老後資金はいつから、どのように使っていけばいいのか。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「老後資金の取り崩しを考えるうえで、何歳まで働くかがポイントとなる。仕事は減らしても、できれば長く働いて資産形成を続けたほうがいい」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーを考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

年金計算
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早期退職をしたい50代女性

人生100年時代。「老後2000万円」というキーワードもあって貯蓄に励む方が多い一方、一生懸命貯めてきた老後資金を、何からどれくらい取り崩していくのか、具体的なイメージがついていない方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、老後資金の「出口戦略」を皆さんと考えていきたいと思います。

最近、早期退職のご相談が増えています。蒲田恵さん(仮名/55歳)は、新卒から30年以上勤めてきた会社のお給料から毎月一定額を投資に回して財テクに励んだ結果、6000万円の資産ができていました。シングルで実家住まいのため、住居費や子どもの教育費といった負担もありません。

「今会社を辞めて、このお金で老後はやっていけるでしょうか」というご相談だったわけですが、「え? 余裕じゃない?」と思いますよね。たしかに資産だけ見れば十分に思えますが、現役時代と“同じ暮らし”をイメージしていると、危ういものがあります。蒲田さんはまさにその一例で、毎月30万円ほどの支出があり、頻繁にマッサージや温泉旅行を楽しんでいたのですが、引退後も同じ生活水準をイメージしているようでした。

「70歳」までは働いてほしい

早期退職を考えている方で、このようなパターンは決して珍しくありません。ただ、早期退職した場合、もらえる年金額も減りますし、歳を重ねれば病気になったり、介護のお世話になったりすることも十分考えられるので、慎重にキャッシュフローを試算する必要があります。

そもそも「老後」とは「いつまで働くか」と表裏一体であり、切り離して考えることはできません。そこで、「老後資金の取り崩し」を考える際のポイントとしてまず私は、「できるだけ長く働く」ことを推奨しています。その目安は、70歳。日本人の健康寿命は70代と言われていますから、そこまで働ける方は、仕事量をダウンサイズしてでも細く長く労働収入を得て、資産形成を続けてほしいと思います。そしていざ70歳以降に資産を取り崩す際にも、「運用しながら取り崩す」ことで、「資産寿命」を延ばすことを意識していただきたいのです。

資産を3つに分類して考える

では具体的に何から取り崩すのか。その出口戦略について、資産を3つに分類して考えていきましょう。

・サテライト資産【積極運用】=個別株、アクティブファンド、ビットコイン、FXなど
・コア資産【安定運用】=インデックスファンド、バランスファンド、個人向け国債など
・安全資産=預貯金

「サテライト資産」とは、国内外の個別株式やアクティブファンドといった、価格変動の大きい、ハイリスク・ハイリターンの資産を指します。「コア資産」は、インデックスファンドやバランスファンド、個人向け国債といった、長期運用で安定成長が見込める資産のこと。インデックスファンドやバランスファンドについては、NISAやiDeCoで保有している方も多いと思います。そして、預貯金といった現金は「安全資産」として区別します。

このようにご自身の資産を3つに分けた上で、出口戦略については、「サテライト資産」→「コア資産」→「安全資産」の順で取り崩すことをおすすめしています。サテライト資産は「攻めの資産」と言われるように、積極的に高いリターンを目指す資産ですが、値動きが大きい資産を老後に持ち続けることはリスクにつながりやすいです。

NISAやiDeCoは運用を続けて寿命を伸ばす

たとえば市場が大きく下がった際、若い時と違って回復を待つ余裕がない可能性もあります。また、資産売却時には判断力の低下も考えられるため、場合によっては、利益が出ているうちにサテライト資産から取り崩していき、安全資産に切り替えておくといいでしょう。

ただ、毎月10万円をサテライト資産から取り崩そうと決めた場合にも、今のように世界情勢が揺れ動くタイミングでは、暴落局面も十分ありえます。そのようにパフォーマンスが下がってしまったタイミングには現金から取り崩す、といったかたちでフレキシブルに対応する必要もあるでしょう。そのためにも、最後の砦として「安全資産」の存在が重要になるのです。

iDeCoやNISAといった非課税で受け取れるコア資産については後々まで取り崩さず、運用を続けて資産寿命を伸ばしていくのがベストです(iDeCoの受け取りは75歳までに開始する必要がある)。

たとえば資産が3000万円あった場合、仮に年利4%で運用することができ、毎月4%以内の金額を使った場合(月10万円)、資産を減らさずに済むという試算があります。なにもせずに毎月15万円使った場合、16年8カ月で資産がゼロになってしまうことを考えれば、少しでもお金を育てながら取り崩す方が、資産が長持ちする可能性が高いです。

コインの山に生えている植物
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「NISA貧乏」の弊害

一方、強い老後不安から「NISA貧乏」に陥っている若い方にもよく出会います。先日、大手メーカーにお勤めの30代女性が、「水道が壊れちゃったけど直すお金が……」と嘆いていたのですが、その方はすでに1000万円以上もNISAで資産形成できているのです。「そんなに大金なの?」と聞けば、「3万円」とのこと。小さくない額とはいえ、水道の修理を渋ってしまうほど、お金のほとんどをNISAに注ぎ込んでしまっていることが衝撃的でした。

積み立ててきた資産を取り崩すことには誰もが抵抗を覚えると思いますが、毎月一定額が入ってくるお給料のようなお金だと、まだ使いやすいですよね。そのため彼女には、「給与みたいな感覚で配当金を好きなものに使ってみてください」とアドバイスをしました。

なぜ私がこんなアドバイスをしたかというと、老後不安が強すぎて節約や貯金ばかりしていると、本当に「お金が使えなくなってしまう」危惧があるからです。

老後不安から引き起こされる「NISA貧乏」ですが、ではいざ本当に老後になって収入が途絶えた時、一体どうなってしまうのでしょう。ますます不安に陥って、結局生涯を通して、お金を使いたい時に使えなくなってしまうのではないでしょうか。

身近な70代、80代を見てほしい

「不安」は知識不足からくることも多いです。「老後のお金が心配だから、今使うのが不安」な方におすすめなのは、身近にいる70代、80代の方の生活を見てみることです。若いうちは気力も体力もあるので活動範囲は広いですし、さまざまな欲もあると思いますが、歳をとると自然と足が遠のく場所が増えたり、グレイヘアに移行したことで美容院代がかからなくなったりと、意外な変化があるはず。

談笑するシニア女性
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その上で、「70代後半だと、いくらあれば生活が楽しめそうかな?」と、年代別に必要なお金を算出してみると、少しずつ不安もほどけてくるように思います。

お金は使うことで経験値が上がるもの。「買わなきゃよかった」も「ちょっと奮発しすぎちゃった」も、何も使わなければ「経験」すらなくなってしまいます。自分は何にお金を使うと幸せかは、経験しないことにはわかりませんよね。また、社会情勢によっては経験すら難しいことも出てくるかもしれません。老後不安の原因を解明しながら、今を楽しむことも忘れずにいたいですね。