気持ちよく暮らせる住まい──。その条件の一つは、心とカラダがリラックス、リフレッシュ、リセットできること。働く女性が、オンもオフも充実した時間を過ごすための住まいづくりのヒントを探る。

人生を左右する住まいづくり
夢に応えてくれるパートナー選びを!

忙しい中でも、豊かで充実した日々を送りたい。そんなワーキングウーマンにとって、やはり住まいはすべての拠点。では、仕事への英気を養えて、家事も快適にできる住まいとはどのようなものか──。一級建築士として、これまで1500件を超える住まいづくりに関わってきたYuuさんにポイントを聞いた。

「家は生活を変える、人生を変える」が信条

この人に聞きました
Yuuさん

 

──現代の働く女性が住まいに求めるものについて、特徴的だと思われることはありますか。

【Yuu】日本の住環境はすでにとても高い水準にありますが、最近の女性は単に便利さや実用性だけでなく、癒やしや楽しみ、喜び、豊かさといった「+α」の付加価値を求める傾向が強くなっているように感じます。

例えば、お風呂。あるアンケートでお風呂に入る目的を尋ねたところ、「体を洗うため」よりも「疲れを取るため」「癒やされるため」という答えのほうが多かったといいます。実際、入浴中により深くリラックスできる商品や設備は女性にとても人気ですね。

それとやはり、忙しい女性にとって見逃せないのは、家事の効率。例えば洗濯をしながら料理をつくるといった“ながら家事”を上手にこなすには、高性能、高機能な設備や機器に加えて、あらかじめ家事がスムーズにいく間取りを考えておくことが大事です。洗濯なら、まとめ洗いができる大容量の洗濯機やパワフルな乾燥機は時短の強い味方になります。それに加えて、洗濯機のすぐそばに物干し場があって、さらにその近くに取り込んだものをたたむ場所やクローゼットがあれば、一連の動作がスムーズ。間取りの工夫で、家事の一つ一つの動作をうまく“連携させる”ことができるのです。

最近では、脱衣所や洗面室などのそばに、物干しやアイロン掛けなどマルチに使える「ユーティリティ」、家事室とも呼ばれるスペースを配置する設計が増えてきました。生活スタイルに合わせて、連携しやすい間取りにしておくことが、賢い家事の秘訣です。

小さな工夫やアイデアの積み重ねで人生を豊かにする家をつくれます

Yuuさん
一級建築士事務所 OfficeYuu 代表
住宅リフォームコンサルタント

本名は尾間紫(おま・ゆかり)。一級建築士、インテリアプランナー、インテリアコーディネーターなどの資格を持ち、これまで多様な住宅リフォームやインテリアの相談、プラン設計、工事にかかわる。一般の人向けには、業者選びからプランの立て方までを各種メディアで発信。一方、事業者向けにも、お客様が本当に満足するリフォームを実現するノウハウなどを研修やセミナーで提供している。

 

効率化の先にある生活の質の向上に着目を

──家事ということでは、キッチンも一つのポイント。どんなことに気を付ければいいでしょうか。

【Yuu】時間がなくて料理までなかなか手が回らない、とあきらめてしまっている女性は案外多いですね。でも、住まいの工夫しだいで料理にかかる時間や手間は軽減できます。

忙しくてこまめにスーパーに立ち寄れない女性なら、食材は週末にまとめ買いをしておくことが多くなるでしょう。そうなることを考えて、キッチンのそばに大きな食品庫や冷蔵庫を置くスペースをつくっておけば、食材の管理はぐっと楽になります。そして食品庫が充実していれば、自然と食生活は豊かになります。

家事の効率化や時短は働く女性にとって大切な視点です。ただ、「忙しいから楽に、簡単に」というだけでなく、その先にある生活の質の向上にも目を向けてほしいですね。生活の質が高まれば、人生そのものがより充実したものになっていきます。

──なるほど、ありがとうございます。一方、住まいづくりの具体的な部分では、リビングにこだわる方も多いと思います。トレンドなどはありますか。

【Yuu】リビングは家族が集まり、くつろぐ家の中心ですが、最近ではそこに「食べる場所」という機能が一体化しています。かつてのように「ご飯を食べた後、リビングでくつろぐ」のではなく、「食べながらくつろぐ」のが最近のスタイルになっています。ちょっと低めのダイニングテーブルを置き、そこで食事もするし、くつろぎもするという具合です。1つのスペースが2つの機能を兼ねているので、部屋を広々と使えるメリットもあります。

リビングで注意したい点は、とても散らかりやすい場所であるということ。その理由は、物が多いのに収納がないからです。対策としては、棚を1つ設けて、家族それぞれの私物の収納スペースをはっきりさせるのがお勧め。日常的に使うものを自分の部屋まで取りに行かなくてすむので便利です。

──そのほか、家の掃除をしやすくする工夫があればお願いします。

【Yuu】一つはお掃除しやすい設備や建材を選ぶこと。小さなお子さんのいる家なら、フローリングを漂白剤に強い素材にしておく。そうすれば、そそうのあったときも消毒を兼ねた掃除ができますし、ペットも飼いやすいでしょう。

2つ目はお掃除の邪魔者をなくしておくこと。例えば敷居があると、そこで掃除機が引っかかったり埃がたまったりしてしまいます。そこで、クローゼットの扉なども上吊り式にする。これなら、中まで一気に掃除ができます。

こんなふうに、住まいを一つ一つ見直していくと掃除の手間を減らし、余った時間を自分のために回すことができるようになります。

──最近はスマートハウスのようなエネルギー関係の話題が増えています。注目点はありますか。

【Yuu】2016年から、家庭向けの電力の自由化がスタートし、自分や家族の生活スタイルに合わせて、好きな事業者から電気を買えるようになります。そうした中で、HEMS(ヘムス。Home Energy Management System)は一つの注目ですね。これを使って、自宅の電力使用データなどを管理することで、より安価な電気などを選んで購入することもできるようになるでしょう。

一方、自宅で発電をするさまざまな設備などはすでに人気。今後の家づくりにおいては、エネルギーに配慮した設備や機器を選ぶか、選ばないかではなく、何を選ぶかがテーマになるでしょう。

話を聞いてくれるパートナーを選ぶ

──家づくりのパートナー選びのコツは何かありますか。

【Yuu】話をきちんと聞いてくれるかどうか。これが一つの見極めポイントになります。将来どんな暮らしをしたいのか、どんな家族構成で、住まいの悩みは何なのか……。そうした話に対する受け答えで相手の力量が見えてきます。

実際に家を建てた人やリフォームをした人にお話を聞くと、最初は工事の値段に注目していたのに、「じっくり営業の人と話をしていくうちに、何が必要なのかわかった」などとおっしゃいます。

私は「家づくりのパートナー選びは、婚活と一緒」とよくお話しします。外見や経済力も結婚相手を決める際の大事な要素には違いないけれど、やっぱりそれだけではなく、相手が自分の人生に幸せをもたらしてくれるかを考えるでしょう。家づくりのパートナー選びでも、ぜひ、そうした視点を大切にしてほしいと思います。具体的に事業者を決めるに当たっては、やはり複数の会社を比較検討することが重要です。3社程度を目安に声をかけることをお勧めします。

──最後に、これから家づくりやリフォームを考えている人たちにメッセージをお願いします。

【Yuu】家は、人生を大きく変えてしまうくらいの影響力を持っている。このことをあらためて認識してほしいと思います。例えば子ども部屋の位置やつくりが子どもの自立のスピードに、勉強場所のつくり方が子どもの集中力養成に大きく影響するといわれています。また、室温の寒暖差が少ない家は病気になりにくい、というデータも存在します。

初めにお話しした「+α」の付加価値ということでは、それを実現するさまざまな技術や設備、機器がすでに数多く登場しています。それらを上手に使い、あなたの人生にぴったりの素敵な住まいをつくってほしいと思います。

働く女性が押さえておきたい住まいづくりの4つのポイント

01 キッチン

ある料理研究家の自宅のキッチンには、中身を一目で見渡すことができる食品庫と食器棚が設置されている。こうすると献立を考えやすいから、というのが主な理由とのこと。中身がわかり、出し入れがしやすければ手間もかからない。奥行きや扉の工夫をするだけでも手間を省くことができる。

02 リビング

食事スペースと居間を仕切らないリビングダイニングはかねてより人気の間取り。家族のコミュニケーションも増える。広いリビングダイニングは魅力的だが、そこで過ごす時間が長くなれば、家族それぞれの私物が持ち込まれることも多くなるため、収納面の配慮も必要だ。

03 掃除

最近は、自動で洗浄する機能が付いたトイレやバスタブも登場している。これらの設備を導入することで掃除にかかる手間と時間を減らすことができる。また、クローゼットと部屋や廊下の間に段差があると掃除がしにくいので、クローゼットの扉を上吊り式にして段差をなくしてしまうという工夫も有効。

04 エネルギー

省エネ、創エネ、蓄エネなどの技術が進歩し、その活用しだいで経済的なメリットも手にできるようになっている。例えば、電気を使うところで発電する自宅用のシステムなども着々と普及中。最新の機器や設備の導入は、エネルギー効率を高めるのと同時に、エネルギーへの意識を高めることにも貢献する。