ビル営業で15年

野村不動産 都市開発事業本部 ビルディング営業二部 宇佐美直子さん

私は、当社が展開するオフィスビル事業『PMO(プレミアム・ミッドサイズ・オフィス)』シリーズのテナント営業を担当する部署の部長を務めています。

PMO事業は、中小企業向けのオフィスを展開する部署です。2008年にスタートして今年で17棟。テナントも100社を超え、おかげさまで稼働率は100%の状況が続いています。

私はビルの営業を15年以上続けていて、この事業にも第1号物件から携わってきました。普段の営業の中でも強く感じてきたのですが、20~40人規模の会社さんによる50坪や100坪のオフィスの需要ってすごく多いんです。でも、世の中にはその規模の良質なオフィスビルが昔から少なかったんですね。

例えば、六本木ヒルズやミッドタウンの1階にはセキュリティゲートがあります。ここ数年は特にそうですが、いま中小規模で業績が好調なのは、IT系でもメーカー系でも技術力の高い企業が多い。そうした方々からは、あらゆる意味でセキュリティに対する要望が強い。

そこで1階にセキュリティゲートを設け、室内のデザインや防犯・防災設備についても、スペックの高い中小規模のビルと作ろうと始まったのがPMO事業でした。事業成長に伴い2年前に課から部に昇格、引き続き責任者として働いています。

アルバイトと間違われたことも

この時期に「女性初」の部長職となったのは、ようやく社内にもそのタイミングが来たということなのだと捉えています。

というのも私が入社した平成5年は、女性総合職の採用が始まって3期目でした。私の代は4人で、1つ前は6人、最初が8人。その後は景気の影響でゼロ採用が続いたんです。その頃に採用された女性の総合職の社員が、社内で初めて管理職から部長クラスになる年齢になってきたんですね。

私が不動産業界で働きたいと思ったのは、地元の浦和市(現・さいたま市)から都心の大学の法学部に通っていたときのことでした。当時は沿線の駅の再開発が進んでいた時期。郊外の広い土地を開発するのではなく、すでに出来上がっている都市の装いを新たにする仕事というのは、なんだか面白そうだなって思ったんです。同級生たちの多くは銀行や商社の一般職を選んでいましたが、あえて女性の少ない職場で頑張ってみたいという思いもあり、ちょうど募集のあった野村不動産を受けたんですね。

最初に配属されたのは分譲マンションの販売営業の部署。以来、6年間にわたって住宅の営業を続けることになりました。

何しろ女性総合職の採用が始まったばかりですから、当然、職場はどこに行っても男性ばかりです。でも、この会社には当時から男女の区別のない雰囲気があって、居心地がとてもよかったんですよ。配属の初日から「道路許可申請をとってこい」と上席に指示され、「分からなかったら自分で調べろ」といった社風。電話や訪問営業もすれば、着ぐるみを着て商店街を練り歩いたこともありました。その全てが新鮮でおもしろかったんです。

物件によっては5000万円以上するマンションや戸建ての販売担当ですから、お客様が大会社の重役だったりすることもあります。そんなときも先輩をあてがわれることなく、最後まで1人で担当させてもらえることにも、強いやりがいを感じましたね。

ただ、一方で資金の相談から最後の契約まで女性が担当することはまだ珍しかったので、お客様からはモデルルームを案内するアルバイトだとよく思われていました。なので、名刺に「宅建主任者」と記入するなどの工夫をしたこともありました。

女性をハンデに感じたことはない

でも、そのことをハンデだと感じたことは実はないんですよ。むしろ「そう思うでしょう? アルバイトじゃないんですよ」と笑って、話の取っかかりを作る。きちんと丁寧にお話をしていけば、お客様には必ず信頼してもらえるものです。最初の反応のギャップを楽しむくらいの気持ちに徐々になっていきました。

それに住宅の営業では、自分の体験がとても役に立つんです。私は入社3年目に友人の紹介で出会ったスポーツ紙の記者の夫と結婚し、マンションを購入しました。ご夫婦やこれから結婚しようというカップルの方に、自分がその際にどういう基準で物件を選んだかなどを伝える。セールスマンのトーク集ではない実体験に基づいた話をきっかけに、お客様の目が真剣になっていくという体験を何度もしたものです。

入社して5年目の頃には、ファミリー層向けではない2LDKの多いマンションを売るために、「女性による女性のためのマンション購入講座」というセミナーを企画したこともありました。

これは仕事の中で実感していったのですが、当時のモデルルームには女性が1人で気安く入れないイメージがあったんです。部屋の紹介が終わると奥から強面のおじさんが出てきて、強引に営業されるんじゃないかという不安がある。そこで「ご安心ください、この時間は男性営業マンは1人も出てきませんから」とセミナーを開いたんです。

今では野村不動産のプラウドシリーズにたくさんの女性がかかわっているように、本来、住宅の販売と女性社員は相性がいいんです。お客様もご夫婦なら半分は奥様が権限を持っています。だから、「あのご夫婦は奥様がキーだから、宇佐美いってくれ」と現場では女性であることが役に立つこともありました。

野村不動産 都市開発事業本部 ビルディング営業二部 宇佐美直子(うさみ・なおこ)
1993年野村不動産入社。分譲マンションの販売を経験後、99年ビルディング営業部に異動。2000年に第1子、02年に第2子を出産。09年よりPMOシリーズに携わり、13年よりビルディング営業2部長に就任。同社初の女性部長となる。