2人を育てながら働く

野村不動産 都市開発事業本部 ビルディング営業二部 宇佐美直子さん

住宅の営業を続けていた私に、キャリアとしての転機が訪れたのは入社から6年目のことでした。その年の上席との面談の際、何となくの会話の流れで「いつかは子どもを持ちたいと思います」と話したんです。そうしたら、次の4月にビルディング営業部へ異動になって――。

住宅の販売の契約はどうしてもお客様のお仕事が終わった夜になりますし、土日がいちばん忙しいので休みは平日です。今でこそ女性の働きやすい環境が整備され始めていますが、当時は時短制度もなかった頃。上席としては、その方が子どもを育てながら働きやすいだろう、という配慮だったのだと思います。

そういう何気ない会話が人事につながってくるのですから、会社というのは面白いものですね。私はこれを「産んでも働き続けなさい」というメッセージとして受け取ることにしました。自分という人材が、会社に大切にされていると感じましたから。

結局、私が1人目の子どもを産んだのは30歳のときでした。2年後に2人目を産んだので、以来、子育てをしながらテナントビルの営業を続けてきたことになります。子育ては双方の両親の手を借りながら、夫婦で助け合ってきました。ちょうど同じ時期に夫が現場に出る記者からデスクとなり、夕方から深夜にかけての仕事になったのも幸運でした。なので、子どもが熱を出して保育園から連絡があっても、昼間は彼が家にいたので何とかやっていけたんですよ。

出産後は別人のような働き方に

子育ては自分自身の働き方だけではなく、仕事に対する姿勢そのものを大きく変えたと思っています。まず、保育園のお迎えがあるので、昼間に仕事が終わらなくても夜にやればいい、といった考え方が全くできなくなるわけです。私の場合は午後6時半頃には必ず仕事を終わらせる必要がありました。そのため「今日はこの仕事があるからお昼はデスクでおにぎりにしよう」「今週までにあの資料をここまで作っておかないといけない」というように、1日単位、1週間単位で仕事の進め方をきっちり考える癖が付いたんですね。

仕事を効率的にやらざるを得ないので、いろんなことを同時進行でこなすようにもなりました。時間が有限だという意識が強まったことで、働き方は以前とは別人のようになりましたね。スケジュール帳を見て「ここで15分あればレポートが1本書ける」と物事を分単位で考えるようになった。お客様や業者さんとの交渉が難航しそうになっても、「また次の機会に話し合いましょう」ではなく、その場できっちりと結論を出す。止むにやまれぬことであったとはいえ、1つの仕事の区切りをきちんとつけるようになったことは、結果的に仕事にとても良い影響を及ぼしたと感じています。

目標は、無理をしないこと

今から振り返ると、子育ても仕事も同じように、自分は目の前にあることを夢中になってやってきただけなんだ、という思いがあります。そのなかで、今後の課題として感じているのは、人に仕事を任せていくやり方を勉強していくことですね。幸運にも会社派遣でMOT(Management of Technology)に通っているところなんです。プレーヤーからマネジャーになったいま、自分の持っているこれまでの経験値を棚卸しして、バラバラになっているその経験をアカデミックに統合する。そうして経営やマネジメントの手法を論理的に語れるようになることが、次のステップだと考えているからです。

その中で特に心がけていきたいのは、決して無理をしないこと。私自身は全く意識していなかったのですが、女性の部長職は初めてということもあって、この役職について以来、社内の後輩たちから「宇佐美さんが道ですからね」と言われるようになったんです。これは私にとって、思わぬ責任を感じる事態でした。

だからこそ、無理をして「宇佐美さんだからやれている」と周りから思われるようなことを、してはならないと強く思うようになったんですね。この仕事が私じゃなくてもできることを示していくことも、次の世代への自分の役割。そのためにはなるべく無理をせず、等身大でやれることを精いっぱいやる。そんな姿勢が大切だと思っているんです。

●手放せない仕事道具
メジャーと三角スケール……打合せのときに建築スタッフが三角スケールで図面を測っている姿がかっこよくて、憧れて持つようになりました。疑問を持った時にすぐに測れるので、仕事もはかどる必需品です。

●ストレス発散法
泳ぐ…
小さいころから泳いでいたので、週に1回は泳がないと体調が悪くなる。

●好きな言葉
「空を見るゆとり」……女子高時代の体育祭のスローガン。ものごとがうまくいっていないときって、不思議と下ばかり見ているんです。空を見るくらいの心のゆとりを持っていないと、平常心は保てない。朝通勤のときに、「空を見るゆとり」とつぶやいて、晴れた空を見上げると、今日も頑張るぞ、と思えるものです。

野村不動産 都市開発事業本部 ビルディング営業二部 宇佐美直子(うさみ・なおこ)
1993年野村不動産入社。分譲マンションの販売を経験後、99年ビルディング営業部に異動。2000年に第1子、02年に第2子を出産。09年よりPMOシリーズに携わり、13年よりビルディング営業2部長に就任。同社初の女性部長となる。