家計簿をつけ、節約を続けても、なぜお金は思うように貯まらないのか。ファイナンシャルプランナーの橋本絵美さんは「必要なのは、過去の支出を反省することではなく、将来から逆算して家計を組み立てる“家庭経営”の視点だ。コンビニ通いが習慣だった相談者の夫は、将来の家計を見える化することで、改心した」という。家計を無理なく立て直す方法とは――。
コンビニで立ち読みするビジネスパーソン
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お金が貯まらないのは、努力不足のせいではない

毎日仕事と家事、育児と目の前の生活を回すことで精いっぱい。毎月の収入の中で家計管理を頑張っていても、物価は上がるばかり。教育費は膨らみ、将来には漠然とした不安がある。そんな感覚を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。

毎日一生懸命働き、やりくりをしていても、老後の不安が消えないのは、あなたの努力が足りないからではありません。家庭において“経営”という視点が抜けているだけなのです。

“経営”という視点を持つということは、会社を経営するのと同じように家庭を見ることです。会社は事業を行って収入を得ます。そのために事業計画を立て、支出と収入の計画を立て、実際に事業を行って収支を算出し、軌道修正しながら次の計画を立てていきます。

家庭という小さな組織の中にも経営の視点を加えることで、現役世代から老後まで戦略的に人生を設計することができます。

将来の見える化が家計に効く

企業が数十年先を見据えて「事業計画書」を作成するように、橋本家でも「ライフプラン」を作成しています。いつ、どこで、どれくらいの資金が必要になるのかを見える化することで、漠然とした不安ではなく、具体的な課題がわかるからです。

まずは、家族の年齢とライフイベントを書き出します。子どもの進学、住宅購入、メンテナンス、退職、老後の生活を書き出し、必要資金を書いていきます。これにより、家庭という組織がいつ勝負時を迎えるのかがはっきりと見えてきます。

【図表1】山田太郎さん(仮名)一家のライフプラン
子どもの進学、受験、住宅取得なと、生活を書き出し、年ごとの収入の見込みや必要経費を書き出していく。

わが家では、当初は子どもたちの進路はすべて公立学校を想定して計画を立てていました。ところが長男が小3の頃「中学受験をしたい」と言い出しました。そこで私はすぐにライフプランをつくり直しました。

ここで「無理だから」と切り捨てないのが経営視点です。私立中学進学という目標を達成するために、どれくらい世帯年収を上げ、どれくらいの利回りで資産を運用しなければならないか。具体的な数字を計算し、実行に移しました。

コンビニ通いを止められない夫の改心

長男が私立に行くとなれば他の兄弟も続くことになるでしょう。でも教育費がピークを迎える時期がわかれば、今の備えは苦しい我慢ではなく、勝負所へ向けた戦略的な準備になります。事業計画があることで未来から逆算して、今取るべき行動を明確にすることができるのです。

子どもの私立受験に伴って、私立に入学するごとに月10万円追加で必要ということになりました。主人はサラリーマンで簡単に収入を上げることは見込めないので、扶養の範囲内でしか働いていなかった私の収入を子どもが入学するごとに月10万円ずつアップさせればよいと考えました。つまり、最終的に月手取り60万円になるように収入アップさせていかなければならないということになります(現時点で子どもが6人いるため)。

ただ、そう考えたからといって必ずできるというわけではないので、私立に行くかもしれないと考えた直後から早急に収入アップのために相談等の受注件数を増やし、仮に60万円に届かなくても事前の貯蓄で賄えるように私の収入を全て投資にまわし続けました。

私のクライアントにも、実際に経営マインドで家計を見るようにして、資産を大幅に上乗せする資金を捻出したご夫婦がいます。コンビニ通いの習慣のあるご主人に悩む奥様が、ご主人を連れて相談に来られました。経営マインドとして家庭の事業計画書であるライフプランを作成し、今後の見通しを数値でみることができたこと、また投資の効果をご説明したところ、ご主人が自分からコンビニ通いをやめると宣言。

また、通信費の見直しもずっとしぶっていたのですが、投資に回したほうがいいと思われたようで、ご夫婦で格安SIMに変え、併せて月2万円ほど削減し、つみたて投資することができました。月2万円を15年間運用したら、利回り5%で534万円になる計算なので、かなり大きいですよね。

家計簿は「過去の記録」にすぎない

多くの家庭でつけられている家計簿は、いわば「過去の記録」に過ぎません。何にいくら使ったのかを振り返ることは大切ですが、それだけで未来が変わるわけではありません。「今月も赤字だった」「また使いすぎた」と思っても、翌月にはまた同じことの繰り返しでは、家計をコントロールしているとは言えません。

6人の子どもがいるわが家では、部活の遠征費、模試代、突然の集金など、家計簿をつけているだけでは、その度に「今月も大変だった」とため息をついて終わってしまうでしょう。そこで橋本家で実践しているのが、紙一枚のやりくり表です(参照:「年1回・紙1枚に書くだけでいい…お金が貯まらない家庭の“ムダ遣い”を洗い出す『超シンプルやりくり表』の中身」)。月々の生活費だけでなく、年間の教育費やイベント費などを全て洗い出します。つまり、「過ぎ去った過去」を追いかけるのではなく、「これから来る未来」を見越して今日のお金の使い方を決めるのです。

行き当たりばったりの家計を変えればいい

一般的に、家庭で入ってきたお金をその都度必要なものに使い、余れば貯める、足りなければ削るという流れになりがちかと思います。でも会社経営は違います。まず「何を目指すのか」というビジョンを決め、そのために必要な予算を先に決定します。家庭経営においても同じように考えてみてください。教育に力を入れるのか、老後の安心を厚くするのか。

わが家にとっての優先順位を明確にし、必要な金額を先取り貯蓄する。そのうえで今使ってよいお金を各項目ごとに予算立てをして、生活をします。お金を使う順番、予算を立ててから使う、貯める順番に変えるだけで、“行き当たりばったりな家計”から“戦略的な経営”に変わります。

前述したようにわが家では、子どもが希望する進路にすすめるように経済的基盤をつくるという目的を、ビジョンの一つとして持っています。6人全員が私立に進学したいと言い出しても大丈夫なように資産形成をしています。

また、毎月かかるわけではない費用をしっかり確認することが大切です。わが家で予算表としている「紙1枚やりくり表」の特徴の一つは、毎月かかる費用と、1年間にかかる費用とを分けたうえで、一目で両者がわかるように並べていることです。これによって、毎月かかる費用と、そうでない費用をしっかり確認することができます。

【図表2】予算表としての「紙1枚やりくり表」

書き出せば優先順位が見えてくる

わが家にとっての優先順位は、やはり一番に教育費となります。子どもが全員、私立中学校、私立高校を希望することを想定して、今から蓄えをしています。予算表の図(図表3)で、月の出費欄の最下段にある「生命保険(掛捨)」「生命保険(貯蓄)」、「NISA・iDeCo」、「先取り貯蓄」の欄がそれです。まず、この欄で、月収のうちいくらを貯蓄に回すかを最優先で決めます。

【図表3】優先的に決めるのは貯金の部分
予算表の最下段にある赤く囲んでいる部分が毎月の貯蓄部分。まずこの部分の金額を決めてから、他の出費額を決める(※金額は実際の橋本家の予算とは変えています)。

優先順位の最も高い将来の教育費のための「貯蓄」額を決めてから、他の出費の額を決めていきます。それが、「行き当たりばったりの家計」から、「戦略的な経営」に変わるということを意味します。

【図表4】最優先を決めたあとの出費
毎月の出費額と、年の出費額は、教育のための貯蓄を決めたあと、残りの金額で決めていく。(※金額は実際の橋本家の予算とは変えています)

場合によっては、必要な貯蓄に見合うために、収入を増やす工夫までしてみます。それが、家庭経営の視点に基づく生活設計です。基本的な予算という骨組みを作っておけば、状況が変わったときにも、軌道修正することで対応できます。こうすることで、やりくりに対する漠然とした不安がなくなるのです。

「収入を増やす」だけが正解ではない

家庭経営において、家事はとても重要な仕事です。毎日家事に追われている、家事は負担だという方も多いでしょう。多くの家庭では「自分でやればタダだから」と、家事のすべてを自前で抱え込んでしまいがちではないでしょうか。

仕事から帰って山のような洗濯物を畳み、献立に悩みながら台所に立つ。時間に追われて心身を削り、将来の計画を立てる余裕まで失ってしまったら、家庭経営においては本末転倒です。

ここで取り入れて欲しいものが時短家電と言う名の設備投資です。時短家電を単なる贅沢品や余計な出費と捉えるのは、大きな間違いです。むしろ、家庭という組織の生産性を高め、家族の笑顔を守るための「投資」と考えるべきだと思います。

昭和30年代、「三種の神器」と呼ばれた白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫、その他にも掃除機、炊飯器、アイロンは、家庭に彩を加え、主婦を家事の苦役から救い出しました。これらは単なる家電ではなく、家庭を近代化させるための「設備投資」だったのではないでしょうか。橋本家で導入しているものはドラム式洗濯乾燥機、食洗機、ホットクック、ロボット掃除機です。現代では更に進化したこの新・四種の神器をぜひ導入していただきたいと思います。

家事を「根性」や「自己犠牲」で回すのは損

これらを導入する際、数十万円という価格を「高い」と感じるかもしれません。しかし、家庭経営の視点で投資効果を考えてみてください。もし40万円の投資で5年使えば1日あたりのコストはわずか200円ほど。橋本家では時短家電の導入で1日2時間の時短ができていますので、時給1500円だとすると3000円かかるところが、1日200円で家事を代行してもらえます。

家電は高額ですが、費用対効果はとても高いです。急に案件が入っても、ホットクックに食材を投入し、スタートして案件先に向かえば帰ったころにはご飯ができていて助かったということが何度もありました。

高機能な家電という有能なスタッフを雇い、自分の時間を確保する。そうして生まれた余裕を、子どもとの時間や自分の勉強やリラックスの時間に充てることで、家庭の経営体力は確実に底上げされます。家事を「根性」や「自己犠牲」で回すのはやめて、投資によって賢くシステム化することが家庭という組織を安定して運営し続けるための原動力になるのではないでしょうか。

「在庫」は抱え込まないほうがいい

企業の経営において、倉庫に眠る大量の在庫は経営を圧迫する要因となります。実はこれは家庭でも全く同じです。安売りのときに買い溜めた日用品、棚の奥で期限が切れた調味料やいつか使うかもしれないと取ってあるモノたち……。これらは家の貴重なスペースを奪い、管理するための時間と労力を削り続ける負の資産です。

家庭経営の視点で見れば、モノを持つことは常に「管理コスト」が発生することを意味します。モノが多ければ多いほど、探し物をする時間は増え、掃除の難易度は上がり、似たようなモノをまた買ってしまうという二重投資のリスクも高まります。こうした目に見えないコストを徹底的に削減することは、効率的な家庭経営の第一歩となります。

家庭内の在庫を一度すべて棚卸しし、不要なモノを手放して、今の自分たちに本当に必要なモノだけを厳選しましょう。モノが減り、空間に余白が生まれると、生活が快適に、楽になります。

まとめ
家庭に“経営”マインドを取り入れることの有用性をご理解いただけたでしょうか。子育て、家事、仕事とやるべきことが多岐にわたる現代では、戦略的に家庭経営をしていくことが、希望のライフプランを叶える鍵となるでしょう。経営視点を持つことは、決して生活を切り詰めることではありません。経営マインドを持つことで行き当たりばったりな人生ではなく、どこに資本を集中させ、どこを効率化するかを自分自身で決めることができるようになります。このマインドさえあれば、物価高や社会情勢の変化に右往左往することなく、将来を見据えてどっしりと構えていられるのではないでしょうか。