国民が知る間もなく、ひっそり成立
2026年6月19日、日本中がワールドカップや大谷翔平のホームランに沸いている最中に、ほとんどの国民が知らないまま、ひっそりと「郵政民営化改正法」が成立しました。
おもな改正点は3つあり、①「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」の2社の株の3分の1超を「日本郵政」が持つこと。②郵便局を維持するために公金を投入すること。③日本郵便の本来業務に、自治体からの受託業務を追加すること、などです。
なかでも、多くの人が違和感を感じるのが、2つめの「郵便局を維持するために公金を投入する」ということではないでしょうか。その額は毎年650億円にもなるといいます。
これまでも金融機関が破綻状況に陥ると、一時的に公的資金を注入して立ち直らせ再出発させることはありました。ただ、今回の場合は、それが今後毎年、継続的に行われていくということで、しかも法律には“650億円”とは明記されていないので、この額がさらに膨れ上がる可能性もあります。
なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか。
不祥事のデパートと化した郵便局
郵便局を巡るトラブルが、後をたちません。
リスクを取れない高齢者に保険や金融商品を無理やり売りつけたり、手数料目当ての不当な保険契約を繰り返したり、保険金の不払い、顧客情報の不正流用、客の貯金の着服、ドコモ口座からの不正引き出しなど、数え上げたら枚挙にいとまがありません。
2026年6月には、日本郵便の元社員が贈収賄容疑で再逮捕されています。それだけでなく、過剰なノルマに追われた自爆営業(ノルマ達成のために自腹を切る営業)や、人手不足による長時間労働、上司によるパワハラ、自殺や突然死、過労死などで、一部からは「ブラック企業」とさえ言われています。
さらには、社内調査で郵便局員のロッカーや自宅から届けられなかった郵便物が大量に発見されたり、郵便物がシュレッダーにかけられていたなどの事件があったにもかかわらず約6割が公表されていなかったり、配送ミスや苦情に対して委託業者(フリーランス等)から不当に高額な違約金を徴収していたなどという、組織のコンプライアンスやガバナンス(統治能力)が問われる問題も噴出しています。
なぜ、こんなとんでもない不祥事が、次から次に起きる組織になってしまったのでしょうか。
「郵政民営化」で追い詰められた郵便局
「自民党をぶっ潰す」と言い放ち、2001年に自由民主党総裁選で圧勝した小泉純一郎元首相が掲げた「聖域なき構造改革」の目玉は「郵政民営化」でした。
2004年の所信表明演説で「郵政公社には40万人の職員がいるが、郵政事業は公務員でなければできないのか?」と、あたかも民営化すれば40万人の公務員の給料を税金で賄わなくてもいいような幻想を振り撒き、民間になれば法人税を支払うのだから、国の財政健全化に寄与するとまで言い放ちました。
ただ、これは大嘘。
なぜなら、郵政公社で働く40万人は公務員ですが独立採算だったので、給料には1円の税金も使われていませんでした。当時、国会でこれについて問われた竹中平蔵郵政民営化担当相も、「直接投入されている税金はないと承知しています」と答弁しています。
それどころか郵政事業は官の事業にしては珍しく儲かっていて、逆にその儲けを「国庫納付金」として国に納めていました。民営化前の4年間(2003年〜2007年)に、郵政公社が国に納めた「国庫納付金」は、なんと約9600億円でした。
確かに、民間ではないので法人税は払っていませんでしたが、民間の法人税が当時は利益の約4割だったのに対し、公社が国に納める「国庫納付金」は利益の約5割。つまり、法人税よりも多くのお金を国に納めている、国の事業の稼ぎ頭でもあったのです。
ではなぜ国の優良事業だった郵便局を、大嘘までついて「民営化」したのでしょうか。
6200億円をドブに捨てた、雇われ社長
そこには、アメリカと銀行業界からの圧力があったと言われています。
アメリカは、郵便局が持つ貯金と保険360兆円を狙い、1994年から「対日年次改革要望書」で郵便局の民営化・市場開放を求め続けていました。また銀行業界は、親方日の丸の巨大金融機関「郵便局」を民営化で弱体化させ、自分たちのビジネスチャンスを広げたかった。
実際に民営化後、アメリカの生命保険会社アフラックは全国2万4000店の郵便局ネットワークを利用してがん保険の販売をはじめ、銀行も郵便局で投資信託が販売できるようになり、両者には大きなメリットがありました。
さらに、選挙で勝つには、悪をぶった切る正義の味方を演じる小泉劇場で、足を引っ張る悪者が必要だった。それが「郵政民営化」に反対する「抵抗勢力」で、ここに「刺客」を立て、批判を集中させました。
結果、2005年の衆議院選挙は「郵政民営化に是か否か」のワンイシューで戦われ、自民党はそれまでの212議席を大きく上回る296議席を獲得。選挙から1カ月後に「郵政民営化法」が成立しました。
優良事業がみるみる赤字に転落
ところがその後、民間企業となったにもかかわらず郵政グループは政争の具となり、国が関与し続けたために利益が上がらなくなり、民間からも優秀な経営者は来なくなりました。
たとえば、2013年に鳴り物入りで民間から社長になった西室泰三氏は、見通しの甘さから約6200億円で買った豪州のトール社を、最終的には約7億円で売却。西室氏は、不適切会計問題などで、世界の東芝を破綻寸前にまで追い込んだ張本人でもありました。
結果、日本郵便(連結)は大黒柱の郵便・物流事業で赤字を続け、営業損益は2022年度211億円、23年度896億円、24年度630億円と惨憺たる状況。25年度は、郵便料金の値上げや貨物の増加で黒字化する予定でしたが、最終的に118億円の赤字となりました。
銀行と保険会社の上納金だけでは足りない
現在、郵便局を支えているのは「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」。2018年に「交付金・拠出制度」が創設され、「郵政管理・支援機構」に対して、民間企業になったはずの上記2社が“上納金”を納めて郵便局を支えることになりました。
その額が、2024年度約3030億円、25年度3207億円、26年度3334億円と年々増え続けていて、2社の経営を圧迫しています。そのため、社員には重いノルマが課され、それが金融商品の押し売りや手数料目当ての不当な保険契約、保険金の不払いなどのモラルハザードの要因の一つになっていると言われています。
しかも、増え続ける赤字をこの2社からの上納金だけでは補いきれず、公金で郵便局を支えようというのが今回成立した「郵政民営化改正法」。
日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の郵政3社の株の配当金や、皆さんが引き出し忘れている郵便貯金を使うというのですが、これらのお金は、本来なら皆さんの生活を豊かにするために使われるはずのもの。ところが、このお金を経営に失敗した郵便企業のツケを払うために使うというのは、あり得ない。しかも、この先ずっと支援額が増えていくかもしれないのです。
ちなみに、この「郵政民営化改正法」案は2025年、石破政権の時にも出されましたが少数与党だったので通りませんでした。ところが、高市首相が2026年2月の衆議院選で圧勝し、巨大与党となったことで、スルっと通ってしまいました。
「権利消滅貯金」でも引き出せる可能性
これからは、郵便局を支えるために「日本郵政」が持つ「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」の配当金だけでなく、満期から20年2カ月が経過して国に没収される「消滅貯金(権利消滅)」も使われます。
2007年10月に誕生した「ゆうちょ銀行」は民間銀行なので、預けた貯金は他の民間銀行と同じで「休眠預金」扱いになり、預金者が気づいた時に申請すれば、いつでも引き出せます。ただ、民営化前の2007年9月末前までに郵便局に預けた貯金は、「郵政管理・支援機構」というところに集められ、基本的には満期を過ぎて20年2カ月経つと、払い戻しの権利がなくなる「消滅貯金」となり、国に没収されます。
今ある貯金の多くは、もっとも満期が長い10年ものの定額貯金です。2007年9月末以前に預けたものなら、満期から20年を迎える2037年9月30日までに引き出さないと「消滅貯金」となってすべて国に没収されますので、注意が必要です。こうした貯金が、2025年3月時点で約3200億円(独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構「令和6年事業年度 財務諸表 郵便貯金勘定」)あります。
今ある貯金については、早く引き出すようにと2013年からさまざまなメディアでの広報活動で周知したり、「催告書」も繰り返し発送し続けています。けれど、発送した「催告書」の8割が、現在に至っても本人に届いていないというのです(独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構担当者)。だとしたら、心当たりがある人は、権利消滅の前に、早急に自分の貯金を引き出しましょう。
古い通帳や貯金証書があればそれで引き出せるし、こうしたものがなくても貯金していた覚えがあるなら、請求者本人の確認ができる書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)を持って郵便局やゆうちょ銀行の窓口に行き「現存調査」を依頼しましょう。相続人が、親や祖父母など亡くなられた方の口座を探す場合には、戸籍謄本なども必要です。
すでに権利が消滅している場合でも、「真にやむを得ない事情」と判断されれば、払い戻しが可能なケースもあります。
たとえば、親や祖父母が内緒で子ども名義の貯金をしていた場合や、貯金していた本人が病気や海外赴任などで物理的に払い出しの手続きできなかった場合、災害などで通帳や証書などの関連書類を消失してしまった場合などです。
心当たりがあるなら、とりあえず郵便局、ゆうちょ銀行の各店舗、ゆうちょコールセンターなどで相談してみるといいでしょう。