「住民税決定通知書」に“誤り”があると損をする
慌ただしい4月、5月が過ぎ、あっという間に迎えた6月。会社員の方のもとには、勤務先を通じて「住民税決定通知書」が届きます。今年6月から翌年5月まで、毎月の給与から天引きされる住民税額が決まりました、というお知らせです。
紙やメールで確認しながらも、年末調整の記憶を遠くに思い出し、「見る気がしない」方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、これは単なるお知らせではありません。年末調整や確定申告を通じて、前年の働き方やご家族の状況、ふるさと納税や住宅ローン減税といった制度が、今年の手取りにどのように反映されたかを確認できる書類です。年末調整や確定申告の答え合わせであり、いわば、わが家の手取りの“燃費”を確認できるチェックツールともいえます。
同じ年収でも、使える控除がきちんと反映されているかどうかで、手元に残せるお金は変わります。所得税の答え合わせは12月に出ますが、住民税についてはこの通知書を見ないとできません。もし通知書にミスがあれば、家計の“燃費の悪さ”をそのままにして、1年間走り続けるようなものですから、もったいない話です。
物価高が続く今だからこそ、使える制度が反映されているかを確認することは、生活の守りを固めるうえで重要です。「年末調整や確定申告はしっかりやったはずだ」と思われる方も、「なんとなく済ませた」という方も。それらが適切に反映されているか、手取りの燃費損につながっていないか。通知書が届いたタイミングで一度チェックをしましょう。
「控除」は反映されているか、見落としはないか
まずチェックしたいのは、ご自身の収入状況と控除の内容・金額です。「所得」欄でご自身の収入状況を確認したら、次は「控除」欄を確認しましょう。
住民税は、おのおのの状況を「控除」を通じて反映し、計算されます。控除には所得控除と税額控除の2種類があります。例えば納税額を積み上げたブロックとすれば、控除は取り外すことができるブロックのようなものです。それぞれを決められたタイミングで取り外すことで、納税額を小さくすることができます。住民税決定通知書ではそれぞれ欄を分けて記載しています。
控除欄では、例えば医療費控除や社会保険料控除、配偶者控除や扶養控除など、所得控除の利用状況をチェックできます。税額欄と摘要欄では、例えば住宅ローン控除やワンストップ特例を利用した場合の寄附金控除など、税額控除の利用状況がチェックできます。年末調整で目にするものも多いですね(図表1)。
ご自身が申し出たはずなのに、載っていないものはないでしょうか。本当は受けられるはずなのに見落としていたもの、金額に違和感はありませんか。ご自身が正しく進めていたとしても、自治体や企業側などの処理過程で漏れが生じることはあります。まずは使えるはずの欄が埋まっているか確認しましょう。
「40代共働き夫婦、大学生と高校生の4人家族」で試算
控除の金額の差は、ちりも積もれば。積み重なって、家計に大きな影響を与えることもあります。ここではプレジデントオンラインの年末調整の記事でも登場した「Aさんファミリー」を例に、うっかりしがちな3つのポイントを見ていきます。
Aさんファミリーのプロフィールは以下のとおりです。
夫(48歳)会社員:年収800万円
妻(47歳)会社員:年収400万円(2年前にフルタイム復帰)
長男(20歳):大学2年生、アルバイト収入は年120万円
長女(17歳):高校2年生
夫はふるさと納税で8万円寄附。
8年前に夫名義で住宅ローンを借りており、年末残高は約4000万円(住宅ローン控除率は1%)
【ポイント① 大学生の長男「特定扶養控除」「特定親族特別控除」】
まず確認したいのは、大学生の長男の扶養に関する控除です。2025年度税制改正の影響が、今年6月以降に届く住民税決定通知書にも表れる部分です。
Aさん夫妻の長男は今年20歳の大学2年生で、アルバイト収入が年120万円ありました。19歳以上23歳未満の子供を扶養している場合、特定扶養控除を利用できます。
改正前は、いわゆる「103万円の壁」。給与収入なら103万円を超えると控除が使えないルールでした。
長男の「アルバイト収入」正しく“伝わって”いるか
しかし2025年度の税制改正により、特定扶養控除の壁が引き上げに。給与収入だけなら123万円まで使えるようになりました。住民税の「特定扶養親族」の控除額は45万円と大きいです。使えれば、年およそ4万5000円の住民税の差になります。
今年度の住民税からは、さらに123万円を超えてもおおむね190万円近くまでは控除が受けられるようになっています。新しくできた「特定親族特別控除」です。これは、特定扶養控除と同じく大学生年代の子供がいる場合に使えるもので、以下のように子供の収入アップに伴って控除額が段階的に減るという特徴があります。壁を超えた先が崖ではなく、なだらかなくだり坂になっているイメージです(図表2)。
書かれている控除額は子供の収入状況によって違っているはずです。使えるのに空欄になっていませんか。控除額は合っていますか。欄の埋まりと金額をチェックしてみてください。子供の収入を正しく伝えられていないと、控除の取りこぼしが発生しやすい構造へと変わっています。
「住宅ローン控除」うっかりで ▲最大13万円超
【ポイント② 住宅ローン控除】
次に確認したいのが、金額のインパクトが大きい住宅ローン控除です。
これは税額控除で、まず所得税から差し引き、引ききれなかった分を住民税から差し引きます。住宅ローン控除が住民税にも適用されているかどうかは、摘要欄で手早く確認できます。
(1)申告を忘れていないか、反映されているか
住宅ローン控除は、住宅を購入した最初の年は確定申告が必要なので意識して行う方も多いと思います。ただ、2年目以降は年末調整での手続きとなるため、勝手が違ってきます。
2年目以降、うっかり出し忘れた……ということは起きていませんか。もし申告を忘れていた場合、Aさんのようなケースでは、住民税分だけでも最大13万6500円の差となる可能性があります。
もし適切に手続きをしていたとしても、しっかり反映されているか、何かの手違いで漏れていないかどうか、改めてチェックしてみてください。
「枠」を使い切れていない可能性もある
(2)枠を使い切れているか
もう一点、今年からは住民税から差し引かれている控除額が「上限いっぱいになっていないか」も確認したいところです。住民税からの控除には上限があり、入居年によって最高13万6500円もしくは9万7500円までと決められています。Aさんの場合は13万6500円でした。
住民税から引かれている金額が上限いっぱいになっている場合、所得税だけでは控除のブロックを外しきれず、住民税側に回ってきているということです。ところが、住民税側で取り外せるブロック数にも限りがあります。
つまり、住宅ローン控除で使えるブロックはまだあっても、所得税と住民税の両方で引ききれず、あまりが出ている可能性があります。
例年なら使い切れていた方も、今年からは要注意です。昨年からの基礎控除の引き上げや収入の壁の引き上げによって所得税額が減ると、所得税から差し引ける住宅ローン控除のブロック数も減少します。結果として住民税側のブロック数の上限にも、届きやすくなっている可能性があります。特にAさんのように扶養控除を2人分使っている方で住宅ローンが4000万〜5000万残っている方なら、年収900万円くらいまでを目安として気にかけた方が良さそうです。
もし住民税からの控除が上限いっぱいになっている場合は、年末にもらった源泉徴収票に書かれている「源泉所得税額」がゼロになっていないか確認してみてください。案外あてはまる方は多いようです。疑問を抱かれた方は、税理士などの専門家にご相談ください。
「ふるさと納税」未申請、負担2000円→数万円に
【ポイント③ ふるさと納税の「寄附額と控除額」】
3つ目は、ふるさと納税の寄附金額と控除額の確認です。
ふるさと納税は、返礼品を受け取りながら一定の寄附額から自己負担2000円を差し引いた金額を納税とみなし、手取りに戻ってくるしくみです。会社員でワンストップ特例制度を利用している場合は、全額が住民税から差し引かれます。
これも摘要欄で手早く確認できます。控除額に2000円を足した金額が、前年に寄附した合計と一致しているでしょうか。数万円単位のズレはないでしょうか。
例えばAさんは、8万円寄附しています。このような場合なら、記載されている控除額は市区町村と都道府県のものをあわせて7万8000円になりますか(計算時に数円程度の誤差が生じることがあります)。
うっかりしがちなのが、(1)ワンストップ特例の申請書を出し忘れた、(2)医療費控除などで確定申告をしたためにワンストップ特例が無効になった、というケースです。もし申告せずに放置すれば純粋な寄附となってしまいます。Aさんの場合、丸ごと取り逃せばその差は7万8000円です。
こちらも寄付金額がしっかり反映されているか、チェックしてみてください。
取りこぼしていたら「最大26万円」の損
ここまでの3つのポイントで、もしAさんが仮にすべてを取りこぼしていたとすれば、図表3のように約26万円の住民税を多く支払うこととなってしまうのです。Aさんの額面年収の約3%を占める金額です。
もし申告漏れに気づいたら、確定申告をすることで5年前までさかのぼって取り戻すことができます。ただ、ご自身が「しっかりやっていた」としても勤務先や自治体でミスが生じることはあります。直近でも“システムの誤設定で、約5700人の住民税額に誤りの可能性がある”と発表した自治体があり、新聞が報じています(埼玉新聞「住民税を払い過ぎた人も?…埼玉・新座市で約5700人の課税額に誤りの可能性 システム業者との連携ミス 税額の増減を再計算し対象者に通知へ」2026/5/30)。
ご自身のケースで具体的な金額や対応に迷う場合は、源泉徴収票や確定申告書の控え、控除証明書などを用意し、問い合わせてみましょう。税理士などの専門家にご相談いただくのが確実です。
「反映されているか」確認し、家計を考えるきっかけに
普段あまり意識することのない住民税ですが、年間を通じれば数十万円負担するケースはめずらしくありません。差し引けるブロック数が正しく計算されているかどうかで、手取りは確実に変わってきます。
「うっかり」で数十万円を取り逃す可能性がある一方、使える制度をきちんと使うだけで年収の数パーセントを守れる可能性があるのです。物価上昇局面では特に、大切な生活防衛の手段となるはずです。
また、通知書から見えてくるのは、税額だけではありません。
例えば、住宅ローン控除があるなら、住宅ローンの返済が家計の大きな支出になっている時期だということ。医療費控除があるなら、まとまった医療費がかかり、家族の健康に向き合った年だったということ。生命保険料控除や扶養控除、寄附金控除にも、それぞれ家族の状況やお金の使い方が表れています。
つまり、どこにお金を使い、何を支えようとしているのかという、家計の柱が映し出されているのです。控除を確認することは、この1年の家族や働き方の変化を振り返り、これからのお金の使い方を考えるきっかけにもなります。
通知書をもらったら、まずは開いてご自身の柱を確認するところから始めてみてください。