡大
平成25年度における「劇場型勧誘」に関する消費生活相談

「劇場型勧誘」の手口はますます巧妙化・悪質化しています。複数の詐欺師が警察官や弁護士、公的機関の役人、大手証券会社の重役などさまざまな役を演じて、偽のパンフレットや通帳などの「小道具」があるのはあたりまえの世界。

詐欺集団が「カモ」を見つけたら、よってたかってお金を奪い取っていくのです。

典型的な手口は、電話勧誘を行う前にパンフレットを送りつけ、電話で購入を勧誘し、その後、別の人物が違う業者を装って電話をしてきて、その金融商品がいかに儲かるかなどを説明する、など。

中には、未公開株への投資パンフレットが送られてきたあと、消費者センターを名乗る女詐欺師から、「最近、未公開株パンフによる詐欺が多発していますので、注意を呼びかけています」といい、「うちにもA社の未公開株を買わないかときました」と伝えると、「詐欺の報告はB社なので、それは大丈夫かもしれません」と安心させ、大半が2段階、3段階で人をだますそうです。

「劇場型詐欺」にだまされない鉄則は、

●「先にお金を出すと、後で儲かる」といった儲け話は絶対に信用しないこと。
●「特定の人のみ」「期間限定」「高く買い取る」は詐欺。
●未公開株や社債、信用取引など、金融商品の新規顧客の電話勧誘は100%ありえない。
●「金融庁」「財務局」「消費生活センター」など公的機関を連想させる名前は詐欺と思って間違いなし。

そして、いちばんの対処法は、

●話の途中でも、お金の話が出たら電話を切る。
●警察の名前を出す。

です。

まだまだある! 若い世代が引っかかりやすい詐欺

「健康食品送りつけ商法」も急増しています。これは健康食品に限らず、化粧品や入浴剤などもあり、「懸賞に当たったわ」、あるいは「無料サンプルを取り寄せたかしら」と思わせるようなものです。

受け取ったあと、電話やハガキが届いて、「受け取ったのだから、代金を払え」といい、「払わないのなら、家に押しかける」と、だんだんと脅しのスタイルになっていきます。

「健康食品送りつけ商法」にだまされない鉄則は、

●断るときに「けっこうです」はダメ。「いりません」とキッパリいう。
●断ったにもかかわらず商品が届いたときは、受け取りを拒否をする。このとき、宅配業者のことを心配する必要はない。
●断りきれなかった商品が届いたら、一定期間内ならクーリング・オフできる。

です。

ネット関係だと、「架空請求詐欺」も横行しています。

私の友人から、パソコンを立ち上げるたびに、アダルトサイトからの架空請求詐欺の画面が出てきて、「あなたは有料サイトを見たので、お金を振り込まない限り、この画面は消えないと書かれている」との相談がありました。「こんなの妻や子どもには見せられないので、お金を払えば消えるのか」と。おかげで食欲もなく、心から気に病んでいる様子でした。

このような「架空請求詐欺」の画面が出てくるときには、知らないうちに怪しいソフトをダウンロードしています。ダウンロードした記憶がなくても、何かのクリックでパソコンが勝手にダウンロードしてしまっていることも。この時は私がソフトの削除方法を教えて、彼がお金を振り込む寸前で、詐欺にひっかかるのをくいとめました。

「架空請求詐欺」は、反応しないことが鉄則! 迷惑メールにあるサイトにアクセスをしたり、請求のメールに返信をしたりしてはいけません。

「架空請求詐欺」にだまされない鉄則は

●何があっても完全無視。
●架空請求は丁寧な口調であることが特徴なのだが、惑わされない。
●「給料を差し押さえる」「法的処置をとる」などは脅しの手口なので、完全無視。
●延滞料、調査料、退会料などの 上乗せ請求も無視する。

「振り込め詐欺」に加え「振り込む詐欺」も横行

最後に、これだけ政府や金融機関が「お金を振り込まないで」と啓蒙しても、親世代をターゲットにした「振り込め詐欺」が減らないのは、やはりそれだけ手口が巧妙化しているからです。

2014年に全国の警察が認知した振り込め詐欺など特殊詐欺の被害額は、過去最悪の559億4354万円。前年から約70億円も増えています。

また、宅配便などで現金を送らせる手口が急増し、1件あたりの被害額は738万円に上っています。一方、銀行などで声を掛けて被害を未然に防いだケースは、1万731件で約296億円でした。合算すれば855億円分の事件が発生したことになり、すごい数字です。このほかに表に出てこない隠れた被害も多いとか。

私の肌感覚でも、シニアの多くは、振り込め詐欺の電話を受けた経験があるようです。

私の叔父は、息子が危機なので、「新幹線でお金を持ってきて」と、詐欺師にいわれたそうです。振り込め詐欺だな、とはわかっていも、息子に何かあったのでは……と心配になったそう。

わが家では、私が在宅しているときに、母親へ、孫のピンチを救うためという振り込め詐欺の電話がかかってきました。それからは、私の弟が母親に「オレだけど」とふざけて電話をかけてきては、だまされないように注意しています。

さらに、「還付金が振り込みでもらえますが、そのためには申込金が必要」と、詐欺師といっしょにATMにいく、あるいは「手続きは面倒だから、私が代わりにいってきてあげる」と、キャッシュカードを預かってそのままいなくなるといった、「振り込む詐欺」も横行しているそう。

振り込め詐欺も振り込む詐欺も、だまされたことに気づかぬままお金をとられてしまうのです。詐欺に遭わないためにも、親と話し合い、問題意識を高めていきましょう。

親が「振り込め詐欺」にだまされない鉄則は

●子どもや孫とはいつでも確実に連絡が取れるようにしておく。
●常に電話は「留守番電話」に設定。
●お金の話になったら、電話を「ガチャン」と切ると約束する。
●玄関の鍵を閉め、知らない人には鍵を開けない。
●キャッシュカードの暗証番号は、普段からけっして口にしてはいけない。

マネージャーナリスト 坂本君子(さかもと・きみこ)
広告代理店、出版社にてサラリーで働くエディター、ライター、プランナー、コピーライターを経てフリーに。得意分野は投資、住宅関連。大ブレイクはしないけれど、仕事は堅実でハズさない。満を持して2008年に起業。個人投資家としての投資歴は15年選手(ちょっぴりプラス)。